新年を迎えた後も、変わらず官僚達は、骨身を削って国土の回復に全力を注いだ。 それこそ、寝る間も惜しんでである。
現在、ノイエの王政を支えている官僚のほとんどは、前王からの継続が多かった。 だが、どの者を見ても、貴族とは名ばかりの非常に低い階級の貴族だった。 前王時代では、役職らしい役職も与えられず、雑用係に近い事しか行えず、 理想はあってもそれを行う実権を与えられなかった。
仮にオルバスの政権が継続していれば恐らく一生その役位から上がることは無かっただろう。 それだけ、貴族社会は根深く違える事のできない位だったのである。
それが、王が変わったことにより、才覚を認められ、その才に見合った役割を与えられたのである。 その兆しを与えてくれた王に絶対の敬意と忠誠心を持つのにさした時間は必要としなかった。
寝る間も惜しんで働けと言われれば、その通りに行う人材ばかりだったのである。 もちろん、それを命じた王自身もいつ寝ているのか?と誰もが思わせる程働いていた。 朝は誰よりも早く、朝廷入りし、夜も自室の明かりが消える事が無かった。
この王や官僚達の仕事の甲斐あってか、見る見る国土が回復していった。
国土開発・復興は約束通り2年で終了させた。 その後も良政をするべくナッシュやベルテ主だった官僚は、取り組んでいた。
目に見えて、国民の生活基準はかなりあがっていた。 職にあぶれ物乞いをしなければ生活できなかったものもいなければ、 奴隷という身分に俗さなければ生活できないものも少なくなっていた。
そんな折、国王アルスは、即位して初めて、民衆の前に顔を出したのである。 王宮にある外壁の上に立ち、国民の前に姿を現すという事を行った。
事前に、民達には通達してあった。 国王が、重要な布令を出す。布令はとても、重要な為、国王自ら行うとして、民達の前に出ると言うものだった。
前代未聞の出来事であった。 王が、民の前に出る事は、非常に稀なことである。
今までも無かったことではない。実際、王の名前や、王族の名前を民は知っている。 だが、顔を知っているかと言われても、はっきりと目鼻を表せる者はいない。 王が、お遊びで街を通る時に、瞬間的に見る程度で、長い時間、民に晒すことが無いのである。
元々、民の前に出ると言い出したのもアルス本人だった。
それは、唐突な一言から始まった。 「今の王の姿って、民は知っているのかな?」 「さぁ、どうでしょう?恐らく知らないでしょうな。」 「別の形では、とっくに知っているでしょうがね。トールという名前で、街をチョロチョロしてますし。」
「・・・・・お披露目しよか。」 「お披露目?」 「オルバス王が死んだとき、民は人事のようにしてたんだ。 顔も知らない。どんな奴かもしれないんだから、それは、そうだなと納得できたんだが、 それは、悲しいだろう。 恨みつらみを言うにも、どんな奴かが表現できなければ、発散の場がない。」 「それは、いいのですか?」 「自分が頑張っている時に褒めてもらいたいと思うだろう。その時に、顔も知らないと誰も評価してくれないんだぞ。 悲しいだろう。」 「それは、まぁ。」
「ってことで、お披露目だ。」 「しかし、どうやって。まさか、民達の前で堂々と言うわけにはいきませんよ。 何があるかわかりません。例え今、良政をしているからと言って、王族に対しての恨みが消えているわけではありません。 何かあっては困ります。」
「うん。それは、確かに。じゃあ、安全面なんかはお前たちに任す。いろいろと方法を考えてくれ。」
と言うことで、考えに考えた結果が、外壁の上に立つという事になったのである。 ココならば、よっぽどの弓の名手でない限り、射る事は厳しい。
「まさか、その恰好で人前に出る気では無いでしょうな?」 ナッシュが珍しくアルスの服装に気難しい顔をした。アルスは、いつも王宮内にいる非常に簡素な格好である。 ともすれば、民の服装に毛の生えた程度といってもおかしくない。 「ん?ダメか?」 アルスは、悪びれもせずに聞き返してきた。
