次の日から、大量に抱えた食料を持ち圧倒的優位に立てると思っていたザベルの陣のモノ達が、今日の飯すらまともに取れないほど、いきなりひもじい生活を余儀なくされた。 多少の蓄えが城に残っているとはいえ、兵士達全員まで、まかなえる食糧は既に無い状態にあった。 城壁を守る兵士達は下を見下ろすと、陽気に騒ぎ、酒盛りをするアルス軍が見て取れた。 楽器を奏で、歌を歌い、踊りまで踊っているもの達を見、自分達の身の置き場すら感じない者たちが出始めていた。 ザベル自身も城の奥深くに篭り、酒びたりになっていた。
「たった一日で、こうも形勢が崩れ落ちるものなのか。」 「篭城という策は、食料があって初めて成立する策だ。 頼みの食料が無くなった時点であいつらの未来など見えている。」 「攻め時を見誤るなということですね。」 「俺としてはこのまま自滅してもらいたいぐらいだな。」 「ザベルが、ヤケになり央国の武器を使ってこない保証は?」 「無いとはいえないが、冷静さが無くなったモノだ。立ち戻るには時間がかかる。まして、王宮の自分の味方といってもほぼザベルの言いなりだ。勝手な都合で動くとも思えん。正直、ありえんな。」 「そうですね。」 「実際、兵が動いている情報は来ていない。うまくいっていると考えていいだろう。」 「はい。」 「しかし、こうもあっけないものですか?仮にもザベル公は戦上手と昔から言われておりました。 その方が、まるで赤子のような醜態ぶり。そうなるはアルス王の策によるものか。」 「ふん、戦上手?馬鹿いえ、まともに戦経験もなく、力でしか己を誇示できないものを戦上手などとはいわない。さて、詰めに入るか。中途半端に冷静になられてもつまらんしな。」 「はい。」 イオを含め主だった将軍は、その場を後にした。
アルスは本陣に戻り、シグナスに話しかけた。 「なかなかいい感じだ。このまま終わりそうだな。」 「はい。あの、陛下。」 「どうした、シグナス。」 「はい。ルドの民の投降確認しました。しかし、まだ暗部のものが帰ってきていません。」 「そうか。」 「ご存知だったのですか。」 「ああ、もう一つ彼らにはやってもらう事がある。」 「何を?」 「扇動」 「扇動?」 「ザベル軍の兵の大半は、近隣の村から強制的に徴収された者たちが多い。 自主的にザベルに従ったものなど少ない。いや、いないといってもいいだろう。 ついでに、今はろくに飯も食えない状態。われらの宴を見て、そろそろ、なんでここにいなければならないのかという疑念を抱く。 そこについて、多少の扇動をしてもらう。願わくば、ザベルでも捕まえて欲しいところだが。」 「なるほど。」 「まぁ、扇動は非常に難しい事だ。下手をしたら、命を落とす。無理はするなと言ってはあるのだが、戻っていない所を見ると、命を賭して決行するつもりなのだな。」 「そうですね。」 「城門の一つも開けてくれればよいのだが。。あとはこちらでなんとかする。」
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