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作品名:ノイエの風に吹かれて 作者:xin

第1回   第01幕 第00章-[帰郷]
高くそびえた岩壁に頬杖を突き、溜息を吐きながら沈みゆく太陽を直視する訳でもなく無防備に見ている男が1人。
眼下では夕餉の支度中か屋根についた煙突から白い煙をたなびかせている家が複数見えた。

太陽を眺めている男から少し距離をおき、膝を付き、頭を低く下げた数人の男達が見える。
よくよく周りを見渡すと少し西欧風な雰囲気のあるインテリアだが、置かれている品々は金銭価値の高そうなモノが無造作に置かれていた。

柱一つ、廊下一つ見てもとても巨大で、宮殿を思わせた。
男は、周りを気にせずにもう一度大きな溜息を吐き出し、言葉を漏らした。
「なんなんだ、ここは。」

時間を少し遡る。男は間違いなく寝ていた。
大学の推薦が決まっていたが、家庭の事情から、入学を辞退し、高校を卒業と同時に、社会人となった。
慣れない日々の多忙な毎日。仕事が終われば、疲れた体を引きづり、帰路につく。
それでも、毎日が変わらぬ日々だった。

いつものように、家へ帰り、夕食を済ませ、大して面白くも無いテレビ番組を見、風呂に入り、眠りについた。
疲れた体を癒すには眠りが一番である。深い眠りにつくことに時間はかからなかった。

眠りについて、数時間が経った。時計を見ていないので正確な時間は分からない。
だが、時間は経っている筈だった。

そんな時に、事件は起きた。

「起きてください。アルス様」
枕元に顔を寄せ、眠る男の耳元でそう囁く声が聞こえた。

脳に信号が届くまでに時間を要した。起きる気配の無い男の肩を何度か揺することで、男は、眠りから覚めた。
深い眠りの後であったためか男は寝ぼけていたのだろう。

「はい、いやぁ、寝ていませんよ。全然。仕事中に寝るわけがないじゃないですかぁ。やだなぁ。ははは。」
そう言い訳をしながら、状況確認の為、周りをきょろきょろとした。
辺りが暗く自分の部屋であることに気づき、
「なんだ。夢か。」
男は安堵した声を上げ、頭をかき上げ、再び眠りにつこうと掛け布団を被り、再び安眠の淵に入ろうとした時、再び声がかけられた。

「アルス様。起きてください。お迎えにあがりました。」
男は、その声に反応し、声のする方向に目を向けると、数人の男が膝を付き、眼前にいた。
「わっ。な、なんだ!なんで。ど、泥棒!?」
驚き、ベッドから起き上がりざま、勢い任せで後方に飛んだが、壁に遮られ背中を打ちつける形となった。
「痛っ!!」
ぶつかった背中をさすり、暗がりの中にいた男たちを恐る恐る見上げると、
「お静かに。怪しいものではありません。アルス様。お迎えに上がりました。」

「十分に怪しいよ。アルス?誰だよそれは。俺はそんな名前じゃない。人違いだっていうか、どっから入ってきたんだ。」
男は、自分で何を言っているのか全く解らないほど気が動転し、叫びまくっていた。

男たちは互いに顔を見合わせ、
「申し訳ありませんが、急を要します。事情は後でご説明いたします。まずは、故郷にお帰り遊ばせ。」
そういうと、一人の男が、1枚の札を俺と男達の間に、置いた。
すると、その札を中心に、空間が捩れるのが見えた。

札からは、全てを吸い込むかのような大きな空間の歪が出来たかと思うと、瞬く間に俺とそばにいた数人の男たちを飲み込んだ。

俺は大きな叫び声を上げながら、何かに吸い込まれていくような感覚に襲われた。
「うわー。な・ん・な・ん・だ・――――― うっぷ、気持ち悪い。」
男たちは沈黙のまま顔を伏せ、俺は、あらん限りの声で叫んだ。歪んだ空間の中、
「夢の続きが見た事も無い悪夢なんてー」
と思いながら、意識を失った。


目を覚ました時、俺は、五百人は余裕で入れると思うような広間に寝転がっていた。
未だ事態が飲み込めず混乱する頭を抑えながら辺りを見回すと俺をここに連れてきた男たちが座っていた。
部屋が暗かった為、男達の容姿に気にも留めていなかったが、明らかに日本人という顔立ちではなかった。
肌の色も顔立ちも西洋人に近いと思えた。
「夢じゃなかったのか。なっ、なんなんだよ。お前達は。」
「お帰りなさいませ。アルス様。」
「アルス!?」
俺は、自分がそう呼ばれている事に疑問を感じた。

「俺は、そんな名前じゃない。俺の名は、島木 徹。正真正銘の日本人だ。
というか、一体ここは何処なんだー!!」

「ここは、ノイエの国。そして、あなた様は、このノイエ国の36代目オルバス国王が第一嫡子 アルス様でいらっしゃられます。
さぁ、詳しいことは後で、国王が大変危険な状態なのです。早く皇子のお姿を。」
そういうと、無造作に、俺の腕を掴み、足早に広間を後にした。
俺は腕を引っ張られ、足を縺れながら叫んだ。

