アルスが馬に乗ろうとすると、配下の者が輿の用意をしてあると告げた。 アルスはそれを断ったが、配下の者たちは、執拗に輿に乗ることをすすめ、半ば強引に輿に乗る羽目になった。アルスが乗る輿の周りを精鋭騎兵が囲み、その後ろに将軍、騎兵隊、歩兵、そして、今回捕縛された反乱者達が続いた。アルスは輿に乗りながら、鎧を脱ぎ、シグナス達に渡した。 「疲れたな。何もしないのも疲れる。」 シグナスは鎧を受け取りつつ、 「そういえば、高見櫓にずっといましたね。」 「ああ、あれは良かった。次からもあれを使おうとおもう。」 「はぁ。」
王宮に行く途中、アルスは、ふと思い出すかのようにシグナスの顔を見て、 「シグナス。お前気づいているか?」 「何をですか?」 「キーヴは今に始まったことではないが、イオや、ナッシュがお前の事をシグナス殿と言っている事実だ。」 「は?」 「以前は、確か呼び捨てだったのに、最近では、殿が付いている。どういう風の吹き回しなのだろうな。」 「さぁ、気づきませんでした。」 「そうか。明日から少し気をつけて聞いてみろ。少し笑えるぞ。」 「笑える?」 「今まで、シグナス、シグナスと呼んでいたものが、突然、シグナス殿だぞ。それを笑えるといって何がおかしい。」 「何か、変な感じですね。」 「知らず知らずの内に、お前の立場というものが出来てきたようだな。悪いことではない。」 そう言い、微笑んだアルスを見て、シグナスは、照れたように笑った。
アルスの凱旋を民たちは待ち構えるように立っていた。アルスを見かけると、声高らかに、歓喜の声を上げ、腕を高く上げた。アルスはそれを見ると、軽く手を上げ、それに応えた。民の中では、アルスを見たことのあるものも多くいた。トールという名で城下に下りていた時に知り合ったもの。街で見かけたもの。アルス王として見たのは実は初めての事であり、驚嘆と歓喜が同時にこみ上げ、訳のわからない言葉になって口から出ていた。 「たまにはいいかな。」 アルスは、少し照れたように笑いそれを見送った。アルス軍の兵が通り過ぎた後、ザベル達が続いた。その時は、民達は歓喜の声を止め、不満と、怒りを露にし、地面に転がった石や腐った野菜などを彼らにぶつけた。石が顔にあたり血を出すものもいたが、兵士達はそれを止めなかった。兵の中には、民達と同様のことをしたいと思うものも少なくなかったからだ。
アルスは、城に戻った。城門では、キーヴ以下、主だった留守を任せた配下の者達が王を向かえた。 「お帰りなさいませ。陛下。勝利の報を聞き、家臣一同お迎えにあがりました。」 「ご苦労。どうか。」 「まずは汗を流し、その後、ご報告を。」 「わかった。」 アルスは、迎えの者と共に、城の中に入った。鎧を完全に脱ぎ捨て、風呂に入り溜まった垢を落とした。セシルたちの持ってきた服に着替え、そのまま玉座の間に行った。玉座の間では既に、王が来るのを待っていたとばかりに配下の者達が集まっていた。アルスは、そのまま玉座に座った。アルスが椅子に腰掛けるのとほぼ同時に、先頭にいたキーヴは頭を上げ、 「此度の内乱の勝利。誠におめでとうございます。」 「其方もご苦労だった。」 「はっ、しかし、全て解決それを望みましたが、簡単にはいかぬようです。」 「そうか。動かなかったか。」 「はい。」 「そうか。」 「はい。恐らく、一両日中にも来るのではないかと。」 「かもしれないな。」 「はい。いかがされますか?」 「遅かれ早かれ、衝突する筈だったのだ。ザベルが捕らえられている今自ら来なければ助ける事は出来ない。来るべきものが来るだけの話だ。それほどおかしなことではない。」 「はい。苦労が耐えませんね。身内のことで。」 「何、これが終われば、本当の天下取りが出きる。そして、腐ったモノを取り除けると思えば安いものだ。」 「はい。何でも言って下されば。何でもやる所存です。」 「頼む。他のものもご苦労だった。全てが終わったわけではないが、今日は休め。解散。」 アルスの声に、全員が再び頭を下げた。アルスもシグナスと、キーヴを連れて、その場を後にした。庭園に出、セシル達に食事と酒の用意をさせ、久しぶりの暖かな食事をとった。
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