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作品名:ノイエの風に吹かれて 作者:xin

第7回   第01幕 第06章-[王弟]
会議も終わり、官僚や、アルスも一息付きながら茶を啜っていた。
そんな最中、1人の近衛兵が、扉近くに立ち

「申し上げます。ただいま、フェリシス様とキーヴ皇子様がお見えになっています。」

その言葉に、議論の疲れも飛んだのか、笑みを零しながら、部屋に招き入れることを許可した。

2人は、連れ添うように部屋に入ってきた。
フェリシスとキーヴは、部屋の中央まで足を進めた。

主だった官僚達は、2人を囲うようにして座り、当然の様に深々と頭を下げた。

フェリシスは、アルスの面前に座り、頭を下げ、キーヴは、そっぽを向いて座った。

誰よりも早くフェリシスが口を開いた。
「こ度の内紛では、早速なるアルス政権の力を見せていただき、誠に感服している次第でございます。
本日はそのお祝いにと参上した次第でございます。」

「ほう。」
「先日の伝言、一字一句違わずにキーヴに伝えたところ、
本日はこうして、本人と一緒に来る事が叶いました。」

アルスは、この国に来て始めてみる身内の顔を興味深く見たのだが、
当の本人は相変わらず明後日の方向を見ているだけだった。

アルスは、少しの微笑を見せた後、
「そなたがキーヴか。こうして面と向かうのは初めてだな。オルバス王崩御の際も、ただの一度も顔を見ずだ。」

キーヴは、そっぽを向きろくな挨拶もしなかった。

フェリシスは、キーヴが前すら見ていない事に気にも留めず
「今回の内紛は、意外すぎるほど早く終結してしまいました。
今後の行く末を1人、案じているのですが、王はどのようにお考えですか?」

「さて、どうかな?」
アルスは、半分とぼけた感じでそう答えた。

フェリシスはニコッと微笑むと、
「アルス王の頭の内、少しでも感じたいと思いここに参りましたが、教えてはくれないようですね。それとも、」

「策が無くって、とぼけているだけか。」
キーヴは、口を開くと、王を睨み、一言皮肉を言った。
その言葉に、周囲にいた官僚達が少しざわめいた。

アルスはさして気にする事も無く、キーヴの顔を変わらずマジマジと見ていた。
「キーヴ、お前は俺に似ているな。さすがは弟というべきか。
母親が違っても顔は似るものだな。それとも俺もキーヴも父親似かな。」

キーヴ本人は、自分は母親の血を色濃く継いだと思っていた。
父親似である事を言われたからといって、不機嫌になる訳ではないのだが、
語気を荒げて、
「それがどうした。それが今後に何の関係がある。話をそらすな。」
と叫んだ。反してアルスは、笑い声すら漏らし、
「別にいいではないか。世間話の一つも出来ぬほど余裕が無いのか?」

「はぁ?」
いぶしげに、キーヴはアルスを睨んだ。
「大体、政権にも入っていない一介の皇子様に、易々と王政の秘密を簡単に喋る訳ないじゃないか。
まして、俺は、お前を初めてみたんだ。世間話の一つをした所で問題あるまい。」

歯軋りが聞こえてきそうな程強く歯を噛むキーヴを見て、フェリシスは、クスクスと笑った後、
ふとアルスの後方に立っていたシグナスに視線をずらすと、

「アルス王のいつもお傍にいらっしゃる方は、どなたですか?まだ一度も紹介をされたことがなかったような。」

アルスは、シグナスをちらりと見て、
「そうか?シグナスだ。
この国において、最も信頼している私の部下だ。」

「まぁ、それほど。」
と素直に驚嘆したフェリシスだが、キーヴは、フンッと鼻を鳴らした後、
「アルス王の側近に奴隷が入っているってのは本当だったんだな。
変わり者もここまでくると異常とすら思える。加えて、政務官や大将軍をさしおいて、信頼しているとまで言う。

