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作品名:ノイエの風に吹かれて 第02幕 作者:xin

第13回   第13章-[首謀者]
それからしばらく、デミトリは、何も無かったかのように、執務に戻り、また毎日、土と糞にまみれる生活を送っていった。
その間、密かに、ライラは、央国との連絡手段を取り、デミトリは、牢獄までの経路及び、看守の交代の時間などを調べ上げていた。

ある日、デミトリは、密かにライラの密命をうけ行動に出た。
牢獄を守る看守の交代時間を見計らい、看守が交代した直後に、昏倒させ、木に縛り付けた。
そして、牢獄の鍵を手に入れ、ザベルの牢獄の鍵を開けた。

ザベルは、デミトリを見て、
「おお。デミトリ皇子。いつか、助けてくれると思っていたぞ。待っていた。手配は終わったのか。」
「はい。央国の使者がすでに、準備していらっしゃられるそうです。さあ、こちらに。馬の手配がされています。」
「ああ。」

ザベルは、日頃の疲弊でもたついた足取りで、牢屋を出、デミトリと共に、馬のある場所に共に歩いた。

しばらく歩き、馬が手配されている筈の場所に2人はたどり着いた。
しかし、そこには馬の影が無かった。二人が辺りを見回したが、ただ、静寂が流れているだけだった。
戸惑い、動揺していると、突然、四方を囲うように、カガリ火が焚かれた。

突然の明かりに目がくらみ、足元がおぼつかないザベルはその場に腰を落とした。
「なんだ?」
動揺した2人に対し、声が聞こえた。

「このような夜更けに、どうされましたか?デミトリ皇子。」
「!」

火によって影となっていた者が、火の前に立つと、そこには、鎧姿のイオ大将軍と、シグナス達親衛隊の者達だった。
「何故?ここに。」
「何故?これは、したり。我々が、何も知らないと思っているのですか?相変わらず能天気なお方だ。
あなたの行動は、政務に付いたそのときから、監視されていたのです。
そのような事実にも気づかず、こうも大っぴらに行動されては、警らの名がすたると言うもの。」

「デミトリ殿には、詳しくお聞きしなければならないようですね。」
イオは、直ぐに指示をすると、回りを囲んでいた兵士達が、2人を捕らえた。

「ザベルは、そのまま牢につなげ、鎖をかけ、鍵は私の手元によこせ。デミトリ殿に関しては王の采配が必要だ。
シグナス殿、急ぎ王の元に。ご報告をお願いする。」
「了解しました。ドロシー。王の下に急ぎ向かい、指示を仰げ。」
ドロシーは、了解と一言言うと、すぐさま馬に乗り、王宮に向かった。

ザベルは、青ざめた顔持ちで、
「図られたな。こうなることを予想されていたというのか。デミトリは、泳がされ、私は、もう。。。」
ぼそりと、呟いたが、その声は、誰の耳にも届かなかった。
ザベルは、再び、牢獄に戻され、デミトリも同様に牢獄に入れられた。

アルスは、今回の事実を突き止め、首謀者であるライラを捕らえる事を命じた。
命に従い、近衛の者達が、ライラ皇后を捕らえ、王の前に引きずり出された。
ライラ皇后は、金切り声を上げ、
「何です。これは。どういう事です。私を誰だと思っている。
このようなことをして、縄を解かぬか。」

「黙れ。」
アルスは、平然とした顔で、冷たく一括した。
静かでそして重みのある言葉は、皇后を一瞬にして静かにさせた。

「昨日の晩、政務官の身でありながら、デミトリはあろう事か、ザベルの牢を解き放ち、脱走を企てた。
大罪を犯したものを逃がすなどあってはならぬ事。
仮にもこの私に忠誠を誓ったものが、するべきことでは無い。よりによって央国に逃げるつもりだったというではないか。
デミトリは全て話してくれたよ。今回の企てが誰の手によるもので、誰の指示をとったかの全てをな。申し開きがあれば聞こうか。」

