アルスは、動悸の激しいキーヴを見て、 「大丈夫か?」 心配そうに、声をかけた。キーヴは、体から出る冷や汗を感じながら、
「一体、陛下はいつそのような事を考えているのですか? オルバス王の死の真相なんて考えているモノなんていませんよ。普通。」
「そうか?では、普通ではないのだな。私は。」 「いや、そういう意味で言ったわけでは。」
「ザベルの企みという結論にたどり着いたのは、最近だよ。それよりも、何故私がこの国に呼ばれたのか?疑問はそこからだ。先に話したように、順当にいけば、家督はデミトリが継ぐ。そうさせなかった真意が別にあると思った。 そして、その真意は、オルバス王から出たものだとな。」
「なぜ?」
「仮にだ、オルバス王でなく、デミトリに王位を継がせたくないとしたとき、その意思を露にするのは誰だと思う?」 「さぁ、誰でしょう?思いもつきませんが。」
「キーヴ、お前だ。」
「私?」
「そうだ。先に言ったように、ザベルはいち早くデミトリに家督を継がせたいと考えていた。 それを邪魔してまで継がせないとしたら、デミトリよりも後に生まれ、才能に秀でたもの。つまり、キーヴお前だ。
生きている人間の中で、その考えが生まれるのは、キーヴか、もしくはフェリシス殿にしか有りえない。 だが、お前は、俺の元に来た。仕える事を良しとした。 家督を継ごうと思う野心家が、俺に頭を下げるとは到底思えない。 では、他にいるという事になる。では、誰か?」
「父上ですか。」
「そうだ。あの状況で、デミトリに継がせたくないと考えている人間は、唯一オルバス王だけなのだ。」 「だから、陛下をノイエに戻した。」
「そう。そして、もう一つの結論として、オルバスが無能な王ではなかったという事だ。 結論だけ言えば、無能という言葉に成り下がってしまうが、 能力だけ取ってみれば、さすがは、我らの父と言っても良い優秀さを兼ね揃えている御仁だと思っている。」
「何故?」
「考えても見ろ。自分の死を知りながら、後の事を考えることの出来た人間だぞ。 無能な奴にそれが出来るとおもうか。
オルバス王は、類まれな優秀な王だったと考えても良い。 だが、人の上に立ち、率先して物事を取り組むという事においては、かなり問題があったと思う。 自分の意思を持たぬ者。
多数決を取り、数の多い方を優先するという事。 例えば、ザベルのように野心をむき出しにして自分の欲望をさらすような発言をされてもそれを覆す策はあれども、 口にすることが出来ない小心さ。 そういった度重なる事実が災いして、おそらく王としても孤立していたのだろう。 だからこそ、それに付け入り、ザベルの望むべき状態になってしまった。」
「毒殺?」 「そうだ。」 「そんな。」
「オルバスは、自分が殺される事ですら知っていたのに、それに逆らわず、自分の子供にそれを託した。 考えようによっては卑怯で、大馬鹿者だが、自分の性格を理解していただけにつらい事だな。」
「そういえば、父上は、元来、比較的温和で、穏やかに事を済ませ、争いごとを人一倍好みませんでした。 平和な世の中だからこそと思っていましたが、そういう性格であったとするならば、納得行く所も多い。 でも、許せません。実の兄を殺してまで野心を成就しようとするその性格は。」
「まぁ、そうあわてるな。憶測が現実になろうとしている。 そして、お前の兄もザベルの計画の中には殺される運命だ。そして私は先ほどそれを露呈した。」
「状況が変わると。」
「そうだ。さぁ、彼らはどう出るかな?」
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