戦が終わり6日目になり、朝議の間では、後処理の報告がされた。ベルテからはザベルの城で押収された金銀の総額。ナッシュからは、区画整理や、村人達の数などがそれぞれと。イオからは、残存する反逆者達の経過などがそれぞれ話された。残務処理に参加したという理由で、朝議には、フェリシス皇后も参加した。 目も回る忙しさにも関わらず、アルスがその間、全く仕事をしなかったという事実を3日目ぐらいに気づき、ひどく立腹していた。文句の一つも言わねば、納得できないという顔で、朝議に臨んでいた。
一通りの報告がなされた後、キーヴ、ナッシュが、一歩前に進み、つつましく頭を下げた後、 「陛下抜きで残務処理を行ったことで、全てを無しにしてもらうとは考えておりませんが、今日に至るまでのザベルに関わる所業一反を取りまとめ、自分達の愚かさを骨身にしみて痛感したしだいです。 相手が、王族であったからというだけで、今まで誰も何も言わず黙認してきた結果が今回の漬けであったと認識しています。 意見をいう事もできたのに、いろいろな理由をつけて、結局何もせず、まして何もしない事に良心の咎すら感じなかったこと平にご容赦していたくお願い申し上げます。」 その言葉に家臣一同一斉に頭を下げた。 フェリシスもその言葉を聞き、顔を赤くし、少し遅れて、家臣同様頭を下げた。アルスは、ニコリと笑い、 「ご苦労だった。その言葉をお前達の口から聞けただけで、良い。」 アルスの言葉を聞き、家臣一同内心ほっとした。 「しかし、驚いたな。これほどの財宝がザベルの城に眠っているとは。国土の開発にはあまりある金だな。」 「はい。私も正直驚いています。最優先で国土開発の資金に回すよう算段を。」 「まぁ、待て。今回は、お前らに恩賞を与えたいと考えている。その残りを開発費に回す事にしよう。」 「恐れながら、私は、その恩賞辞退させていただきたい。」 イオは、平伏しながら、そう言い出した。 「何故?」 アルスは、イオに問い掛けた。 「先にナッシュ殿が申されたように、今までのこと恥と理解し、行動をしてきました。今までの漬けを清算できた事で貸し借り無しと考えています。それに、演技とはいえ、王に対しての冒涜を続けました。それらを忘れ、金銀を貰う事など私には出来ませぬ。私は辞退をさせていただく。私の分はレイカや他の諸侯たちにお配りくだされ。」 イオの言葉に続き、ナッシュやベルテも揃って恩賞を辞退した。理由は、イオとほぼ同じだった。それに続き、イオの配下の将軍達や、他のものも揃って辞退を申し出た。アルスは、それを一通り聞いた後、 「はぁー。思慮なき者達は、大馬鹿者というが、お前達にピッタリと嵌るな。」 全員を否定する言葉をアルスは平然と発した。諸侯たちは、それを聞き、自分の耳を疑った。 「ふぅー。全く。ザベルの行為を諌める事が出来なかったお前達に恥を知れと言った。 そしてお前達はその恥を理解し、この5日間。それぞれがそれぞれの役割でことをなした。 それで、清算は既に終わっている。 今までに至った数々の策は私が考え、お前達に実施を命令したものだ。王を愚弄としろと言ったのは、私の策だ。 私の知らないところで愚弄しているならともかく目の前でやっていることに対し、演技と解っていれば、それを恥じる理由がどこにある。 それに、イオや、ナッシュ、ベルテ最高官位のお前らが辞退したら、当然のごとくお前達を慕っている諸侯たちが口を揃えて辞退するに決まっているだろう。 本気で部下を思うなら、貰った後に返すぐらいのことをしろ。そのぐらいの見当もつけられなくてどうする。愚か者が。 今回の件、ご苦労だった。長きに渡る策と、それに見合う行動をここにいる諸侯らは見事にやってくれた。 何せ、表立って王政が出来ないからという理由で、風呂場や、牢獄で政治をする事になるとは露にも思わなかったはずだ。 それに対する報酬はあってしかるべき。お前らが辞退しようが返却しようが、恩賞は渡す。それは、王としての務めだ。王の務めをお前らは、否定するのか。」 アルスの言葉に二の句も継げず黙ってしまった。アルスは、 「ベルテ達財務官と共に協議し、おって恩賞の儀を執り行う。しばし待て。」 そう言うと、財務官達と共に、部屋を出ていった。他の諸侯たちは、ただ、顔を見合わせて困惑していた。 セシル達侍女は、すぐにお茶の用意を行い、諸侯たちに配った。セシルは、 「お茶のお変わりは、たくさんあります。ご用があれば、なんでも申し伝え下さい。」 と大きく張りのある声でそういった。 キーヴは、にこりと微笑みながら器を手に取り茶を一口飲み、 「待つしかないのではありませんか。王がああいった以上我らは待つしかない。 それに、侍女がお茶の用意はたくさんあると言っている。 全て飲み干すまでは待ちましょう。」
「しかし、恩賞を行うよりも先に、後処理があるのではありませんか。 まだ、反逆者の刑罰も決まっていない。」
「まぁ、あわてずに。全ての掃討をする為には。多少の時間も必要です。」 「時間稼ぎですか?では、やはり、皇后を滅するというのですか王は。 仮にも母親であらせられるのに。」 「それは、既に覚悟しています。」 「はい。」 キーヴの強い言葉で側にいた官僚も悟り、静かに茶をすすった。
アルスと財務官達は、別室で恩賞の打ち合わせを行っていた。ある程度が終了し、財務官達は皆が待つ部屋に戻ってきた。待っていた諸侯たちは王が戻るのを察知し、身なりを整え、姿勢を正した。 扉が開かれ、イオがふと、後ろを振り返ると、シグナスを先頭にし、暗部が入ってきた。 シグナスが、前にいくよう促したが、身分不相応と強く拒絶し、最後尾に座り、誰もいない玉座に平伏した。
イオはそれを一部始終見ながら、 「今回の功労者だな。第一功は間違いなく彼らだ。」 独り言のように言った言葉は、周りにも聞こえていた。 その声に促されるように周りの者達も後ろを振り返り、暗部を視認した。 「暗部か。確かに、彼らの活躍が無ければ、これほど早く終結はしていなかったな。」 「暗部よ。前に来るのだ。」 1人の諸侯が暗部を前に来るように進めたが、頑固として動かなかった。 イオはそれを見ながら、 「すぐに、前に来る事になるのに。全く。」 溜息混じりにそういうと、玉座に向かい、暗部同様平伏した。 半時ほど過ぎたが、王が現れる気配すらなかった。たまらず、ベルテに声がかけられた。 「王は何処に?」 「さぁ、先に戻っていろといわれて。どこにいったのか。全く。」 「何をしているのだ。何かあったのではないか。シグナス殿。貴公何か聞いていないか?」 声をかけられたシグナスだったが、クビを横に振るだけだった。
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