アルスは、シグナス、ルクスを連れ立ち、休む事無く丸一日、馬を走らせた。 本陣に到着した時は既に朝日が完全に上り終えた時だった。
陣に向かうと、すでに一戦を終えていたのか、少しの膠着状態が見て取れた。 イオや、主だった配下が、返り血のついた鎧を身に纏い、アルスの参上に立ち上がり迎え入れた。
「ご苦労。状況を報告しろ。」
「はっ、昨日昼、ザベル軍の一行がこのカオス峠を超えた辺りで出くわし、ここを最前線とし、かれらを向かえ討ちました。 彼らも我らがここにいた事に驚き、戸惑っていたのでしょう。 碌な陣も敷かず我らを迎え討ちましたが、戦力的に差は無くても策を要したものとそうでないもの差が出ました。 3刻ほど結び合いましたが、不利と見て、撤退をしました。
現在は、あちらの裾野に陣を敷き、様子を見ているといったところでしょうか。」
「それで、」
「はっ、日が完全に昇りましたので現在、追撃の用意を。」 「準備にどれぐらいかかる。」
「既に終えています。王の到着を待つかどうかで少しもめていましたが、気を逃すにはと先ほど決断の指示をしたばかりです。」
「わかった。始めよ。」 「御意。我に続け、追撃戦を始める。目的は、敵軍を、けちらすぞ。」
イオは主だった将軍を連れ、戦場に赴いた。意外だったのは、こちらの追撃を待っていたとばかりに、ザベルは、軍の先頭に立ち、すでに、戦の陣を敷き待っていた。 ザベルは、高らかな笑い声と共に大きく口を開き、叫んだ。 「汝らはわかっているのか。暴虐極まりないアルスに今後忠誠に何の意味がある。大罪を犯したものに、今後の行く末など無い。私が正義の神イズラエルの名の元こうして、王への失脚を促すようまかりこした。誠にノイエを思っての行動・・・・・」 ザベルが意気揚揚と叫んでいる姿が目視で確認が出来た。アルスは、騎乗したままイオに近づいた。 「何をやっている。」 「はっ、戦前の前口上です。」 「そんな習慣があるのかこの国では。」 「はい。正義の神イズラエルの名を持ち、身の潔白を天に捧げ、清めた後、戦を。」 「またイズラエルか。互いの言い分は、それぞれの正義だ。どうせ、勝った方が正義なんだろう。強いものが正義。そんな一方的な神など存在してたまるか。構わん、射よ。」 「しかし、」 「あの戯言を正義と考えるか。お前は。」 「まさか。」 「ならば射よ。戦いが始まった以上、言葉などは要らない。ここでは、剣を持って、分を決めよとなっている。馬に説法をといても一生理解などできん。こちらの理屈と向こうの理屈が違う以上、どんな口上を述べたって状況など変わるか。」 「御意。」 イオは、天高らかに手を上げ、射手隊に向け合図を送った。ザベルは、まだ高揚とした顔で口上を垂れていたが、無数に飛び散った矢が降り注いだ瞬間。肝を冷やした感で相手を見ると。 怒号と共に、アルス軍が向かってきたのである。 「な、なんだとー、戦を知らんのか、アルスは、そこまでの下卑た者だとは。ええい、あの猿にノイエの真なる気品を教えてやれ。行けー。」 ザベルの合図で、兵士達が突き進んだ。 「久方ぶりの戦だ。ワシの力見て驚け、アルス!!」 ザベルは先陣を切り、馬の手綱を引き、向かってくる兵士に向けて進撃した。アルスは、自分の横を駆けていく兵士達を見送ると、興味のなさそうに、馬を帰し、本陣に戻った。 「シグナス、ルクス、戦場を駆け、状況を逐次報告しろ。」 「はっ。」 そういうと、二人は馬を駆り、刀、矢飛び交う戦場を走りまわっていた。
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