「仮にも一国の王が、その恰好では。さすがに、ちょっと。。。王宮内では目を瞑っていますがさすがにもう少し。」 「別に服が威厳を示すわけではないだろう。」 「私とて、ゴテゴテした格好をと言っているわけではありません。 王がこのような服を身につけなければ成らぬほど貧乏なのかと思われる方が癪です。」
「ふむ。なるほど。では、もう少し洒落込むか。」 傍に控えていた侍女に一言二言言い、服を持ってこさせた。
外壁に上る途中で服を着替える王というのも既に、前代未聞だった。
ノイエの王様を一目見ようとノイエ中の民が来たのかと思うほど外壁を囲う様に民が群がった。 外壁の途中の階段から見下ろしながら、
「凄いな。この数は。」 「警護の数もすごいですよ。」 「脅かすなよ。」
アルスとナッシュの会話も区切りがついたのか、アルスは一気に階段を上りきり、外壁から姿を現した。 何の前触れもなく現れた王に、大歓声が沸いた。
声の音波で、壁が崩れるのではないかと思うほどの大きな歓声が沸いた。
「これは、凄いな。どうやって黙らせるんだ。拡声器が欲しいな。」 「拡声器?」 「ああ、気にするな。ココには無い。」 「はぁ。」 「まぁ、時間は、いくらでもある。とことん付き合うさ。」
そう言うと手を振り、外壁をぐるりと回りながら民達を見下ろしていた。 だが、さすがに、外壁の高さでは、王の顔が正確に把握できる訳ではない。
だが、王が自らの意思で民の前に顔を出すという事に興奮が冷めやらない感じだった。
「なぁ。これ、やっぱり、無理ないか。俺もそうだが、相手も顔見えないだろう。」 「安全のためです。」 「それは、そうなんだけどさ。もうちょっと低い高さに行こう。城門の橋を上げればそこに立てるだろう。 そこに行こう。」 「ダメです。何かあったらどうされるおつもりですか。」 「うーん。大丈夫だろう。お前たちのやって来た事に誇りを持て。」
そう言うと、外壁の傍にいた軍部の兵に、城門の橋を上げさせるように命ずると外壁を下りて行った。 ナッシュは、顔に手をやり、 「やっぱり。こうなると思った。」と一言呟いた。
王が、外壁からいなくなったことで、民達が騒ぎ出したが、橋げたが上がっていくのを見て、 外壁の周りを囲っていた民達が何かあると思って、橋げたの前に集まってきた。 橋げたが上がりきると、なんと橋げたの上に、アルスが現れた。
先ほどと違って、高さは半分以下になった分、体全体がはっきりと見える状態に民の興奮は絶頂に達した。 先ほど以上の歓声が湧き立ち、収拾の利かない状態になっていた。
橋げたの上には、アルス以外に、フル装備をしたイオやラシード、シグナスが立ち、他に数人の兵が周りを囲った。 アルスは、民の歓声が終わるのをただじっと待っていた。
立ち疲れたのか、膝を落とし、ただ、歓喜を上げる民を凝視していた。 徐々にだが、何も言わないアルスに次の行動を期待した民達が、歓喜の声を止め、アルスを凝視始めた。 歓声がやみ、非常に静かになった。
それがわかると、アルスはすっと、立ち上がり、 「私の声が聞こえるか。今から、とても大事なことを話す。少しの間、声を出さず静かに聞いてほしい。」
その声が聞こえたのか、民達は、平伏するのかと思うぐらいに、膝をつき、皆座り込んだ。 「私の名はアルス。37代目となるこのノイエの王だ。 皆の前で、王として顔を出すのは初めてだ。 顔を出すのに2年も費やしてしまったことを非常に心苦しく思う。
だが、こうして、顔を出せたことを今は、非常に嬉しく思っている。 皆に、この顔がノイエの誇りと思われるよう王の責務を果たすつもりだ。これからもよろしく頼む。」
その言葉に、今まで以上の最高の歓喜が湧き立った。 まさに、前代未聞だったのである。
