伸也は、加藤刑事と、数人の刑事と共に外に出た。 外に出ると、そのまま向かいの河北孝仁の別荘の敷地内まで入り、庭にまで侵入した。 河北家もまだ全員起きていたので、庭の侵入者を見て、思わず窓を開けた。
伸也は、ぺこりと頭を下げ、 「あの中で話す内容ではないので、少し庭をかります。」と言うと、 孝仁は、部屋に入るように促したので、素直に全員はそれを受け入れた。
居間では、大介達とは別に、数人の刑事と、伸也が丸く円を囲うような体制になった。 由里の母である郁美がご丁寧に皆に茶を配ってくれた。
開口一番1人の刑事が、 「あの森田さんを疑っているんですか?」と問う。 「少し。。。」と伸也は答える。
「長年働いていて家族に信用を置いてもらえている人間だぞ。ありえるか?」と言うが、 「そんなものに、何の根拠もありません。信用する・しないは、相手の勝手な思いです。 内藤家は、森田さんを信用していても、森田さんは信用していない。そういう構図だってある。 情報は、明確な理論で伝えてください。」 伸也は、冷たく言い放つ。その言葉に、刑事は黙ってしまった。
「気になることがいくつか。 犯人は、どうやって、森田さんが家に戻ったことを知ったのでしょう。 同じように、母親である和美さんが到着したことをいつ知ったのでしょう? どちもら、家に入るや否や電話がされているようです。 この家を監視できる位置にいるか、誰かが合図しているか?
犯人が言ってましたよね?警察を呼びたければ呼べばいいと、 日本の警察は不祥事も多いですが、優秀かどうかの話ならば、大変優秀です。 にも関わらず、警察を呼んでも状況が変わらないとまで断言するには、理由がある筈です。
もしかしたら、盗聴という可能性もある。」
「盗聴?」 「可能性の話です。」 「調べてみよう。」 と加藤は、言い、配下の刑事に盗聴調査をするように命じた。
「アイス屋は?」の伸也の問いに、 「森田さんの裏づけの為に、調べた。既に身元はわかっている。 地元の人間だそうだ。目撃証言も出ている。 森田さんと5分ほど会話をしたそうで、その内容も覚えていた。」 「会話?」 「ああ。他愛も無い話だ。この地の気候や観光客が多いとか、そんな話だ。」
「なるほど。では、今現在の最後の質問です。 1億が会社にあると知っていたのは、社長以外は誰がいますか?」 「どういう意味だ?」 「銀行は、17:00になれば、窓口は閉まります。 その状況の中、金を用意しろといわれて、簡単に用意できる金額ではない。 まして、電話があった時間は、17:00少し前。 窓口が閉まるのが解っていれば、そんな時間に電話するのはおかしい。
お金が目的ではないかもしれません。 用意できない額を提示して、無理といえば、娘を殺害。そういう考え方も出来ます。
ですが、仮にお金が目的だった場合、会社にある1億を想定して、言ったという考え方もできる。 そうなると、会社に1億がある事を知っていた人間が、捜査線上に浮かび上がるというものです。」
「なるほど。会社関係者か。昨日、今日と休んでいる人間が怪しいな。よし、調べてみよう。 しかし、森田との繋がりは?」 「それを調べるのはあなた方です。」
伸也は、きっぱりと言い放つと、加藤は速やかに、自分の配下の者達に指示すると、 そのまま行動を始めた。 伸也と面すると、情けなさが前面に出るが、加藤本人は、警察機構では極めて有能な人間である。 だが、事伸也と面すると、自分の都合どおりに行かないことが多いのである。
「お手伝いさんと、会社関係者のつながりか。。。」 「もう一つは、奥さんと会社関係者か。」 ポツリと呟いた加藤刑事に合いの手を入れるように、伸也は言葉を追加した。 「は?」
「和美さんと、会社関係者です。森田さんは、あくまでも補佐。もしかしたら脅されて仕方なくという考え方もできる。 先ほど、あなたが自分で言ったではありませんか。家事手伝いと、会社関係者の繋がりが不明だと。 ならば、もう一つの解りやすい繋がりを考えてみてもいい。」 「だが、自分の娘を殺すというのか?」
「そこにも根拠はありませんね。親が子供を殺したり、子供が親を殺すことだってある。 自分の娘を殺さないという根拠はありません。何年警察やっているつもりですか? 参考までに、家族の血液型を調べるように。」 「わかった。。。」
「それから、現状、内藤家にいる誘拐対策チームと、 頼子ちゃん捜索チームは分かれて行動してください。 だれが、共犯者かはっきりしない状態で、情報の共有は危険です。 捜索チームの指揮は加藤さんが行うように。 それと、話をする場合は、必ず、ココもしくは、あの家から離れた場所で行うように。いいですね。」 「わかった。」
刑事達は、河北家の面々に頭を下げると、そのまま、向かいの建物に戻っていった。 伸也も、庭に置いた靴を履き、 「皆様、おやすみなさい。夏とはいえ、避暑地ですから朝晩は冷え込むと思います。 風邪などひかないように。」 といい、向かいの家に戻ろうとするのを、孝仁が止めた。
「こちらで休まないのかね?」 「協力しろと要請が出ていますから。それに、幼子の命が奪われようとしています。 その前に、助けたいと思います。 できるかどうかはわかりませんが、今は、1人でも手助けが欲しい状態ですから。 警察を手伝ってきます。では、おやすみなさい。」
その言葉を聞き、孝仁はまた、止めた。 「私達も手伝おう。人手がいるんだろう?」 「しかし、せっかくのご旅行です。犯罪に巻き込まれるのはお嫌でしょう。」 「好き嫌いを言っている場合では無いと思う。 確かに、知らない人ではあるが、このまま無視も出来ない。協力させてくれ。」 孝仁の言葉が聞こえてか、大介達も、頷くのが見えた。
「わかりました。本当にすいません。せっかくのご旅行を台無しにしてしまって。 ご好意に甘えさせていただきます。 では、交代制にしましょう。女性の方々は先にお休みください。 夜に迂闊に動くものではありません。 大介君と拓也君は、警察の指示に従って、犯人の隠れそうな場所を探すのを手伝ってください。 それと、由里さんのお父君には、別にお願いことが。。。」
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