それから更に、時だけが過ぎたある日の出来事である。 誰もいない部屋で、アルスが1人、椅子に腰掛け、天井を眺めていた。
前国王の弟ザベルが、なんの前触れも無くずかずかとアルスの前に現れた。
「見事な醜態ぶりだな。アルス王よ。最近では自分の忠臣であるナッシュたちにも見限られたと聞くが。」
「予定も無く来訪したかと思えば、何の前置きも無く言う言葉がそれか。 こことは真逆に位置しているのに、随分と情報が早いな。」
「私は、なんでも知っておきたい性分でね。それ見たことか。 私が何度も、諌め、正しき王としての政務を促しているにも関わらず、このような醜態を。 これでは、既に、修復不可能な所まで来ているようだ。 家臣に見捨てられた王に未来など無い。いさぎよく退陣し、後継者に受け継いだらどうだ?」
「全く諌められた覚えは無いが。それに、後継者?誰だ?それは。 俺は嫁も子もいない。後継などはいないと思うが?」
「決まっておろう。お前の弟、デミトリがいるではないか?」
「意外だな。てっきり、自分の名前を出すかと思ったぞ。後見人が王になる。分からない話ではないしな。」
「どうも、お前は勘違いをしているようだな。 私はあくまでも後見人という立場を崩したつもりは、最初から無い。 王が正しく先を見通し将来を築いてくれる事を望むのが、後見人の役目。 王位などに興味など無い。貴様に王の資質が無ければ、次に期待するのは後見人として当然のこと。」 「ほー。後見人のねー。それは、知らなかった。気づかなかったな、全く。はっ。」 アルスは、今気づいたかのように鼻で笑った。
「今日来たのは他でもない。央国より、書状が届いている。お前宛だ。」 そう言い、ザベルはアルスの傍に書状を投げ捨てた。アルスは、書状を拾い上げ、中身を見た。
手紙の中身は簡潔に書くと、 新王の即位以来、一度の央国への参内も無い。 偉大なる央国王への拝顔を行うこと、そして、前国王に仕えた貴族の再雇用と奴隷解放の撤回。 そして、税の見直し、王族の威光の復活。 暴虐の象徴とも言えるあの建設中の城の撤収。 城を建てるには央国への申請及び許可が必要な事などが、長々と連ねられていた。
アルスは、ある程度、読むと、書状をビリビリと破き、床にばら撒いた。 「ふん。馬鹿馬鹿しい。央国からの書状が叔父上に届いたことも訳がわからんが、こうも手前勝手な事をよくもほざく。 寝言は寝てほざけ。全く、話にならん。」
その言葉にザベルは、みるみると顔を赤くし、 「私への暴言は黙って耐えよう。しかし、央国への無礼な発言耐えられるものではない。 そのような無礼極まる態度を神々が許すものか。 正義の神 イズラエルの御霊の前でも、そのような暴言をいつまで吐くか?」
「イズラエル?何だ?それは?央国だの神だの頼るものが多くて大変だな? 誰の前であろうが、同じ事を言ってやる。寝言は寝てほざけ。俺がやるべきことは俺が決める。誰の許しも得ようとは思わない。その為の王だ。」
ザベルは、憤慨した顔持ちで、 「今に国は割れる。お前の暴虐がいつまでも通用すると思うな。天は我に味方している。」 そういい残し、入ってきた時よりも更に足音をでかくして部屋を去った。
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