アルスは、手を挙げ、歓喜を止めるように促した。 その意思を汲み取ったのか民は、声を出すのを止め、皆また、王の一字一句を聞き逃さないよう耳を立てた。
「今日は、顔を見せることにした。それは、私の顔を知ってもらいたかったという事もある。 だが、もう一つ、布令などで通達せず、私の口から皆に伝えたいことがあるからだ。
それは、奴隷の廃止だ。
奴隷を持つことを許さず、奴隷となる事を許さず、奴隷と称する事を許さない。
私は、奴隷を認めない。過去も今もそして未来にもだ。 人を売らなければ生計が立てられない。人を買って、格位をつけるだのは、言語道断だ。 むろん、そのような生活を虐げている根源は、王の政務にある。故に、我は、奴隷を有さない国を作る。 人は、どこまでいっても人だ。決して家畜でもなければ、犬畜生でもない。人であり続ける限り、人は人だ。 そこに、格差などあるべき事ではない。
人の雇用は認める。人として正確な評価を与え、報酬を与えるならば文句はない。 だが、家畜のような扱いをする事も受ける事も許さない。
故に、奴隷は、廃止する。」
皆、一様に押し黙った。 アルスは、一息ついた後、 「このような場を設け、皆に顔を出せたことを非常にうれしく思う。簡単に事を理解してくれと言う気はない。 だが、私の意思を汲み取ってくれるとありがたい。
先に言ったように、奴隷は認めない。仮に、ここにいる全ての民が反対しても、この布令は必ず出す。」
頭を軽く下げると、何も言わずスタスタと外壁に戻って行った。 イオ達は、アルスが無事に外壁の中に入ったのを見計らい、周りを気にしながら、戻って行った。
王を見たものは、興奮冷めやらない感じで、帰途についていた。
「奴隷の解放」王が話した言葉に、解るものには解ったようである。 それぞれの家に帰った後も、民達が集い、それぞれが論じ合っていた。
解放することに対してである。
アルスが発した言葉には、大きな意味があった。奴隷の売り買いだけを認めないと言う話ではない。 仮に奴隷をやめたとしても、今まで奴隷を行っていたという事実は、体にはっきりと残る。
奴隷に属している者には、腕に決して消えることの無い烙印が押されている。 それゆえに裸になれば絶対にわかってしまう。
同じ暮らしをしたとしても、差別が発生することも当然の如く考えられた。 誰にも、差別をしないという保証は無いのである。だが、アルスは、称することを許さないと言った。
それは、奴隷という言葉を抹消するという意味だと捉えられた。 その言葉の意味はとても重い事だという事を皆が実感しているのである。
民の前に王が出た事の直ぐ後に、正式な布令が出された。 もちろん、奴隷の解放を命ずるものだった。
王を示す印が押され、その下には、王が言った言葉と同じように、 「 「奴隷の解放」 奴隷を持つことを許さず。 奴隷となる事を許さず。 奴隷と称する事を許ず。 この文に加え、 法を犯したものは、禁固100年を申し伝え、一家断絶とする。」
と非常に厳しいお触れが出された途端、 多くの奴隷を抱えた商人や、工匠などは、すぐさま、奴隷を解放した。
だが、この布令には、これ以外にも追文があり、そこには、 「正当なる評価を持って雇用するならば、これを咎めることはしないとあった。」
つまり、普通に働く者として、人権を守った雇用形態を双方納得の上で行った場合は、 罪にはならないとした。
働き手として、奴隷という立場に身をやつしていても優秀な者は、多い。 実際、奴隷の立場上、後継ぎにするわけにはいかなかったものも 今回の件で、本人さえ望むならば、後継の範囲に入ると言うものである。
この事態に、喜びを露にする工匠などもはっきりと出ていた。
後継に残れる者は、全体から考えれば些少である。 殆どはあぶれてしまい、職どころか、今日寝る場所さえ確保できない者達ばかりだった。
