アルスは、シグナスとルクスに人数分の食事を持ってくるように告げ、自身は、その部屋を後にした。残ったもの達は、どうして良いのかわからずに戸惑いを露にした。 イオは、暗部にこの場で待機を命じ、自らもアルスの後を追った。 小走りをするようにアルスの後ろに立ち、恐る恐る声をかけた。 「陛下、どうされたのですか。」 「何が?」 「何がと。お怒りになられているのではありませんか?」 「別に?怒りはとっくに通り越しているよ。」 「では何故、先ほどは足蹴に。」 「足の前に顔があったから。物事の順当な流れという奴だ。」 「流れと。。。ですか?」 イオは半ばあきれた感じのままアルスの後を追った。
ザベルの城は、アルスの住む王宮と違いとても煌びやかだった。 どこから持ってきたのか解らないほどの金銀や宝石類が至る所に組み込まれ宝飾品もあふれんばかりに飾られていた。 「なんとも節操の無い城だな。」 「はい。」 城の全容を見終わり、再び先ほどの広間に戻ると、シグナス達の手によって運ばれた飯をむさぼるように暗部たちが食べていた。 その横で空腹に身をよじった反乱者達がそれを欲するように眺めていた。
「随分とみすぼらしい姿だな。貴族の気品というのはどこにいったのやら。」 アルスは、反乱者達を見て、初めて口を開いた。 反乱者達は、アルスの存在に気づき、訴えるような目をし、 「食料を、腹がすいた。水でもいい何かくれ。死にそうだ。」 「死にそうか。ならこのままほっておくか。そのまま死んでくれた方がこちらも刀を傷つけずに済む。」 アルスは、彼らの訴えを冷ややかに返した。 「ふん。止めろ止めろ。王には慈悲という言葉など存在しない。 これまでの栄華が誰のお陰かもわからずにのうのうと生きている。 前王を無能といい、私の忠告も聞かず、勝手気ままにやるのが今の王だ。 我らは戦には負けたが、神は決して見捨てたりはしない。正しいのは、常に我らだ。」 アルスは、それを見、閉じていた口から、プッと息が突き抜けると、大声で笑い出した。 「わははははは、大層な事を言っているが、その間抜けた顔をなんとかしろ。 笑って欲しいのか怒って欲しいのか、わからん顔だ。見ろイオ、あの間抜け顔を。」 アルスは転げるように、笑いながらイオに視線を向け、ザベルを指差した。 ザベルは、鼻と口から出ていた血が止まったのか、流れていた血がかたまり、鼻をたらしたような状態で、赤い線が見えていた。 イオも溜まらず、押し殺しながら笑い出した。
「黙れ、貴様。誰に向かってそのような態度を取っているつもりだ。」 ザベルは、拭けぬ鼻のまま激昂した。
「お前だ。ハナタレ。」 一通り笑っていたが、笑うの止めアルスはザベルを指差し、そういった。、 今までに見ぬほどの厳しい顔立ちでザベルを見下ろし、 「ようやく、貴様とこういう姿で会えた。思い返せば、前王の死ぬ間際。 私がこのノイエに帰ってきたときから続く因縁だな。 お前は常々王位の乗っ取りを画策し、くだらん苦言を述べてきた。 お前の企てに加算した元高官達をよくもここまで手懐けたものだ。 そういう無駄な骨折りにはツクヅク感心させられる。 だが、怒りの矛先含め、あまりも筋違いな話が多すぎる。 お前のような奴はさっさとこの世から消えるべきだ。 私の目指す平定という世には不必要な存在だということをお前の脳にきっちり刻み込む。」 「ふん」 「先にお前は自らを正義といった。そして神はそれを決して見捨てないと。この状況におかれても尚、神は我を棄てないか。とうの昔に神はお前を見捨てているのにな。」
「なんだと。お前に神の真意なぞ解ってたまるものか。」 「残念だな。お前と違って、すがる神なぞは存在しないが、神の声は、俺にははっきりと聞こえたよ。ノイエの神は、栄華というものを本気で見たかった。 だからこそ、この私をノイエに戻した。 今存在する王族ではこれ以上の栄華は望めないとわかったからな。神にすがることしか出来ないものを神は正しき者とは思わない。神の力を借りず己の力のみで世を建て直そうとするものに、神は正しき道を示すのさ。すがっているだけで、何が神だ。 困った時の神頼み。俺の世界にあったとても都合のいい言葉だ。 今のお前達にとてもよくはまる。縄に縛られ、明日をもしれぬ命なのに、まだ神に頼り、何かの兆しを待っている。愚か極まりない。 気品、上品、出生それがなんだというのだ。 本気で国を思い、国を良くしようと思うものならば、そんなものを気にせずに勝手に何でもやる。自分の意志でやろうと考える。 貴族で無ければ国を思うことが出来ないなど非常に馬鹿げた発言だ。 そんなものにしか拘れないから、貴様達はこうして縄についている。それすら気づかないとは、見下げた気品だよ。」
ザベル以下、今回反乱に荷担したもの達は、口惜しく押し黙るだけだった。。 アルスは、宮中に戻る事を伝えた。今回の反乱者たちは、そのまま連れて行くように命じた。 「輿に乗せる必要は無い。自らの足で歩かせろ。跪き、涙の一つを流しても容赦はするな。鞭を放ち、立って歩かせろ。」 アルスの命に、暗部たちも了解をし、ザベル以下反乱者たちを連れて行った。
後始末は任せるといい、アルスも帰途の地に付いた。
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