内藤高志が意識を取り戻し、周りをみるとそこは、ベッドの上だった。 しかし、置かれている家具の配置を見るとそれは、自分の家のモノとは違っていた。 ベッドから腰をあげ、ドアを開けると、1階で笑い声に混じって楽しそうな声が聞こえた。
階段を下りると居間で、ユキ、奈津、由里と共に頼子ちゃんの笑い声。 それを囲い見るように大介や拓也達が笑ってみていた。
内藤高志の存在に気づいた娘は、立ち上がると”パパ”と呼び、父親の膝に抱きついた。 高志は、頼子を抱きかかえ、 「あの、すみません。なんだか、お世話になってしまって。私たちは、家に戻りますので。」 ペコリと頭を下げ、部屋を去ろうとすると、由里・父がそれを止めた。
「食事を一緒にしましょう。せっかく、お知り合いになったのです。 子供達も、幼子の相手をするのは楽しいようですし、私も一緒に酒を飲む相手が欲しかったので。 もちろん、あなたがよければですが。」
内藤高志は、頼子の姿を見ると楽しそうな顔を崩さないのを見て、その好意に甘えた。
庭で、バーベキューをしながら談笑している子供達。 酒を飲む二人と焼いた肉を網から取り上げ、頼子に食べれるように細かく切り分ける女性陣。
アットホームな雰囲気があたりを包んでいた。
内藤高志は、涙が目からスッと流れた。それを見た孝仁が労わる。 「すいません。まさか、こんなことになるなんて。。。。」 「お気持ちはわかります。娘さんが無事だったんです。良かったじゃないですか。」 「はい。本当に。。。それに、身代金をご用意してくれたようで、本当に感謝しています。」 「いや、それもこれも、安原君の指示なんですよ。」 「安原君?」 「今、肉を焼いている彼です。彼がいなければ、今こうしてゆっくりと酒を飲むことが出来たかどうか。」
−「由里さんの父君。急ですがお願いがあります。出切る限りで構いません。 動かせる現金をこちらに集めてください。」 「何故?」 「先に言いました。 知り合いによる誘拐の道理では、人質を殺すのが前提になることが多い。 どんな無茶でも答えられる技量が必要です。1億は用意できましたが、 次に、10億を用意しろと言われたら絶望的です。 だから、今のうちに用意できる金を用意します。もちろん、僕も用意しますが、恐らく10億は用意できない。 だから、父君にも手伝ってください。」−
「なんて事を言われてね。実際、言われたとおりになった訳だからかなり驚いたがね。 実はね、今、この状態も彼のアドバイスからなんです。」
「え?」
「警察は、犯人さえ捕まえれば後の事は大した対処はしないです。 犯人は捕まれば、警察に連れてかれて事情徴収の毎日ですが、被害者は、心に色々な傷をおっています。 その心の傷をケアしなければ、気分は深く沈み、元に戻るまでに時間がかかる。 だから、精神的なケアをするのに、協力してくださいと。 暖かい食事と暖かい雰囲気を作ってくれれば、少なくとも癒されるきっかけになるとね。」
「彼は一体、何者なんですか?警察では無さそうですし。」 「さぁ、実は我々もよく解らないんです。 ですが、心理学には、プロフェッショナルと呼んでもいいほどの知識と経験があるそうです。」
「そうなんですか!!」 「ええ。彼がいなければ、こんなに早く犯人が見つけられるとは。あっ、すいません。お身内でしたね。」 「いえ、いいんです。妻が浮気していたことは知っていました。相手が木田ということも。 家事手伝いの森田さんがなぜ関わったのかは、疑問ですが、私の優柔不断さが出した結果です。 もっと早く離婚届さえ出していれば、娘を危険な目に合わせずに済んだのに。。。。」
焼けた肉や野菜を皿に盛り、酒を飲む二人の前に立つ伸也。 「空腹にお酒は、体を壊す大きな要因です。肉や、野菜も食べてください。」 そういって、皿を二人に差し出した。孝仁がそれを受け取ると、 「事情は聞きました。できれば、森田さんは許してあげてください。 頼子ちゃんの無事を祈ったのは、恐らくあなた以上に彼女です。 頼子ちゃんの命と引き換えに、今回の誘拐事件の手伝いを強制されていたようです。 強制だとはいえ、手伝ったのは事実です。無実という訳にはいきませんが、あなた次第で、助けてあげられるというものです。」 「そうですか。」
そういい、満点の星輝く夜空を見上げた。 夜が更けてゆく
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