人の言われたことだけをやっていればいいと思っていた奴隷にとって、 この事態は正直迷惑だと思うものも確かにいた。
王政を営むモノ達は、商人達から解放された奴隷達を一斉に一つの場所に集めた。 建物の中には、所狭しと行き場も無く、住処も無い奴隷達であぶれ返っていた。
数だけでも5000余名はくだらない。 何をどうすれば良いのかすわ解らぬ者達は、何かが変わるのをじっと待っていた。
ナッシュ、ベルテに続き多くの官僚と、兵士が数10人部屋に入ってきた。 それをみるとすぐに地面に伏し頭を下げた。
その後に、当たり前のように、アルスとシグナスが部屋に入ってきた。 アルスは椅子に腰をかけると、伏した顔を上げるように伝えた。
恐る恐る顔を上げるものたちを見つつ、 「先般のお披露目で顔は知っているかな?私の名はアルス。ノイエの国王だ。」 その言葉を聞き、上げた頭をまた下げた。
「一々、頭を下げるな。今から、俺は、お前達と話をするんだ。話をする人間が、どんな顔で、表情で話をするのかしっかりと見届けろ。今度、頭下げたら、殺すぞ!!」
怒鳴り口調で叫ぶ王に、肝を冷やした奴隷達は、逆に頭を上げて、アルスの顔を凝視していた。 ナッシュは、アルスを諌めんと、 「脅してどうするんですか。王。怖がっているじゃないですか。」 「平伏禁止っつたろうが、いい加減、理解しろや。何回、同じこと言わせんじゃ。」 「まぁまぁ。言葉汚いですよ。王らしく。王らしくね。」
ナッシュの諌めにアルスが、んんっと咳払いをした後、 「貴君らに、こうして集まってもらったわけだが、 身よりも無く職も無く明日からの暮らしに困っているもの達と聞いた。 そこで、私から一つ提案をしたい。もちろん、それを絶対に受け入れよということはない。 その判断は貴君らに任したい。」
奴隷に身を費やしていたものたちにとって王に直に合えることも凄い事なのに、礼を尽くした話し方をする王にさらに驚嘆した。更に言えば、王が俗な言葉を使ったことにもびっくりしていた。
「本題である提案に移るわけだが、我々は貴君らに村を一つ用意している。 貴君らで村を一つ興して欲しいのだ。 そしてできるならば、全ての見本となるべき、最高の村を作って欲しい。」
「最高の村?」 奴隷達はお互いに顔を見合わせ、王の言葉に疑問を感じていた。
「貴君らはこれまで、誰よりも働き、誰よりもいろいろな事をやってきた。 むろん、上に立つものから命令されそれを従者のごとくただ闇雲にやってきた事もあるだろう。
だが、それをやる必要はない。自らが考え、自らが求めることをやって欲しいのだ。 そうすれば、貴君らは最高のものを作れる。作物も工業も商業もだ。私はそう感じている。
私の思惑を現実にしたいのだ。 この者達がそれを信じないのでな。私にそれを証明して欲しい。お願いできないか?」
「ワシらにそれをやれと。」 「そうだ。むろん、命令ではない。断る事もできる。貴君らの判断にまかしたい。 貴君らがする最初の判断だ。 人に言われたことだけやっていればいい生活を楽だと感じていた者もいるだろう。 だが、それは、そう思っているだけで、本当の自由ではない。本当の自由を皆で感じて欲しいのだ。」
奴隷達は顔を見合わせながら困惑の顔でどうしようか迷っていた。
「村はここからそう遠くない。ゲルトルバの州に用意してある。 家の手配と、開墾まではすんでいる。 用水もすでに行き通っているのですぐに農作業にはかかれる。
1年の間は、ゲルトルバの州候に言えば、必要物資は届けさせる。 どうかな。悪い条件ではないと思うのだが。
すぐに答えを出せと言う気は無い。少し時間をあげよう。 その間この部屋を使ってくれて構わない。
側女も数十人おいておく茶が欲しければ言えば用意させる。
ベルテそれと、クロイド貴様らは、ここに残れ、相談役として彼らの言葉に耳を傾け質問に答えて差し上げろ。」