皇后は、王を凝視し、
「デミトリが自ら望んでしたことだ。私の意志によるものではない。その上で、私に罪を着せるは、不当なものでないか。」

「どいつもこいつも、自分に不利になれば、他人の仕業と言う。そこまでして、自分の身が大事か。
ザベル、デミトリ死後、お前は誰と手を組み、ノイエの王位を取ろうというのか?楽しみだよ。」

「!」

「今から、考えれば、デミトリの優柔不断さを、お前達は体よく利用した形になったようだな。
良かれと思い、ザベルの企みを露呈し、デミトリに思いとどまらせたが、それすらもお前達は利用するとはな。
それも傀儡ではなく、デミトリに自分の意思で動くように見せ、不要になれば、足切りするつもりもある。何とも残酷なことだな。」

「お前に言われたくは無いわ。」
「それは、そっくり、お前に返すとしよう。手前の意識で物を語られると性質が悪い。
所詮、ザベルも、お前もはじめから自分達の私欲のみを考えていた。

そのために、兄であり、夫でもあるオルバスを殺し、
私が不在の後、後継ぎとして、何とか役目をこなそうとしていたデミトリを手懐け、自分達の欲のみを追及してきたようだ。

性質の悪さに関して、お前に勝てるものはいない。
何が、王族だ。何が、ノイエの栄華だ。よくもまぁ、自分達の私欲を隠すために、都合のいい言葉を並べたものだ。
だが、安心しろ。お前の間抜けさのお陰で、意外に早くケリが付いた。
央国への隠し扉。気づかないとでも思ったのか。
お前が使うだろうと放置しておいたのだ。
最後に、面白い事を教えてやる。

お前は、デミトリに、絶対に失敗はしないと言っていたようだが、いつ動くか。誰が動くか。私は、全部知っていた。
動く日も、取るべき経路もな。

お前には、これから、肉体的な苦痛を受けてもらう。お前から何かしらの情報が欲しい訳じゃない。だがら、別に喋る必要は無い。
ただ、民達が受けたであろう精神的な苦痛を肉体に還元して受けてもらう。」

ライラは、アルスの言葉に、打ち震えた。雄たけびのような悲鳴をあげ、あろうことか、アルスに懇願の意思を露にした。

「アルス王。いえ、アルス。いとおしい私のかけがえの無い御子よ。
私は、あなたがこの国に帰ってきた時、この上にない喜びを感じました。
立派に成長し、王としての威厳を持ち、この国の為、民の為、良心成る政治を行い、臣下にも慕われている。
これが私の愛する子供の成長かと嬉しく思いました。
しかし、私は既にザベルによって、半ば強制的に従事を受けていた。それを背けば私は・」

今まで聞いた事の無い程の甘い言葉をライラは、スラスラと言い、アルスをいとおしく見上げた。
連れて行こうとした近衛兵もこのライラの表情と言葉に、掴む腕も放し、アルスを見上げた。

アルスは、表情を一つも変えず、
「思ってもいないことをスラスラとよく言う。
ただの一度でも民を思う言葉があれば、配慮はする用意があった。
だが、お前はこの事態においてもまだ、保身だけを追及する。見下げた根性だよ。
お前を生かす価値など無い。オルバスの元に行き、コウベを垂れよ。」
アルスは、近衛兵に、ライラを連れて行けと命じた。

近衛兵は、再度、ライラを捕まえ、玉座から出て行った。
ライラは、それでもまだ、何かが変わる事を願い、アルスや周りにいたキーヴ達に懇願の意を叫び続けた。

ライラ皇后が部屋を出て、部屋が静かになった頃、
アルスは、溜息を一つつき、
「皆のものご苦労だった。これで、全て終わりだ。あとは、ザベル達、反逆者の処刑を持って、ノイエ平定とする。」
諸侯たちは、頭を下げ、部屋を後にした。誰もその間、一言足りとも声を発しなかった。
部屋には、王と、親衛隊と、キーヴ宰相だけが残った。


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