アルスは、冷静な顔面で、全員の顔を見た後、
「思えば、オルバス王は、私がこのノイエに来たときに崩御された。死因は病死。 だが、元来、オルバス王は病弱な体質ではない。 崩御する迄の半年の間に、徐々に衰弱され、死んだと聞いた。 死んだ後も結局の所、死因もはっきりせずまま、衰弱死という形で終わったと聞く。 仮にも一介の王の立場でありながらこのような不透明な死因を良しとしたのには、疑問が尽きません。一体、何故でしょう?」 アルスは、静かなる声で淡々と話し、他の意見を取るまでも無く話を続けた。
「例えば、オルバス王は、病気によって死んだのではなく、 誰かの手によって意図的に殺されたとしたら? 死因が衰弱死ではなく実は、毒殺されたものだったとしたら? そして、本人は、その事実を理解していたとしたら? 興味が出てきませんか。母上殿?」
ライラの顔が徐々に青白くなっていくのが見て取れた。 アルスは、その表情を無視して、更に、言葉を続けた。
「私は、常々、疑問だったのですよ。なぜ、私がこのノイエに戻されたのか? 家督を継ぐべき子供は、私を除いて3人もいる。 血のつながりを考え、長兄を重んじたのかもしれない。だが、私の存在を知っている者などほんの一部。
そのままデミトリに継がせることなど容易に出来た筈。しかし、私は戻された。 デミトリでは、何故ダメだったのか?疑問は付きませんね。
そこで、仮定を一つ、立てて見ました。 私を呼び戻した張本人は死んだオルバス王ではないか?とね。」
「まさか。」 キーヴは、驚き、アルスの顔を凝視した。
「しかし、陛下をこちらに戻すことは、ワルダの提案によるものだと聞いています。奴が推奨し、オルバス王が受け入れた。」 キーヴはあわてた様に、付け足した。
「元々私を呼び戻すつもりがなければ、わざわざ新たな争いの火種を作る必要は無い。 戻すつもりがあったからこそ、ワルダの発言を受け入れた。 だがそれは、あくまでも建前上の出来事であり、それよりも前から、私を戻す事を考えていた筈だ。
問題は、戻す時期。 元々戻すつもりならば、もっと早くても良かった筈だ。 実際、ワルダの提案はオルバス王が倒れた直後に進言されたと聞いた。
だが、それをしなかったのは、何故か? 例えば、倒れた直後、いや、死を察知した時でも良い。 こういう事は、早ければ早いほど良いにも関わらず、実際に、戻されたのは、死ぬ間際だ。 なぜギリギリまで待つ必要がある?
そこで、出てくる答えとして、オルバス王は、自分が本来望む、ノイエの栄華を汚すものがいる事を周知している。 そして、汚すものに、王の座並びに、政権を取られる事を拒んだ。
仮に、私が、オルバス王が倒れた直後に戻されたならば、時間的猶予の中、私自身抹殺される可能性がある。 だが、時間的に猶予を与えない時期。
つまり、王の死の手前に戻すことにより、敵に余計な事を考えさせない、もしくは、時間を与えない事により、 彼らの考える野望を挫けるのではないかと考えたのではないか。
実際、私は王の死ぬ間際にここに戻され、オルバス王が私に家督を譲る事を皆の前で宣言しこの世を去った。
オルバス王は、自分の死の手前まで、引っ張ることで、正当なる流れをもって、自分が望む者に家督を譲り、 望まない野望を挫くことが出来ると考えた上での行動だったと考える方が納得行く。まぁ、半分は賭けだろうが。」
「賭け?」
「私が、オルバス王の求めぬ人間だったら、どうする? 生まれた子供が親の望む姿に成長しているかどうかなんて、解るはずも無い。 求めぬ人間の野心に付き合わされるぐらいなら、訳の分からない人間に玉座を譲った方が、良いと考えたという所ではないか?
それが、今日に至る結果だ。そういう意味では、オルバス王の賭けは成功を生んだと考えて問題ない。 オルバス王の自らの死も意味を成したわけだ。
では、何故オルバス王は死ななければならかったのか。 いや、死を受け入れなければならなかったのか。
恐らくオルバス王は、王でありながら孤立した立場にあったのではないかと推測できる。 先に言ったような事を選択しなければならないほど王を支えるべき者が身近にはいなかった。
立場が覆ってもおかしくないほど周囲の者が王を軽視し、異なるものを称えていた。 その場から逃げたくとも逃げる事も許されず死ぬ事でしか身を表す事が出来なかった。
そして、自身が近い将来殺される事も自覚していた。だからこそ、身を挺してでも最後の策を労じなければならなかった。 そう考えれば、オルバスの死の真相にも真実味が増すというものだ。」
|
|