「だから、人違いだって言ってんだろう。アルスなんて名前じゃないし、父親が危篤。何を言っているんだ。
俺の親父は、田舎でピンピンしてるよ。」
「あの方は、あなたにとって育ての親にはあたりますが、本当の父君ではあられません。」
「はぁ?」
「先ほども申したように、あなたの本当の父君は、この国の王であられるオルバス様なのです。」

「だ・か・らぁ、話が見えないんだよ。」
「あなたは、生まれて間もなく、ある事情から地球という惑星に送られたのです。
そして、島木家で、育てられ、今日にいたるだけの話です。」

「だけって、大事だろ。それは。」
「さぁ!国王の寝室に着きました。身なりをご整えください。
そのような姿、大変失礼かもしれませんが、急を要します。さぁ、早くお入りください。」

「お前なぁ、ちょっとは人の話を、聞けよ。。 っと。わっ!!」

俺は、背中を押され、半ば強引にオルバスという名の王の寝室に入れられた。

するとそこには、数十人の人が一つのベッドを囲み立っていた。
押されるように部屋に入った俺は、前かがみの姿勢だったが背筋を伸ばし眼前を見ると
部屋にいた者達が一斉に、俺に視線を向けた。

俺の後ろから、1人の男が叫んだ。
「国王、ただいま、第一皇子 アルス様が辺境の地からお帰りあそばしました。」

その声に呼応してか広々としたベッドに横たわった者が、弱々しく手を上げ、傍に来るよう手を振った。

後ろにいた男は俺の背中を軽く押したので、俺は、手を上げた男の傍に寄るべく足を運んだ。

部屋のドアからベッドまでにも広々とした空間と距離があり、「先ほどまで自分が寝ていた部屋が4,5個は軽く入るな。」と驚きを通り越して呆れた形で、ベッドまでの道を歩いた。
すれ違う人たちから、隠せない戸惑いを持った顔や、怪訝とした表情が見て取れた。
俺は、その横を通り過ぎ、国王と呼ばれるものの傍によった。

頬はやせこけ、血の気が引き、白みさえ帯びた顔持ちの男は、弱々しいながらも凛とした声で、

「よく帰ってきたな。アルス。大きくなって。お前に会いたいと何度思ったことか。
お前と共に暮らし、ノイエの行く末を見たかったのだが、それも適わぬようだ。私の亡き後、この国を頼むぞ。アルス!。」
声をかけ終わった後は、息も荒げていた。

そばにいた重臣達は王の名を連呼していた。国王は息を整えた後、再び口を開いた。
「アルス、お前には三人の弟たちがいる。デミトリ、キーヴ、ノリスと力を合わせ、ノイエを盛り上げていくのだ。
ザベル。私の唯一血を分けた弟よ。アルスの後見人として補佐し、助けとなってくれ。」
オルバス王の言葉にザベルと呼ばれた者を一同が見たため、俺も釣られてその男の顔を見た。

ザベルは、俺を押しのけるようにオルバスの前に立つと
「何を弱気な事を、王ともあろう方が、そんな弱気を見せてどうする。兄上。元気を出すんだ。」
激励とも呼べる声でオルバスの顔を見て叫んでいたが、

『なんだ、こいつ。言っている事と、表情が違ってるだろ。嫌な顔だ。
第一印象最悪。』
俺は、ザベルの顔を見て、はっきりと思ったが、さすがにこの場に相応しくないと口には出さなかった。

オルバス国王は、「国の行く末を最後まで見たかったがそれが叶わなかった。次の世代に任せる。」と言うと、静かに息を引き取った。
傍にいた医師は、命が尽きたことを宣告すると、周りにいた者達が泣き崩れその場にひれ伏した。

俺は、しばらくその様子を見ていたが、混乱した頭を整理すべく寝室を後にした。

寝室を離れ、無意識に外が見える通路まで歩くと、日が沈みかけた夕暮れの太陽を見る事になった。

気づくと、後ろには、俺を連れてきた男達が伏せて座っていた。
男の1人が声をかけてきた。
「いかがされました。何故、部屋をお出になられたのですか?」

「今日初めて見た者が死んで何を思うことがある。
父だと言われてすがりつき泣くほど親しみも悲しみもない。
それに俺はまだ自分の置かれた状況が理解できていない。
俺がこの国の者で、皇子で、アルスという名前だと言うことも。それに、次の王様だと。一体、何なんだ。」

「それは、察します。どこから、話せば良いのでしょうか?」
「最初からに決まっている。アホか。」
俺は、呆れ半分怒り半分になりながら、太陽が沈みきるまでそこから動くことは無かった。

その後、ワルダという男から事情を聞いた。
話によれば、幼き頃、央国という国の身勝手な事情により、ノイエの跡継ぎつまり俺を央国に差し出せと言ってきたらしい。
オルバスにとっては跡継ぎが人質同然になる身を許せず古に唯一残ると言われた1度きりの転生術なる禁断の力をもって、
アルスを異国の地に飛ばしたのだという。

央国には、跡継ぎが病気によって死んだと宣告したといい、事なきを得たということだ。
それが結果的に良かったのか悪かったのか俺には分からないが、時期が来て俺は、再びノイエに戻されたのだ。

その時期とは前国王つまりオルバスの死によって戻される事になった。
他に3人の後継ぎがいるというのに、それを良しとせず、わざわざ、禁断の力を使ってでもアルスを戻した真意が気になる所だが、
死人に口なしでは、憶測を張り巡らせるだけだった。


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