戦は、熾烈を極めた。ザベル軍のほうが少し兵数は多かった。 近隣の若い男達を強制的に徴兵していたせいもあった。
しかし、数が少ない分、イオ率いる兵は、どれも屈強な者達が多かった。 兵一人一人の力は、圧倒的にアルス軍の方が勝った。 いく時の後には、ザベル軍の撤退を余儀なくさせるまでに至っていた。
意気揚揚と叫んでいたザベルも自身の不利と見るやみるみると後退していき、ザベル軍は、自分の陣に逃げ帰った。
イオ達アルス軍も、ザベルの兵が撤退したのを確認し、自陣に戻った。 ザベルは、陣に戻るなり、自分のかぶっていた兜を投げ捨て、
「どういうことだ。なんでこうなった。奴らをおびき出し、アルスの城内部にいた我らの内通者との挟み込みで根絶やしにする筈だったのに。私の策は完璧だ。 なのに、何故、こうも早くアルスがあそこにいた。それだけではない。 イオは、牢獄に繋がれている筈では無かったのか。何故、ああ、どれもこれもアルスに狂わされたのか。忌々しいヤツめー。くそぉー。」
「ザベル様、お気を静め下さい。まだ負けたわけではございません。こちらの兵は、まだ戦えます。明日の朝にでも、再戦を挑み、今度はこちらが蹴散らしましょうぞ。」 ザベルを嗜め、そして未だ勝ちを思う血気盛んにな元貴族達がそこにはいた。 一方、アルス軍では、すでに次の軍議が行われていた。
「城に戻るのは、不都合とおっしゃるか?陛下。」 「出来ればの話をしている。無理にとは言わない。」
「おそらく、敵が城に戻るのは、時間の問題と思われます。戦とはいえ、敵は所詮貴族くずれ。戦をもしらぬモノたちです。奴らへの追撃を行い、戦意が無くなれば、こちらが追い立てずとも、勝手に城に戻ります。戻る前に叩くのは、正直難しくございます。」
「そうか。ならば、決戦は、城になりそうだな。ならば、最短で、奴らを城に戻せ。」 「はい。では、明日にでも早速。」 「明日?馬鹿いえ。夜襲を行え。」 「夜襲?」
「夜に戦をしろと言っている。奴らに休む間を与えるな。軍を二つに分け、一つが戦っている間、一つは休息を取れ。一つが帰ってきたとき、もう一つが今度は戦に出よ。朝も夜も関係ない。連続で、奴らを追撃しろ。さすれば、疲労が重なり、安全な城に戻る足並みも早くなる。」
「わかりました。早速、夜襲の用意を行い、月が天上を指した後、再度出撃を。」 「好きにやれ。私は寝る。」 「分かりました。」
そして、日が暮れ、夕餉の支度とばかりに、ザベルの陣から、煙がたなびくのが見えると、突然、馬のイナナキと数百の人の声が、向かってきた。 何事かと思い、夕餉の皿を持ったまま、陣布を外すと、アルス軍の追撃が向かってきた。
驚いたのは、ザベル軍である。夕食のひと時をすごせるかと思えば、いきなり、また戦いが始まった。しかし、休みを取る気が満々だったものに、戦意などあるわけでなく、武器を取り戦うのではなく誰よりも早く逃げ惑うのに精一杯だった。
イオは、馬を走らせ、 「戦意の無いものを無駄に殺す必要は無い。投降の意思あるならば、それを尊重せよ。」 と触れ回り、戦場を広げていった。アルスは、陣に置いた高見櫓の上で、戦の様子を見ていた。
「さすがは、イオ。戦場を広げ、半分に減った兵力を見せないようにしている。うまいな。戦における応用力はあいつに勝てるやつはいないな。」 戦場では、ザベル以下逃げ惑うモノであふれていた。
月が沈み、空が白みがかってきた時、イオ達第一部隊が撤退の合図を送ると同時に、第二部隊の出陣が本陣では号令されていた。 第二部隊を任されたレイカは、 「出撃!!。イオ将軍らが本陣に帰りつくまえに、合流そして、追撃を始める。奴らに部隊を分けているのを気づかされるな。行け!!」 レイカの言葉に、怒号飛び交うように部隊は進撃を始めた。
第二部隊の進行に入り混じり、第一部隊であるイオの部隊は本陣に帰ってきた。 イオは、陣に帰るや否や、 「第1部隊。休息をとる前に、先に本陣を前に進めてからだ。追撃で稼いだ距離分だけ本陣を前に進めよ。それが終わるまで休むな。少しの時間だ。急げ。」 陣中に響く程の大きな声で、指示をした。
驚いたのは、ザベル軍である。やっと、夜中の間、アルス軍に追い立てられ、ろくな反撃も出来ず逃げ惑い、疲弊しきっていた。 衰えぬ追撃の軍に、生きた心地もせず、ザベル軍は置いたてられ、徐々に後退していった。 ザベル軍は休み無く追い立てられ、投降する人間も数多く出てきた。
最初の状態に比べ、3分の1の兵力を削られ、ザベル達は、息も絶え絶えになりながら、城に引き返した。
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