20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:杏色の泉 −色彩の森シリーズ− 作者:xin

第7回   第07話 一日目・22:00
玄関の呼び鈴が鳴る。
「夜分遅くすいません。捜査一課の加藤と申します。
こちらに安原伸也君がいらっしゃると思いますが。」
と玄関先での声がする。

玄関を開けると、先ほどきた2名の前に1人の刑事が立ち、丁寧に頭を下げた。
孝仁は、
「こんな遅くに来るとは非常識だろう。」と怒り気味で言うと、
申し訳なさそうな顔をしながら、
「大変申し訳ありません。こちらも非常時です。礼をかいたことはお詫びします。」
と丁寧に頭を下げた。

「日頃からそれだけ、態度が低ければ僕ももう少し協力してもいいと思うんですけどね。」
孝仁の背後から、加藤にとって聞きなれた声が聞こえる。
加藤のコメカミにピクリと血管が浮く音が聞こえてくるようだった。
「警視総監から、要請書ももらっている。捜査協力をしてくれ。伸也。」

ふぅと溜息を一つ付き、人への頼み方を知らないのですか?と皮肉を一つ零したが、
状況的に見て嫌味を続ける場で無い事を十分理解していた伸也は、
「まぁ、いいでしょう。ちょっと行って来ます。」
そういい、伸也は、加藤達と共に、向かいの家に行く。

居間にいた一同は、
「結局何者なんだ?あいつは?」と疑問視する声。
1人、心配そうに、向かいの家を見る由里。
そんないじらしさを眺め、心配そうに顔を合わせる父と母。

向かいの家に入ると、居間では、被害者でもある内藤高志とその家内が中央に座っていた。
その両脇を守るように刑事が数人座り、いろいろと話をしているのが見えた。

その様子をチラリと見た後、伸也は加藤刑事に尋ねた。
「身代金の要求はされたんですか?」
「ああ。1億の金を要求している。」

「1億ですか。6歳の子供にその金額は随分大きいですが、将来性を考えれば妥当ですかね。」
一言感想を漏らし、部屋のレイアウトを見ようと辺りを見回すと
奥のキッチンに、エプロン姿の女性が1人。

「あの方は?」と伸也が問うと
「お手伝いさんだ。誘拐された娘さんの最後にいた人だ。」
「事の経緯をもう少し詳しく話せますか?」
「ああ。

事件があったのは、本日昼14:00未明
11:00頃、先に、別荘に来ていた家事手伝いの森田さんと娘の頼子ちゃん。
13:00頃、外にでて散歩。
13:40頃、
家の少し手前で、アイスを売っていた屋台に、森田さんがアイスを買いに頼子ちゃんの傍を離れた。
アイスを買って戻ってくると、家の前で待っていたはずの頼子ちゃんが不明。
家に戻ったと思い、家宅内・外を探したが、所在が不明。

14:30頃 森田さんが家に戻ると、1本目の電話が来たそうだ。

「お宅の娘さんを預かった。証拠を提示する。お前の家の玄関先に娘の靴を置いた。
確認しろ。また電話する。」

その電話で、森田さんが玄関を確認すると、ほら、机の上にビニールで入ったピンクの靴が見えるだろう。
あれが、置いてあったそうだ。
ちなみに、あの靴は、今日履いていた靴で間違いない。
森田さんは、母親と父親に電話して、頼子ちゃんが誘拐された事を告げた。

16:00 母親である和美さんが別荘に到着
16:15 誘拐犯から2回目の電話が来た。
「娘の靴は確認したな?無事に返して欲しかったら金を用意しろ。現金で1億。
これ以上まけるつもりは無い。取引日時はまたあとで連絡する。それまでに金を用意しておけ。
それから、警察に連絡するなら好きにしろ。警察を呼んだところで、状況は変わらない。」

16:30 父親である高志さんが別荘に到着
電話の内容を高志さんに伝え、警察に電話をしたらしい。
事情を聞きつけた、地元の警察。それから、こちらに情報が入り、
18:00 捜査一課が現場到着。

