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作品名:杏色の泉 −色彩の森シリーズ− 作者:xin

第5回   第05話 一日目・19:00
伸也の言ったとおり、部屋に明かりがついた頃、待ち構えていたかのように警察が訪れた。
スーツ姿の男が2名。

丁寧に頭を下げた後、
向かいの家で、誘拐事件が起きたこと。
誘拐された対象は、別荘にいた6歳になったばかりの女の子(娘)
誘拐された場所は、家の近く。目撃者はいないとの事。

娘の傍らには、専属家事手伝いがいたのだが、
ちょっと目を離した隙にいなくなってしまったという事だった。
今日の昼ごろ、どこにいたかなど基本的なアリバイを聞いてきた。

玄関で対応する孝仁。
玄関脇で、警察から見えない位置に並んで立ち、
好奇心旺盛に、事情を聞くユキ・大介・拓也・奈津・由里

居間に残った郁美と伸也。
郁美は、自分に降りかかった災いでもないのに、1人心配そうにオロオロとしている。
反して、伸也は、刑事の同行に一切の興味も無く、
リビングの椅子に座り、湯気が立ちこめた夕食のオカズをジッと眺めていた。

「美味しそうですね。早く食べたいですね。皆さんは、まだ戻らないのですかね?」
刑事の訪問よりも、目の前のおかずに目を奪われていた。

一通りの質問が終わったのか、刑事達は元の場所に帰っていった。
本物の刑事のやり取りに興奮冷めないまま、居間に戻ってくる一同

事情を聞いた大介達が、頼んでもいないのに、勝手に話し出す。
食事が始まっても、止まらない話。
そんな話を聞いているのかいないのか、目の前のおかずに手を付け、「美味しい。」を連呼する伸也

奈津は、大介達と一線を外した伸也の行動に、苛立ちよりも不思議な違和感を示していた。
「こんな身近に、誘拐事件が起きたんですよ。それも、幼い子供を誘拐なんて悪質な事件です。
そんな話をしているのに、興味ないんですか?」
とついつい言葉に出して伸也に問いかけた。

伸也は、お代わりをしたばかりの茶碗を握り締め、
僅かの時間であるにも関わらず名残を惜しむかのように、オカズから視線を外し、奈津の顔を見、
「どれも、とても美味しいです。こんなに美味しいモノは、実に久しぶりに食べます。
せっかく、時間をかけて作ってくれたモノですし、今、その話をしなければいけませんか?」
とだけ言うと、少しの視線を外したことによって無くなる筈も無いのに、
また料理に目を奪われ、満面の笑みを浮かべ、食事に集中する伸也。

「やっぱり、変な人。」と思う奈津。

大介も、伸也の意図する事が解ったのか自主的に話をやめると、
ご飯に集中するかのように食べ始め、いつしか、事件の話は、食事中はうやむやになった。


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