伸也と孝仁が部屋から出てきたときには既に日が沈み始めていた。 夏とはいえ、外出するには、少し遅いため、早めの夕食を取る事にした。 台所に立ち、支度を始める由里の母である郁美と由里
「姫、大丈夫?あまり役に立たないけど、手伝おうか。」ユキが、恐る恐る聞くと、 「大丈夫。お客様なんだから、のんびりしてて。」 ほんの1,2ヶ月前は包丁すらろくに持ったことが無かった由里が、 母親の指示にテキパキと動く姿に驚く。
「好きな人に美味しい料理を食べさせたいと思ってるんだよ。」 「スゴイよねぇ。」 「見習ったほうがいいぞ。ユキ。」 からかう声が飛び交う中、 ふと、カーテン越しに外を見ると、向かいの別荘の前に車が何台も止まっている姿を目にする。 車から出てくるスーツ姿の男達。加えて、手に持つ大きなスーツケースや、トランクなどなど
奈津は、 「向かいの別荘には、たくさんのお客さんが来てますね。千客万来だ。」 興味深そうに、繁々と外の様子を見ていた。 拓也は、孝仁に、 「向かいの方はどんな方なんですか?」 と聞くが、 「さぁ、わからないね。近所付き合いをするほどの関係性は無いしね。 でも、別荘を購入できるぐらいだから、それなりな人だろう」と答えた。
「何かあったかもしれませんね。」とポツリと答える伸也。
「何で?」と質問する奈津 「なんとなく」と伸也が愛想無く答えたのを聞いて、奈津は、イラっとする。
「ちょっといいですか。さっきも言ってましたけど、 物事の流れの中で、”なんとなく”という感情はありません。 何か根拠とかあって、思うことがあるんです。 ”なんとなく”なんて曖昧な言葉を言わないでください。」 と語気を強め、一気にまくし立てた。
あまりに大きな声だったせいか、部屋にいた誰もが驚き、 包丁や食材を持ったまま郁美や、由里が驚いて台所から出てきた。
伸也は、奈津の顔をしげしげと見つめた後、 「無粋な反応を見せた方は多いが、直線的なまでに感情をまくし立てたのは君が初めてだ。ふむ、面白い」と一言言った。
一つ息を吐いたすぐ後に、 「避暑地という場所がら、観光客は非常に多い。まして、今は夏です。 好き好んで、上下長袖を着ることは無い。 ですが、あの家に入る訪問客は、誰もが紺地の地味目の上下のスーツと身なりを整えています。 更に建物の中に入っていく方々は、 談笑する人もいなく、皆一様に静かに中に入っています。
お客というよりも固い仕事関係。恐らくは、警察関係者。。。 周りを注意して建物へ入っていくところを見ると、あの家を監視している人間がいないかを警戒しているよう。 何か事件があったと考えるのが自然でしょうか。」 と説明した。
その言葉に、由里達は青くなる。 「また事件!?。。。」 「これで殺人事件だったら、伸也に、死神の称号を与えよう。」 と冗談交じりに大介は言う。
「何かは、すぐにわかりますよ。」と答える伸也。 「なんで?」と間髪いれずに尋ねる奈津
今度は、曖昧な言葉を言わず、理由を話し始めた。 「この家は、あの家の向かいにあります。当然、聞き込みの対象となるでしょう。 車庫には車があり、薄暗くなれば、部屋に電気を付けます。 在宅している事実が解れば、警察は、ここに来るでしょう。 その時に、質問の傍ら何があったかを教えてくれるでしょう。」
「なるほど。」と納得する孝仁
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