頭がおかしいんじゃないか。そういえば、言っていたな。
国を思うのならばどんな身分も気にしないと。これなら、いつか、犬でも自分の臣下にする勢いだ。」
キーヴの言葉にシグナスは、目を伏せた。
周りにいた者達は、誰もが、王に喧嘩を売っているとしか思えなかった。
それだけの皮肉を込めて言っている様に聞こえ、言葉にならない緊張感が走った。

アルスは、キーヴの言葉を聞き、
「ふむ。犬を臣下にするか。考えてみよう。犬は、万物の動物の中でも非常に忠義に厚いと言うしな。
金勘定と、己の私欲でしか、考えていない馬鹿者よりも遥かに優秀だ。

キーヴ。言っておくが、国を思うものに、男も女もそれこそ、犬だろうが家畜だろうが、関係ない。
大事なのは、どれだけ先を見て、深く物事を考えられるものがいるかどうかだけだ。

皇子の立場にいながら、お前はどうなのだ?
悪口や皮肉を言うだけならば、誰でも言える。吠えるだけなら、そこらにいる犬だって出来る。
それをお前はするか?
それとも、ここでしか出来ないことをするか?好きな方を選べ。」

「何を言ってる?俺の事なんてどうでもいいだろう。
それよりも状況がわかっているのか。
内紛が起きたって事は王権に問題があるって事だろ。王族を揺るがすような事態だぞ。
それに、元も絶っていないのに、何を言っているんだ。」

「どうでもよくはない。フェリシス殿から聞いた。
お前が優秀だとな。優秀な人材は、多すぎても困ることは無い。
まして、お前が自らここに来たのだ。それに対し、興味を示すのは当然だろう。」

「そんなこと。。。」
「お前の疑問視する王権の問題など取るに足らないことだ。
俺は、反逆の意思を示したものを懐柔させる気は無い。

今の生活が従来の生活よりも豊かで安定したモノであるという事実がある。
それにも気づかず短命な優雅にとらわれるような奴に用は無い。
それぐらいのことお前だってとっくに分かっているはずだ。」
「反逆者は全て殺すと。」
「そうだ。奴らを生かす必要も理由が無い。お前は生かすべきだと言うならば、生かす理由を言え。」

「それは。。。。」

「殺生がしたいという事ではない。もっと根本的な事だ。
理解できない者をただの民ならばよい。相手が納得出来るまで、つきあってやる。
だが、民を守るべき役割を持ったモノならば、違う。
己の立場すが何を示しているのかが気づかぬなら名はその官位は剥奪する。

それでも尚、名が大事で、名の為だけに、他を切り捨てても良いと思っているような馬鹿者は、
死んでくれたほうがマシだ。生かしても害はあっても得は無い。

俺は聖人君子になるつもりはない。
将来を見据えた行為をするものならば、頭を下げてでも臣下にする。
だが、それすらも出来ぬものに礼を尽くす必要は無い。
野心を持ったものを生かしておいても国を滅ぼす要因を作るだけだ。
そういう事例を俺はいくつも知っている。」

「そのために、自分の身内を殺すような事であってもか?」
「そうだ。」

「あんたは、このノイエで生活をしていない。だからこそ、身内の生死を単純に決められる。
そう簡単な事ではない筈だ。」

「本人が思ってもいないような事をよくもまぁ、すらすら言えるものだな。キーヴ。」
「!」

「まぁ、いい。ならば、答えてやる。生活の長さなど関係ない。
最初から言っている。国を思うものか否か。それに尽きる。

国を思わない私欲にまみれた者が身内である恥をお前は何と思う。
無駄に野心を増やしたところで、国の為にはならない。

私の言葉は偽善に聞こえるか?
何かあれば、国のため、民のため。何度同じ事を言ったかわからない。

しかし、俺の思うことは事実だ。国を思えずして何が王か。王族か。
階級という差があるならば、それに答え、模範となるものは、王族であり、王だ。
それをやっている。それがやれなくて、何を成す。誰が認める。」

