イオは、 「う〜ん。なんとか、城に戻る前に決着を付けたかったが、距離を見誤ったな。食料が尽きるのを待つという道は難しいのかもしれない。 奴らの城の中に、どれだけの蓄えがあるのか、皆目検討もつかない。しまったな。」
ザベルの城を見上げながら、呟いていると、イオの横に、レイカが並び、 「陛下の懸念はこういう事だったのですね。彼らの食料が尽きるが早いか、こちらの食料が尽きるが早いか。」 レイカの発言に、イオは、一度レイカの顔を見たが、くるりと踵を返し、本陣に向かって歩き出した。レイカも何事かと思い、イオに着いて行った。 「陛下の事だ。相手の食料の量を調べていない訳がない。今後の策を朗じねば。」 本陣に入ったが、誰もいなかった。 「あれ?陛下は?シグナス殿もおらぬ。」 イオは、辺りを見回したが、アルスを見つけられなかった。もしや、と思い、高見櫓に向かうと、シグナスと連れ添い話をしているアルスを見つけた。 イオは、櫓に登り、アルスに、 「陛下。敵の食料の量。ご存知なのでしょう?我らは、奴らとの戦いにおいて、どれほどと考え置けばよいのですか?」 アルスは、イオをちらりと見た後、 「5日程度だろう。」 と話した。イオは、有り得ないといった顔持ちで、アルスを見た。アルスは、ニコニコと笑いながら、 「仕上げは上々。あとはごろーじろって奴だ。」 イオは、何を言っているのかさっぱり分からなかった。
なんとか、城に戻ったザベルは、疲弊しきった体を休めながら、 アルスにしてやられた怒りで、震えていた。 元貴族の者達もザベルの怒りを静めるのに手一杯だった。一人の元貴族が、 「ご心配めさるな。ザベル様。我らには、5年を食いつなぐほどの食料を貯蔵している。奴らの食料が無くなる事は間違いない。撤退する時を見計らい、追撃すればよい。 それこそ、あのアルスめにやられた方法をそのままあいつに返し、昼な夜な攻め立てれば、奴の首を取る事など容易いというものだ。」 その言葉に初めて、ザベルも落ち着きを取り戻し、 「そうだな。それにもしもの時は、央国から預かっている兵器を使えばやつらなど、ひとたまりもないわ。 ようし、これから先は徹底した篭城作戦に出る。あいつらが、何かしてきても無視しろ。いいな。」 元貴族達は、ザベルの言葉に少しの不安も感じず、その策を了解した。
一方、アルス軍では、本陣でアルスを踏まえ、話をしていた。 「奴らの食料は、まともに食いつなげば5年は有にある。 篭城戦にでもなれば、こちらの勝ち目は圧倒的に少なくなる。 我らは自ら不利に追い込まれる事になり、決して好ましい状況ではない。」 「だからこそ、陛下は、城に戻す前に決着を着けよと申された。」 「我らは、それを理解せず、ただ追撃だけを考えていた。。」 イオを含め、主だった将軍達は、潔く頭を下げた。
アルスは、 「それは、もういい。どのみち、食料の事で、城に戻す前にという話ではない。」 「へ?」 「食料よりも恐れたものは、央国の兵器だ。あれを奴らが出してきたら、それこそ、こちらの被害は甚大なものになる。だが、お前達がザベルへの追撃をしてくれたことで、多少の時間が稼げた。 奴らが城を出ている間に、暗部の手によって使えないところまでは追い込んである。」 「央国の兵器が、何か分かったのですか?」 「ああ、わかった。対抗する手立てはあいにくと今のところ思いつかないが、今回は、先に情報を貰った分こちらにとって有利な方向で動かすことは出来た。」 「なんと。」 「奴らのこれから先の考えなど見通せる。相手は、自分達の蓄えとこちらの蓄えのどちらが多いかを知っている。故にこちらは早期に事に当たる事を考えていると思っているだろう。 こちらが、城から引き出そうと、躍起になり、どれだけ感情を逆撫でしてもそれには堪えないだろう。 そして、こちらの気持ちが下がってきた頃を身計らい、真似事の様な夜襲をするのが関の山だ。」 「なるほど。」
「しかし、そうはいかない。相手の優位で動く事ほど愚かな事は無い。こちらが圧倒的に優位に立つ。戦というのは、優位性によって気持ちの高低など変わるものだ。 奴らにとっての優位性は、蓄えた食糧と、央国の兵器。それを無効化する。相手は、篭城に出ても問題が無い事を自分自身がよく知っている。それだけの食料を持っているのだからな。だが、相手のその傲慢な優位性は打ち崩させてもらう。それだけの手札をこちらは持っている。」 「暗部ですか?」 「そうだ。食料は燃やす。燃やして無に返す。火によって灰になっていく食料を見れば、奴らの精神的優位など簡単に崩れ去る。冷静に物事を考える時間は与えない。」 アルスは、そういい、軽く微笑むと、ザベルの城を見上げた。
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