話は、少し前に遡る。 ズイセン達による反乱を鎮圧後、キーヴが新たに陣営に入って間もなくの出来事である。
ある朝議の最中、ナッシュが一歩前に進むと、 「恐れながら、最重要案件として、ザベル公に対しての対策をどう考えるかという事ですが。 ザベル公が望むは、アルス様に取って代わり王になること。 王になるには大儀が必要。ズイセンの行った自己欺瞞な大儀ではなく誰もが認める大儀。 それをもってしか、自分の行動を大儀とすることは有り得ないと考えます。
しかし、このような事を言うのもなんですが、今の政権に対し、 彼らが望むような大儀があるとは到底思えません。 また、そうならぬよう我ら一同勤めていると自負しています。 この状況で、どのようにザベル公をいぶりだすのか?」
「いぶりだす?」 イオが疑問に思い、問いかけた。ナッシュは、言葉を続けた。
「王の不名誉なる行動を行う事は通例で考えれば、今後もありえないと判断します。 その為、ザベル公が大儀を持つ事事態が不可能。
だからといって、それを延々と待つことは得策ではないと考えます。 待てば待つほど時間が要され、民の為にならなず、陛下の要望する平定にはほど遠くなると判断します。
ならば、こちらから彼らの大儀となることを作り上げ、意図的にいぶり出す事が得策かと。」 ナッシュの言葉に、誰もが相槌を打った。陣営に入ったばかりのキーヴも政権のレベルの高さに驚いた。
アルスも、ニコリと笑ったまま 「そうだな。その通りだ。それで、どうする?どうやって、大儀を作り出す?」
その言葉に、皆、頭を抱えてしまった。 ナッシュが言うように、ザベルを動かすためには、奴らにとっての大儀が必要。
そして、その大儀を作り出すのは、彼らではなく、現王政の面々である。 しかし、何かしらの意図的な大儀を作り出すとしても、膨大な時間を要する。
一日二日でどうにかなるものではない。国土を安定したとはいえ、それは、まだきっかけに過ぎず、 完全な安定をさせるには、もっと時間が必要とされる。 そんな時期に、時間を無駄にするのは良い事ではない。
それは、十分に解っているが、具体的にどうすれば良いのかが全く解らない状態だった。 皆が、頭を悩ましている中、なぜか、アルス1人、笑みすら浮かべながら、座っていた。
その様子を見たイオが、 「陛下。いっその事、相手が出てくるのを待つのではなく、こちらが攻め入ってはいかがですか? 例え、王族とはいえ、ザベル公のやられていることは、今の王政に反旗を翻していることです。逆賊を討つ。 この目的ならば、わざわざ大儀を待たなくても良いではありませんか?」
イオの言葉に、アルスは笑みを消さないまま、 「それも一つの方法だ。悪くは無い。だが、極力する気はない。」
「なぜですか?」
「反逆の意思を示しているのが誰か?という事をはっきりさせるためだ。 こちらから攻め入っては、名のある人間のみを潰すに過ぎん。俺は根絶やしにしたいのだ。 反逆の意思を持つもの全てをな。その為には、奴らが攻めてくるのを待つ必要がある。 なんだかんだといっても、戦力的にはコチラの方が圧倒的に優勢だ。 奴らが勝つためには、1人でも手勢がほしい。それこそ、目の前にいる民だって巻き添えにする。 反逆しようかどうしようか迷っている奴ならば進んで手勢に入れるだろう。 それぐらいの事をしなければ、勝てない事ぐらいあいつらだって分かっている。」
「そこまで追い込むのですか?」
「そうだ。俺は、自分の意思も持てず、状況に流れる奴も必要ない。 反乱に従う気も無く、それに抗い、その結果死をもたらされたとするならば、その者一族一生全てを助ける用意はある。 だが、生に固執して一時の状況に流れる奴は、事態が変わればすぐに裏切る。 そんなモノを手元に置く気は無い。」
「だからこそ、相手が出てくるのを待つと。」
「そうだ。出来ればそうしたい。」
イオは、アルスの言葉を腹に落とした後、頭を抱え込むように考えたが良い考えが出る事も無く ふとアルスをみると、変わらずの笑みを零していた。イオは、アルスを真っ直ぐ見た後、
「何かお考えがあるのですか?あるのなら、お聞かせ願えないでしょうか?」
アルスは、待っていましたとばかりに、体を前に向け、
「聞きたい?」 と勿体つけるように言ってくるので、全員が、要望を肯定した。
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