そんな所だ。

「3本目の電話は?」と伸也が聞くと、まだ無いと言葉が返ってきた。
「ふーん。」と答えた後、伸也は、加藤にいくつかの質問をし出した。

伸也:「なぜ、父親と母親に電話を?」
加藤:「二人とも別の場所にいた。 父親は、会社 母親はスクール。」
伸也:「なんで、旅行前に、会社や、スクール?」
加藤:「会社は、急遽予定が入ったらしい。会社の人間に裏づけは取っている。
   スクールは、欠席の連絡をするのを忘れたらしく、連絡をしにいったそうだ。
   こちらも裏付け捜査は済んでいる。」
伸也:「なんで、連絡を電話で済まさなかったんですか?」
加藤:「日本舞踊のスクールらしく、電話で済ますのは無作法なんだそうだ。」
伸也:「一億の集まり状況は?」
加藤:「会社に現金があって、その現金から1億を用意している。
こちらへの到着は、早くても朝になるそうだ。」
伸也:「あの森田というお手伝いさんは、どのくらい働いているの?」
加藤:「4,5年働いている。との事だ。」

伸也は、考え込むように俯いていたが、ふと顔を挙げ、
「森田さんと話がしたいです。こちらに連れて来れますか。」と言うので、
加藤刑事は、台所にいた森田を連れてくる。
伸也は、森田の前で丁寧に頭を下げ、
「すいません。2,3質問があります。解る範囲で構いませんのでお答え願えませんでしょうか?」
と言うと、
森田は、なぜ、ここに子供がいるのかと不思議な顔をしていると、二人の間に割り込むように、加藤刑事が
「こちらは、見た目が若く、一見子供に見えますが、立派な警察関係者です。
質問に答えてください。」
とフォローした。

伸也:「なぜアイス屋に行くのに1人で行ったんですか?
    普通、子供の欲しいモノを選ばせてあげるのではないでしょうか?」
森田:「アイス屋には、1種類しかなかったので、選ぶ余地はありませんでした。」
伸也:「1種類しか無いと何で知っていたんですか?」
森田:「アイス屋は、散歩に出る時に、見ていたので、1種類しかないと知っていました。」
伸也:「すると、散歩に行く時に、アイス屋の横を通り1種類しかないのを見ていた。
    そして帰り道にもう一度アイス屋の横を通り、別荘に帰ってきたということですか?」
森田:「いいえ。行きにアイス屋の横を通りましが、帰りは、別の道を通って来たのでアイス屋の横は通ってません。
    だから、頼子ちゃんを家の傍に残し、私だけが買いに行きました。」
伸也:「ところで、この家の電話番号は、電話帳に記載されていますか?」
森田:「知りません。」
伸也:「1本目の電話がかかってきた時、電話のベルは既に鳴っていましたか?」
森田:「いいえ。戻ってすぐに鳴りました。」
伸也:「電話の際、相手と会話の一つも行いましたか?」
森田:「はい。会話になったかどうかは、解りませんが、頼子ちゃんの無事などをいくつか確認し、相手もそれに答えています。」
伸也:「1本目の電話の時に、電話の相手は、あなたがお手伝いさんである事実を知っていましたか?」
森田:「わかりません。要件だけを言うと切ってしまいました。」
伸也:「1本目の電話の時に、16:15頃に電話をする事を言っていましたか?」
森田:「いいえ。」
伸也:「2本目の電話は、内藤さんの奥さんが取られたのは間違いないでうすね?」
森田;「はい。」
伸也;「その際は、名乗られましたか?」
森田:「いいえ。」
伸也:「では、最初と電話の声は、違っていたはずです。それに対して、相手は何か言ってきましたか?」
森田:「知りません。」

「そうですか。わかりました。ご協力感謝します。」 伸也はそれだけ言うと、森田を下がらせた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 42