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作品名:ノイエの風に吹かれて 第02幕 作者:xin

第12回   第12章-[苦悩]
デミトリが、官職に付いてから更に、少しの時が過ぎた。

そんな折、一つの事件がおきた。
どこから、どのようにして入ってきたのかはわからないが、ライラ皇后が、央国の使者なるものを連れて、玉座の間に入ってきた。

アルス以下、主だった幕僚は、議会の都合で、すでに部屋の中にいた。央国の使者は、王宮内に入るなり、
「ザベル様、そして、デミトリ王はいらっしゃられるか?」
と呼びかけてきた。キーヴは、
「デミトリ王? ノイエの王は、アルス様です。お間違えのないよう。
また、ザベルは現在、王への反逆として牢獄に捕らえられておる。」

「なんと、正当なる証を持たぬ者を王とあがめるのか、この国の者は。
これは、一体どういうことなのだ?
まさか、偽王の企みとでも言うつもりなのですかな。」
使者の発言に、一同が、怒りをあらわにし、

「偽王とはどういうことか。
例え、央国の使者であれども失礼な言動は控えられよ。」

「何を言う。偽王と申して、何が悪い。本当のことではないか。
オルバス王崩御の後、てっきり、デミトリ皇子が跡目を継いでいるかと思えば、
聞いた事も無いアルスという名のものが王になっているという。
正当なる証を持たぬものをどうして王と認めようぞ。」

「アルス様は、オルバス王の第一子なれば、正当なる証ぞ。」
「おやおや、これは、おかしな事を。オルバス王からは、昔、病気で亡くなったと報告を受けておる。
亡くなった者がどうして、王になれる?それこそ、矛盾しているではないか?」
「それは、事情が変わったのだ。」
「事情とな?つまり、死んだものが生き返り、家督を継げる立場になったとそうお考えか。」
使者の一方的な発言に、キーヴ達は、押し黙ってしまった。事情を説明すれば、当然、使者は激怒し、央国に反抗の意思があると思われる。それは、あるべき事ではないことは、誰もが知っている。

デミトリは、事の状況が把握できずポカンとしていた。ライラはニヤリと笑い、敢えて何も言わず事の自体を見守っていた。

「さぁ、話は終わりだ。早々にザベル様を牢獄より出し、身元を受けたまろうか。
そして、跡目にはデミトリ皇子になっていただき、ノイエの繁栄を央国に約束していただこう。
そこの、玉座に座る身分をわきまえぬ者よ。去れ。」
使者は、アルスを睨み付け、叫んだ。

アルスは、冷静な顔で、
「随分と、横柄な態度だ。央国とやらは、使者の分際でも、一国の王に対して失礼な態度を取れる権限をお持ちのようだ。」
「貴様は、王では、無かろうが。」

「いや、王だよ。正真正銘ノイエの王だ。オルバス王の第一子。正当なる跡目だ。」
「私の話を聞いていなかったのか。オルバス王は、昔、アルス皇子は病気で死んだと報告した。
その言葉を信じて、我らは引き下がったのだ。その言葉が偽りのものだというのか?」

「ああ、そうだ。オルバス王は嘘をついたのだ。大事な後継ぎを他人に取られたくなくて、嘘をついたのだ。
騙されたお前たちが愚かなのさ。」

「何、それは、央国に対し、反抗の意思があると受け取ってよいのだな。」
「さぁ?そんなこと知るわけがないだろう。俺はオルバス本人じゃないぜ。」
「何?」

「俺の子供の頃に、オルバス王が勝手に決めてしたことだ。自身に教えてくれた事の無いこと。
当然、真意など解るはずも無い。真意が知りたければ、本人に直接、聞けよ。」
「オルバス王は、央国に逆らう意思があり、こちらの通達に対し背いたという事か。」
「そうじゃないのか?知らないけど。」

「知らない、解らないが通じると思っているのか。仮にも貴様、王であろう。
その立場において、そのような発言が通用しないことぐらい解るであろう。」
その言葉にアルスは、立ち上がり、指を差しながら、

「今の言葉聞いていたな、キーヴ。」
「はい。しっかりと。」
「ナッシュはどうか?」
「はい。間違いなく。」
「ベルテ。」
「復唱出来ます。」

アルスの行動に、央国の使者は、
「な、なんなんだ。一体。」
訳もわからない事に言葉を上げずに居られなかった。
アルスは、にやりと笑い、
「今の会話から見て、俺を王と認めたという事だな。
王の発言に曖昧な態度は通用しない。はっきりと毅然とした態度で臨め。そういったな。
つまり、お前は俺を王と認め、その上で発言をしたという事になる。違うか。」
「ち、違う。」