キーヴは、黙ったままただ、王を見つめた。

「反逆の意思を表したものは、私のしている行為そのものを理解していない。
もしくは理解しようとする努力すらしていないものだ。

それらを生かす必要は無い。死んで詫びろ。それが、方針だ。

そして、私の作った王権は、陳腐なものではない。
そういう事実をどれだけのものが理解している。
反逆の意思を示している者達にどれだけの裁量がある?」

広間にいたものは、誰も声を発する事無く押し黙った。

アルスは、キーヴに向かって言い放った。
「キーヴ、お前の本音を言え。言う場は、与えてやる。
望むらくば、これより先、アルス政権に入る事を命じる。

その上で、お前の思う言葉を口にしろ。
誰もが思うような発言を口にして当たり前の符丁をするは止めよ。
そこまでして私を試す必要がどこにある。無駄な行為だということを理解しろ。」

アルスの言葉の一つ一つに、キーヴは、心に残った小さな熱い思いが、徐々に膨れ上がるのを感じた。

前王である父に落胆し、王位を望めども、兄の存在に、遠き望みである事実を実感した。
加えて、兄・デミトリの無能さに追い討ちをかけるように落胆させられた。
果ては、ノイエの末期を感じ、官僚に入らず、身を引き道楽を繰り返していた。

アルスが即位したその日に
アルスの行動に、深い興味を覚えた。
一挙一動が気になり、自分の配下を使ってでも、アルスの行動を逐次見続けていた。

憎まれ口を叩いたのは、アルスの力量を測るためでもあった。
キーヴは、フェリシスに似て、頭もよく、才覚も他の兄弟に比べ、とても秀でていた。

それゆえに先に生まれたデミトリが許せず、後に生まれたものの末路から捻くれてしまったところがあったが、
今回のアルスの話にこれ以上にない喜びを感じた。

結論を出すのにさした時間はかからなかった。
キーヴは、素早く、座りなおすと、アルスに面と向かい、先程とは対照的に深々と頭を伏せ、
「陛下の御心のままに、忠誠を誓います。」

アルスは、冷静な顔で、
「解った。
しばらくは、今の政権に慣れてもらうために、修練中とさせてもらう。
お前は、しばらくの間、私直属の親衛隊となってもらう。

親衛隊隊長に任命する。
親衛隊の役割は、王付きの護衛だ。近衛とも違う。
私の傍に四六時中離れる事無く一緒にいるんだ。
むろん。政権には当然参加してもらう。
朝議に限らず、政務、財務、軍務全ての儀に参加することを命じる。」

「はっ!!」
キーヴは、力強く返事した。

アルスは言葉を続けた。
「隊長になる限り、部下も必要だろう。
イオ。お前の部隊から5人選抜してキーヴの配下に加えろ。
ラシード、一歩前に。貴様は親衛隊副長としてキーヴを補佐しろ。

それから、ナッシュ、ベルテお前たちからもそれぞれ2人づつ選び親衛隊に入れろ。
それらは、全てキーヴの教育係並びに、相談役と位置づける。

最後に、親衛隊と、シグナスとの位置づけは異なる。
護衛という事に関してだけ言えば、シグナスの方が役位は、上だ。それらは自覚しろ。」

キーヴ、ラシードは、頭を伏せ、了解した事を王に告げた。

フェリシスは、素早い王の采配に、
「あらあら、随分と大出世ですね。キーヴ。あなたは、一兵から身を投じればよろしかろうに。」

キーヴは、照れたように笑った後、姿勢を正し、シグナスを見て、
「シグナス殿、先ほどは本意で有りませんでしたが、大変、失礼な発言をした事を深くお詫びします。
護衛という役に対し、至らぬこと多々あり、ご迷惑をお掛けするかと思いますが、
ご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」
そういい、深々と頭を下げた。
その潔い姿勢に周りにいた官僚たちも驚きを隠せ無かった。

当のシグナスは、更に驚き、面食らった顔をし、あわてて
「頭をお挙げください。キーヴ様。私は気にしていません。こちらこそよろしくお願いします。」
アルスはそのやり取りを見て、初めてニコリと微笑んだ。

「さて、新たな人員が我が陣営に入ったところで、話の続きでもするか。これから先の事をな。」
「これから先?」


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