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作品名:ノイエの風に吹かれて 第02幕 作者:xin

第7回   第07章-[目論見]
「事はついでです。ザベルの考える企みについても話しをしましょう。
無論、憶測の域は出ませんが、
ここまでして王位を欲しがる奴の企みとやらにも興味がありましてね。
いろいろと想定をしてみました。

王位の継承は、先に生まれたものが受け継ぐ。それは、正式なる理だ。
オルバスが先に生まれ、ザベルが後に生まれた。
しかし、王位を継ぐという野心は、オルバスよりもザベルにあった。
しかし、オルバスが先に生まれた事実がある以上、オルバスを出し抜いて、王位に告ぐことは不可能。
では、どのようにして王位を継ぐか。
オルバスが死に、実子がいなければ、正当に継ぐことが出来る。しかし、すでに3人の子が跡継ぎとしている。
その時点で跡目を継ぐ事は、理状不可能。では、どうするか。
最も短絡的な方法は、跡継ぎの子を皆殺しにする事。
だが、事故も重なれば、さすがに不信を買う恐れがあり、
自分の地位そのものが危うくなる。

では、皆からの不信を買わず、地位を維持したまま、王位を取るには、と考える。
そこで、出る答えは、実に簡単だ。

最も王位に近い存在である跡継ぎの子を自分の手駒にする。
上辺では、跡継ぎである人間の味方を装い、裏では、自分が実権を握るために画策する。

むろん、時期を見て、跡継ぎの人間には消えてもらい、そっくりその地盤を頂くという策がとりやすい。

そのためには、オルバス王は、邪魔な存在であるのは明確。
早々に死んでもらい、自分の野心を実行させる必要が出てくる。

仮に、私がここに来なかったと想定しよう。
オルバス死後、家督を継ぐは、オルバスの実子で長兄にあたるデミトリが王になる。
そして、デミトリの後見人として、ザベルが付く。順当な流れだ。

そして、家督を継いだ後、1,2年の間は、デミトリの自由な王政がなされる。
せっかく受け継いだ王だ。自分の好きにしたいと血気にはやる。
流行った気持ちを抑える術はザベルにはない。
というよりも他の目論見があるが故にデミトリの事は放置する。」

「他の目論見?」
「キーヴの暗殺。」
キーヴは、その言葉を聞き、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

「デミトリに家督が譲られた時点で、企みの半分以上は成功したと思っていい。
だが、自分が王位に付くにあたり、最も邪魔な存在であるモノを先に消しておく必要がある。

デミトリが王位を退いた後では見え見えだからな。
デミトリが王の状態でキーヴが死ねば、事故死として片付けられる可能性は非常に高い。」

「仮にも身内を間単に殺しますか?それに、何故私を。」

「何を言っている。すでに、実の兄であるオルバスを殺しているではないか。
腹を痛めた子でもない人間に愛着などあるはずも無い。

デミトリが失脚後、最も邪魔になるのは、キーヴ、お前だ。

デミトリに、実子がいなければ、当然次の家督には、キーヴが候補になる。

仮に実子がいたとしても政治を見るほど成人がいるわけでもない。となれば、キーヴが最も確実な候補だ。

まして、キーヴは、王としての資質に恵まれている。それは誰が見ても解るぐらいに。
故に、自分の野心を現実にするには、あからさまに、存在が邪魔になる。
だからこそ、デミトリが王位を継いだ後、ザベルは、キーヴを無き者にする。

方法など何でも良い。要は、王位を受け継ぐ権利を抹消すれば良いだけのこと。
そして、もっとも単純な方法は抹殺すること。

そして、抹殺した後、今度は、デミトリにあらぬ疑いをかけ、玉座から引きずり下ろす。
デミトリを不信がらせることなど旧官僚体制の面子を見れば、たやすいのは、先の反乱戦ではっきりしている。

デミトリを玉座から引きずり下ろせば、後は簡単だ。次の跡目候補となるノリスは、まだ幼い。
政権を見ることは事実上不可能。

とも成れば、後見人の責任として、暫定的という立場を崩さず王位に付く。
もっとも素直で、他から茶々の入りくい方法で、玉座を手に入れられる。それが、ザベルが考えた企みだ。

しかし、そこまでして欲した王位で何をしようと思ったのかは全くわからないが。。。」
キーヴは、呆然とアルスの言葉を聞いていた。


ライラ皇后の顔を見ると、真っ青になった顔で、床の一点を見続けている状況から、
アルスの思惑が、あながち外れていないことを感じることができた。

デミトリも、アルスの言葉に自分の行く末を見た感じがしたようで、青白くなっていた。

アルスは、先ほどと変わらぬ形相で、
「面白いと思いませんか。オルバス王の死の真相。そしてザベルの企み。
いかがですか?母上殿。
まさか、これらのどれかに関わっているということは、ありませんよね??」

ライラは、残った気力を精一杯搾り出し、
「話になりません。そのような戯言に付き合う時間はない。」
そう言い、デミトリを半ば強引につれ、その場を去って行った。

アルスは、冷ややかな顔でそれを見送った。

ライラは、早歩きをしながら、心中はかなり穏やかではなかった。

「なぜだ。なぜ、全てを知っている。ザベル様のお考えになった計画を、知っているのは私のみだったはず。
オルバス王が毒殺された現実が明るみになったら例え、私の命ですら危うい。どうすれば。どうすれば。。。」


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