2人は、「御意」と一言いい、前に一歩進み出た。1刻経ったらまた来ると一言、言いその場を後にした。 残されたもの達は、お互いにどうするのか困惑したままどうするか話を始めていた。
奴隷達は、横にいる同じ立場の者と答えにならない押し問答を繰り返していた。
奴隷という立場になっているものとて、千差万別である。 ただ、共通しているのは、誰もが、好きで奴隷を行っているものはいない。 殆どは、生活が苦しく、家族を養うことが出来ないから、子供を奴隷商人に売るという形が多い。 奴隷同士で家族を構成するような形ですらある。 だが、どれだけ愛し合っても彼らに子供作る権利は与えられていない。 人権がそもそも無いのである。
今回の件は、決して悪い話ではない。ただ一点、学もない自分達が、 どうやって村を形成していくのかが全く見えなかったのである。
不安に陥っていた様子をベルテがいち早く気づき、 何を不安に思い、どうするべきかを懇々とわかりやすい言葉で説き伏せていた。
一刻ほど経ち、王が再び、部屋に入ってきた。
椅子に腰掛け、 「急を要して済まないな。さて、返事を聞きたいのだが。」
1人の少し年老いた男が恐る恐る口を開いた。 「ワシはその村に住んでよい。王様がそれだけの事をしてくれたのに、それを断る理由が無い。」 その言葉をきっかけに、同意するものが口々に叫んだり、手を上げたりしたものがいた。 王は、 「感謝する。」 と一言口にした。
その時、1人の若者が声を上げた。 「オラは、村には住まねぇ。そしたら、王はオラに何をしてくれる。」 それを言った男を皆が一斉に見た。
「望む事を。」 アルスは、間髪入れずにそう答えた。そしてすぐに言葉を足し、 「貴君が望む事を提供しよう。何がしたい。」
若者は、 「王様、あんたの為に働きたい。」 「ほう。」 「ここで働かせて欲しい。」 「いいだろう。職の手配をしよう。ベルテ、いいな。」 「御意。」 「他にはあるか?」 すると、数十人の若い男や女が、同様に王の側に仕えたいことを示した。 一連の受け答えを示し、全員が納得する形で事なきを得る事ができた。
アルスは立ち上がり、口を開いた。
「貴君らのことをこれより、ルドの民と呼ばせていただく。 私は最初から、奴隷という立場を認めていない。
実は、ここにいるシグナスも貴君らと同じ奴隷の身だった。 今は私の家臣として私の最も信頼できる重臣の1人だ。
奴隷という立場にいて己の才能に気づかず埋もれさせていた。もったいない事だ。 才能のあるものは誰であろうが採用する。
それは私がこの王権を作る時に決めた最初の法案だ。それは今も変わらない。 先ほど、私の元で働きたいと申し出てくれた者がいた。身に余る行為だ。
彼の望みを断る理由は私には無い。だからこそ、私の為に働いてくれ。 貴君らの腕にある烙印は決して、己を誹謗する烙印ではない。
私はそれを誇りに思える印とさせることを約束する。」
王の言葉を聞き、感謝の意を表し、深く深く礼をした。 村に住む人々と城に仕える者、それ以外の人とに分かれて今後に関しての説明や移動が行われた。
王は、ただそれを見ていた。
ルドの民が去り、建物に、アルスとシグナスの二人になった。 シグナスがふと、王の後ろからそっと前に来て、膝を付き、深々と平伏し、 「陛下。ありがとうございます。」 「なにがだ?」 「このような計らい。我々にとって身に余る行為と実感しています。」
「よくわからんな。っていうか、平伏すんなっつたろうが。」 アルスの怒り口調の言葉に、シグナスは、飛び起きて直立不動のまま頭を下げた。 「はい。すいません。」
「今度、二人きりの時に平伏したら、外壁1周だから。それと、気にするな。」 「はい。」 シグナスは、頭を下げ、涙をこぼした。
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