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作品名:ノイエの風に吹かれて 第02幕 作者:xin

最終回   第14章-[平定]
「何とも後味が悪いですね。」
「デミトリの事か?」
「それもありますが、オルバス王の死から始まったこの一連の騒ぎ。何とも辛い身内騒動に見えて仕方がありません。」
「理想的国家を作るには、理想どおりの人間だけではないという事だ。」
「はい。あの、兄上、いや、デミトリは、どう処分するおつもりですか。せめて、死罪は免除していただけないでしょうか?」
「悪いが、それは出来ない。というよりも、デミトリは、自分の死を決断している。
それに対し、免除してもあいつの為にはならない。」

「え?」

「あいつは、自分が死ぬ事を選んだ。」
「?」

「見るか?」
そう言い、アルスは、書状をキーヴに手渡しした。書状の中身は、デミトリによる告発分だった。
ライラは、ザベルを牢から出し、央国に行く用意がある事。

今尚、磐石なアルス王政に歯向かい、ザベルを王にすると考えている事。
ザベルを牢から出し、央国に行く日時、経路、手配 など
全ての事柄が、細やかに書かれていた。
そして、手紙の最後には、
“我は、これに加担する。皇子としての自覚あれども、政務につく自覚なし。「民を思う」ただ、一つの理を理解できず。”
と書かれていた。

「これは。」
「自分というものを持てず、結局、ライラの言いなりになる事でしか、自分を示せなかった。
風の民の報告では、偽の使者が現れた後、ライラは、デミトリに泣いて見せたそうだ。そして、それが、ライラの本心で無い事をデミトリは理解した。そして、結末は、これらの全てを白日の元に晒し、死をもって終結させる事でしかないと、決断したようだった。」

「ならば、尚更。」
「ああ、尚更、死なせてやったほうがいい。今ならまだ、あいつはあいつでいられる。
もし、仮に死罪を免れてもあいつは、後ろ盾を完全に失う。王族としてここにいる意味は無くなる。
そうなれば、糸の切れた人形は壊れてしまう。まだ自分のある内に死なせてやるんだ。」

「なんてことだ。」
「デミトリをああさせてしまったのは、私にも責任がある。私がいなかったから、ライラの寵愛は、デミトリに注がれた。
まして、デミトリの母は、ライラによって殺されている事実があると聞いた。
野心の為に、利用され、圧力をかけられ、それに応えようと必死だったんだろう。

そして、自分が利用されていたという事実を受け止めるには、あまりにも辛かったようだ。
枷がなくなり、羽ばたく自由が出来たのに、その自由を生かす力が無かった。

自分の持ちようが何かを葛藤していたようだ。葛藤して、民を思う。
ただ一つの答えを見つけたのに、それをどう動くべきかも解らない。その現実をあいつは理解した。

この状態で、生にしがみ付けば、あいつは、自分を失う。思えば、奴も被害者だ。」

「しかし、アルス王が不在だったのはアルス王の意思ではなく、前王によるもの。陛下が気に病む事は。」

「ああ。解っている。だが、オルバス全ての責任と言う訳にもいかない。今の王は私だ。
責任の一つも感じなければ、デミトリに申し訳ない。」

「気に病みませんように。」
宰相は、それだけ言うと、頭を一つ下げ部屋を出て行った。

シグナスは、親衛隊員を全員下げさせると、王と2人部屋に残った。静寂が続いた後、王はシグナスを見、
「どうした?何か用があったのではないのか?」
「いえ、特に。何か話されたいことがあるのかと思いまして。」
「ありがとう。シグナス。」
「は?」

「お前の寛容なる思いやりは、痛いほど嬉しい。私は大丈夫だよ。
それに、やっと一つ終わった。
だが、まだ歩き始めたばかりだ。本番はこれからだ。
本当の国盗り。本当の栄華はこれからだ。足は止めない。俺はそう決めたんだ。」
アルスは天井を見上げながら、そう言った。

反乱に関わった今回の全ての者達の公開処刑が行われた。
王ならびに各諸侯たちが居並び、それを囲うように、民達がそれを、いまや遅しと見つめた。

ザベル以下、元貴族達は手枷足枷を付けられ地面に座らされていた。
ザベル達が出てきたと同時に、国民たちからは、怒号が飛び交った。
反逆者の中には、女性の姿もあった。ライラ皇后である。
皇后の姿を初めて見るものも少なくなかった。女性の存在に、誰もが疑問に思い、
そして、前王の后と知り、ザベルとの関係が白日の下に晒された事で、誰もが、怒りを露にした。
王はそれらの姿を神妙な面持ちで見ていた。
そして、全員が並び終わった後、王の合図で公開処刑が始まった。

警務官長が、反逆者達の罪状を述べた。反逆罪から始まり、税の隠匿、王政の無視など多種に渡る罪状が述べられた。

それらの罪状を述べた後、最後に、
「以上を持ち、死罪を言い渡す。」
と述べられた。

執行人が、刀に手をかけ、一斉に罪人の首が落とされた。

王は全てが終わった後、
「ノイエの悪性の元凶たる者達は、これで全て潰えたと思われる。皆には苦労をかけた。
このような王族・貴族のあるまじき行為は、今日をもって全て滅した事を誓う。

そして、我らはこれを一つの戒めとし、悪政を行えば、こうなるという定義とし、今後の政務に勤しむ事を約束する。
今までのことを白紙に戻せとは言わぬ。全てを忘れる事など出来ぬ。
しかし、私は、全ての民達に生活の安定を約束したい。
微力ながら、民達のために、全ての力を振るおう。これからも私についてきて欲しい。」

王の言葉に、民達は、歓喜の声を上げた。アルスは軽く礼をし、その場を後にした。


そして、城中では、もう一つの刑が処せられようとしていた。
デミトリである。
デミトリは、先ほどの公開処刑の場にはいなかった。
デミトリ1人、別の場所で処刑が行われようとしていた。
王と、一部の諸侯のみで執り行われた。

王は、デミトリと面と向かい、
「最後に、何か言う事があれば聞こう。」

デミトリは、
「反逆をしたにも関わらず、王族としての扱いをしていただいた王に深く感謝を。」

アルスは、その言葉を聞いた後、
「ばか者が。なぜ、もっと早く私の元に来なかったのだ。それを、あのような奴に踊らされて。
自分を失うのがそんなに怖かったのか。・・・・お前は最後まで王族として扱う事を約束する。さらばだ。デミトリ。」

デミトリは、静かに目を伏せ、そして、刑は処せられた。
デミトリは、王族として墓を作られ、丁重に奉られた。

ノイエの完全平定を終えた。アルスいや、島木 徹がノイエに来て、5年後の出来事だった。


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