「違うのか?これは、困った。宰相、この使者殿、どうやら、頭がおかしいようだ。
毎度毎度言っていることが変わる。
本当に、央国の使者なのか、疑わしいものだ。
このような頭のおかしいものと話をしていてもラチがあかない。
早々に引き払ってもらえ。」
使者は、あわてた様に、腰を浮かせ、

「な、何を言っている。私は、正当な央国の使者なるぞ。
私を怒らせて、何とする。私は、私は。」
アルスは、椅子から立ち上がり、使者の前に立ち、蔑むように見下し、
「では、聞こうか。オルバスの真意など、解るはずも無い。
ただ、現在の王は、このアルスだ。
そちらに嘘を付いた事実はオルバスのみにあり、後を継いだものには、何の非も無い。
罰すべきが誰かはお前にだって解るはずだ。
その上で、今までのお前の無礼な発言は、ノイエの王へ向かって言い放ったものか。それとも、別に思惑あっての事か?」
使者は、アルスに圧倒された。

言葉にならない状態で、口をパクパクさせながら、平伏し、二の句も告げることすら出来ず頭を下げ続けた。
ライラは、舌打ちを一つすると、その場を立ち去っていった。

アルスは、使者を恫喝すると、近衛に命じ、捕縛し、尋問させよと告げた。その際に、
「央国の使者であろうが、無かろうが、関係ない。企みを白日の下にさらせ。その結果、その男が死んでも構わない。」
と捕まえた男のいる前で、平然と言いのけた。その言葉に、使者は震え上がり、アルスに命の懇願を最後までしていた。

デミトリは、使者が近衛に連れて行かれた後、何を思ったか、ライラの元に向かった。
ライラは、奥室で、ザベルより以前から授かった策を持ち、央国の使者なる者を連れて、アルスをけしかけたが、不発に終わった。
声にならない怒りで、周りに、当り散らしていた。

デミトリは、ライラに追いつき、叫ぶように言い放った。
「どういうつもりです。まだ、あなたは諦めていないというのですか。
あのような真似をして、一体何を考えているのですか?」
聞き覚えのある声に、ライラが振り返ると、デミトリが、顔を紅潮させて立っていた。

「まぁ、デミトリ。何を怒っているの。私は、王位の継承はあなたにあると思っているの。
それは、何をおいても変えられない事実だわ。」
「いい加減にしてください。この状況を変えるようなこと出来るわけがない。」
「何を言っているの?あなたは、それでよいの?
知っているのよ。あなたが、アルスに受けている屈辱の全てを。

仮にも王位継承権があり、第2皇子として、このノイエに長くいるにも関わらず、不当な扱い。
なぜ、皇子たるものが、土いじりなどせねばならぬ。挙句の果てには、家畜の糞まで扱っていると聞く。
それを不当といわずして何という。
そのような扱いを受けてまで、アルスに仕えねばならぬ事実がおありか?あなたは、皇子なのですよ。」

「それは・・」
「不憫な子。あなたは、アルスやキーヴによって騙されているというのに。それさえも気づかぬ程、純粋で、心の優しい子。
あなたを誰よりも理解しているのは、私やザベル様だというのに、一時のアルスの虚言に騙され、全てを無いものとするなんて。
それこそ、アルスの思惑だというのに。それさえも信じてしまうなんて。」
ライラはそう言いながら、目頭を押さえた。

デミトリは、ライラの泣く姿に、自分がどうあるべきなのかわからなくなっていた。
両目を閉じ、苦悩するデミトリ。
ライラは、その間もすすり泣いていた。そして、デミトリは、決断した。

「ライラ様、泣くのはよしてください。もう一度、私が王になるために、ザベル様と共に、立ち上がりましょう。
今度は、私も傍観者ではなく、アルス王と戦います。」
ライラは、デミトリのその言葉を聞くと、デミトリを抱き、声のあらん限り泣き叫びながら、

「本当だね。私も、ザベル様も、あなたを王にするために、がんばるわ。そして、栄誉をさずかりましょう。
まずは、ザベル様を、牢から出し、央国に匿ってもらいましょう。
何、大丈夫よ。ザベル様の城には、央国に通じる隠し扉があるの。ノイエからは、しばらく離れるけど、再起を図り、ノイエを侵略しましょう。その上で、アルスを殺し、正当に王位を継げばいいの。」


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