夜、本陣には煌々とカガリ火が焚かれていた。 アルスは、シグナスと共に将棋を打っていた。 この国には、当然将棋なんてものはなかったので、アルスが特別に作らせ、ルールを教えた。
パチン、パチンという音が、静かな夜に響くように聞こえた。アルスが、一つのコマを盤面上に置き、 「王手。」 将棋の駒である歩が、置かれた。シグナスは、盤面上を見渡し、逃げる場が無いことが解ると 「参りました。」 そういい、頭を深く垂れた。 「もっと強くなれ。将棋は戦と同じだ。この四角い盤面は戦場。 どれだけ有効に、駒を動かし、最小限の力で、相手の首を欠くか。 例え最弱だと言われる歩であれ、使い方によっては最強である王の首も取れる。」 「はい。」 シグナスが納得すると共に、なにやら城の上が騒がしくなった。ふとアルスは上を見上げると、 黒い煙と共に赤い炎が幾重にも重なるように燃え上がっているのが見て取れた。
監視を行っていたルクスが、報告に現れた。 「ザベルの城内にて火災が発生。」 「そうか。ご苦労。下がってよい。」 「はっ」 アルスは、再度、ザベルの城を見て、ニコリと微笑んだ。
城中では、大変な騒ぎになっていた。食料庫から火の手があがり、火を急ぎ消すように命じたが、 肝心の奴隷達がただの1人として見当たらなかった。 火をつけるのとほぼ同時に城から姿を消してしまったのだ。 それらも全てアルスの指示だった。 火の気があがり、原因を追求すれば必ずルドの民に被害が及ぶそうなる前に撤退しろと。 そばにいた兵士達が急ぎ水を持ち、食料庫の鎮火に当たったが、時はかなり遅く、ほぼ全焼だった。
ザベルは怒りを露にした。 「誰だ。火をつけたのは。誰の仕業だ。」 「わかりません。」 「奴隷達が何故消えた。奴隷の仕業だな。あいつらめ。今まで生きていけたのは誰のお陰だと思っている。恩を仇で返すような真似を。」 「食料庫が全焼。食料が全て灰に。ザベル様、我々はどうすれば。」 「知るかぁ。」 ザベルは、棄て台詞のように言うと途方に暮れる兵士と、元貴族を残し、その場を去った。
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