20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:杏色の泉 −色彩の森シリーズ− 作者:xin

最終回   第13話 三日目・8:00
車に荷物を入れる河北家
昨日は、内藤親子も河北家に泊まっていた。
帰りを見送る二人。

元気に「おネェちゃん達、また、遊ぼうね。」と手を振る頼子
皆が車に乗り込み、窓から顔を出す。

内藤高志は、伸也と目があうと、
「森田さんに会いに行こうと思います。
彼女の言い分を聞いて、それでもまた今までと変わらない日常が過ごせるなら、彼女を弁護しようと思います。」
「そうですか。」 とだけ言う伸也。

車は、走り出し、内藤親子は、車を見送った。
車中では、談笑する子供達。
「今回は、誰も死ななくて良かったな。」
「死神の称号は、次の機会だな。」
と拓也と大介は、伸也に言うと、返答をする前に奈津が反抗した。
「何言ってんの。死神じゃなくて救世主じゃない。頼ちゃんのあの可愛い顔見た?
あの笑顔を救ったのはまぎれもなく伸也君じゃない。」
「まぁ、そうだよな。」
ハハハと乾いた笑いを見せた二人を無視して、奈津は、由里と伸也の間に強引に割り込み座ると、
「ねぇ、由里ちゃん。私、伸也君にがぜん興味持っちゃった。
まだ、深い仲って訳でもなさそうだし、伸也君頂戴。」
その言葉に、慌てたようにあからさまに動揺する由里。
自分よりも、伸也に向いている節があると思っていただけにどう反論していいのか解らないでいると、
伸也が、変わって答えた。

「嫌ですよ。」

その淡々とした言葉に、由里に向いていた顔は、すぐさま逆にいる伸也の顔に向け、
「何で?私の事を興味があるみたいに言ってたじゃない。」

「興味はありましたよ。普段見ない反応を見ましたから。でもそれだけです。
言葉を濁して答えたくないと意思表示をしても、あなたですと全部話さないといけない状態になりそうで、
正直疲れます。空気感とか、雰囲気などを察してくれる慎みを持った方が僕の好みです。
それに、人の事を頂戴なんてモノ扱いするような無礼な方とは一緒にいたくないですね。」

「何ぃ。その失礼な物言い。頂戴なんて、言葉の文(あや)じゃないのよ。本気でモノ扱いしているわけじゃないし。
それに言葉を濁すのは隠し事しているって事じゃない。
そんな後ろめたい事を誰もが平気で許してたらこの世に浮気は無くならないわよ。」

「後ろめたいとは随分なモノ良いですね。言葉を濁すのは、後ろめたいからだけではありませんよ。
はっきりとした根拠が無く憶測が事態を占める時とか、正確な状況を伝えることによって相手を徹底的に追い詰める事とか
使い方はそれぞれです。マイナスなイメージしかないのは、そういう空気感を理解していないからです。」

「何ですってぇー。うきぃー!!」
ヒステリックに叫ぶ奈津を差し置いて、プィと顔を背ける伸也
不安で泣きそうな顔をしていた由里が、伸也の言葉に変わらぬ付き合いが出来る事に安堵して微笑む由里の顔を見て、
2人見合わせるように笑顔で返す由里・父母の姿がそこにはあった。


← 前の回  ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 42