翌日から城内は慌しかった。戦の残務処理で、城中の全ての者たちは走り回っていた。今までに隠匿していたザベルの宝飾品や、金貨は、王宮が蓄えていた貯蔵庫に入りきらないほどの量があった。ベルテ達財務官僚もその数を数えるだけで丸1日を費やした。政務官僚であるナッシュ達も、今まで勝手に禁止区域とされていたザベル城下の踏み込み、及び区画整理としてイオの部隊を引き連れて朝から大変な勢いであった。城の中にいたもので働いていないものはいないほど、慌しく動き回っていた。ただ、1人アルスだけは、太陽も昇りきった後、もそもそと自室のベッドから起き上がり、背伸びを一つすると、ゆっくりと起き上がった。 「久しぶり?いや、この国に来て初めてかな。こんなにゆっくりしたのは。さてと。なんか、城中うるさいな。」 アルスは、頭をポリポリと掻きながら、部屋を出た。 城中は、ものすごい勢いで、走り回る人やら、残務整理に終われるもので、ごった返してていた。 アルスは、その様子を見て、 「大変なことだ。」 まるで人事のような言葉を言うと、プラリと歩き去った。
皇女奥室 「母上」 「あら、キーヴ。珍しいですね。最近では政務に忙しくて、とんと、こちらにはいらっしゃられないのに。」 「母上、ちょっとお願いがあるのですが、いいですか。」 「ええ、いいですよ。何ですか?」 「それは、ありがたい。」 そういうと、キーヴはフェリシスの腕を掴み、引っ張るようにして部屋を出ようとした。フェリシスも驚き、 「どうしたのですか?」 「ザベルとの一戦後、残務処理に追われているのです。書類に目を通し、花押を押していただけるだけで良いのです。 手伝ってください。もう、今は、猫の手でも借りたい忙しさで、人が圧倒的に足りないのです。さぁ、母上も。」 キーヴの切羽詰った依頼に、いそいそと王宮内広間に行くと高く詰まれた書類に呆然とした。 「これを一人で?」 「いや、他にも人はいますが、それは後から連れてきますので、先行して行ってください。」 「なんと。」 「では、お願いしましたよ。私は、別の場所に行かなくてはなりませんので、これで。」 そういうと、キーヴは忙しそうにその場を去った。フェリシスも書類の膨大さにため息を一つ付くと、早速取り掛かり始めた。 諸侯たちは、書類に追われるもの、ザベルの城へ出向くもの、区画整理や、捕縛した貴族達の家捜しなど出払っている者達もおおく存在し、目の回る忙しさだった。
アルスは、一人、中庭の芝の上に寝転がり、温暖な日差しを浴びながら、のんびりと転寝をしていた。
中庭を見渡せる城の通路内で、シグナスが走っていた。後方からシグナスを呼ぶ声が聞こえた。 「シグナス殿、シグナス殿。」 シグナスは足を止め、後を振り向くと、キーヴが小走りに近づいてきた。 「キーヴ様。如何しましたか?」 「様は、止めてください。経験から言えば、シグナス殿の方が先にあります。呼捨でも良いぐらいです。」 「それは、ご勘弁を。して、御用は?」 「はい。アルス王の警護は?どうされているのですか?」 そう言いながら、中庭を見ると、まだ、変わらずアルスは一人寝転がっていた。 シグナスは、 「はい。私が行いたいのですが、先ほどまで、イオ様に呼ばれていまして、終わって私の職務に付こうとしましたら、今度は、ライド政務官に呼ばれまして、だから、本日は、暗部に任せております。」 「暗部に?」 「はい。あちらを。」 そう、言い、シグナスは、2,3箇所を指差した。すると指差されたところには、暗部の者が数名、アルスを囲うように立っていた。 「なるほど。姿ぐらい見せればよいのに。」 「暗部ですから。」 「なるほど。」 シグナスとキーヴはお互いに顔を見合わせ、微笑むと、所定の場所に戻るために走っていった。 その日、アルスは、ただの一度も政務につくことなく、のんびりとした日を過ごした。
翌日も、朝から慌しい日に追われていた。フェリシスも、連続でキーヴに借り出され、書類に目を通す日々だった。 変わらず、アルスは、何もしようとはせずに、のんびりとした時間を過ごしていた。そんな日が5日間続いた。
|
|