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作品名:漆黒の十字架 −色彩の森シリーズ− 作者:xin

第9回   第09話 三日目・深夜
ガチャリと扉が開く音が聞こえた。開いたドアは、静かに閉じられると、ふぅーと息を吐く声だけが一つ聞こえた。
「今日で全て終わるから。」
言葉をポツリと呟いた。

そして、足音を隠すことなくテフテフと歩き、ドアノブに手をかけようとした時、

「部屋を間違えてますよ。」
と声が暗闇から聞こえてきた。その声に、ノブから手を遠ざけ、声のする方を振り返った。

「そこは、藤沢さんの部屋です。あなたの部屋は、ココでしょう?」
といい、ドアをコンコンと叩いた。

「誰?」
目が慣れていないのか薄めで暗闇の中の人を確認しようとしていると。

廊下の明かりが付いた。
廊下の照明スイッチは、暗闇から声がする方向とは真逆の位置にあった。
突然の明かりに目がチカチカしながら、逆方向を見ると、そこには二人の男が立っていた。
大介と拓也だった。

なぜ、ここに男がいるのか解らなかった。
起きている事にも疑問だった。

声のしたほうを振り返ると伸也が立っていた。

「ふ、藤沢さんが、藤沢さんの部屋からなんかうめき声みたいなものが聞こえたから何かあったんじゃないかと思って」
「その割には随分とゆっくりでしたね。」
「いつからいたの?」
「食堂の鍵をかけた後からです。
一度部屋に戻った振りをして、僕はずっとここに。拓也君と大介君はずっとあちら側にいました。」

「なんで?」
「多少の遅効性のある睡眠薬とはいえ、熟睡に至るまでには、1〜2時間は必要とします。
熟睡に陥った今なら行動に移ると思っていました。」

「何のこと?」
「もう惚ける必要も無いですよ。あなたが、木下君と須藤君を殺した犯人だという事は解っています。」
「なんで、私が。」
「動機は、わかっています。仲原達也君でしたか。彼を殺された復讐。。。ですね。」
「なんのこと?それに、誰、それ?」

「あくまでも惚けますか。仕方が無いですね。
先にこれだけ伝えておきます。僕は、探偵ゴッコをするつもりはありません。
あくまでも、あなたの将来のみを考えています。
例え、未成年であってもこれ以上の殺人を犯させたくありません。
あなたにとって大切な人を殺された事への復讐。それから、これは、推測ですが、
あなた自身にも心もしくはそれに付随する体の傷があると思っています。

その傷が復讐によって癒されるのだとしてもやはり、これ以上の罪を重ねて欲しくない。」

「な、何言ってんのよ?意味わかんない。」
伸也の言葉に、明らかなる動揺を見せた。

伸也は、フゥと息を一つ吐いた後、
「実は、犯人が女性であるということに関しては、最初の木下君の時から思っていました。
そこに関しては、確信がありました。
裏付けるモノとして、彼の直接の死因は、ナイフによって体を数箇所刺されたことによる死でした。
ですが、馬乗りになって体ごとナイフを突きたてた割りに、ナイフの傷は背中にまで至っていないものばかりでした。

よっぽど小柄で非力な男性なら当てはまらない事はありませんが、今回の参加者にそれに該当する方はいません。

それから、殺害現場は、まぎれもなくあの部屋で行われた。
数箇所のナイフの刺し傷があり、それを真正面から受ける事になれば、当然、返り血を多く浴びます。
しかし、あの部屋以外の廊下にも食堂にも一切の血が落ちていませんでした。
となると、部屋にある風呂で、血を洗い落としてから自分の部屋に帰った可能性が高いと思い、風呂を探してみたところ
髪の毛が落ちていました。黒い長い髪の毛でしたがね。」

伸也の言葉に、女性は、フッと笑い。
「私の髪は、それに当てはまる?」

「いいえ、ですから、長い黒い髪の毛で思い当たったのは、河北さん、それから、藤沢さん、そしてユキさんでした。」

その言葉に、ユキの部屋の扉が開き、
「ひどい。安原君。私達を疑ってたの?」
と河北とユキが出てきた。
その声に、河北と犯人は、思わず視線があってしまい、どちらもが気まずい顔になりお互いに顔を背けた。

伸也は冷静な顔のまま、
「ユキさんはともかく、河北さんは疑っていました。それから、藤沢さんも。
ですが、河北さんは、容疑の候補からすぐに消えました。」

「何故?」
と河北が聞いた。

「1日目の昼食後にお皿を洗いながらしていた話を覚えていますか?
思春期の多感な時期に、セックスやホモなどの言葉の意味すらあなたはご存じなかった。

男性器を切り落とすのは、男としての象徴を捨てさせると同意義です。
つまり、木下君は、男性として失格であると暗示されています。

性的な嫌がらせを受けたもしくは、それに類する行為を受けた事による屈辱から、象徴を切り落とし、口に咥えさせた。
免疫が低い。または、男性経験の無い方がそれを出来るとは到底思えない。」

その言葉を聞いて、顔を赤くし俯く河北。

「話がそれましたね。黒い髪の毛の所持者を探すとして、ユキさんが消え、河北さんも候補から外れました。
そして、藤沢さんが残った。その藤沢さんも、少しして候補から外れました。」

「何故?」 ユキが聞く

「彼女は、木下君が死んでから異常なほど情緒が不安定でした。あれが演技とは思えない。
まぁ、それは、心象の話ですのであまり脈絡がありませんね。

藤沢さんは見た目の割りに、派手な御仁のようです。
それこそ、服装や身だしなみを人一倍気を使う方。その象徴が食事です。
彼女は、食事を作るどころか台所に立つ事すらしませんでした。」

「それは、料理が作れないからでしょ?」
とユキが突っ込みをいれた。

「それもありますが、それが一番の理由ではありません。彼女は、指、正確には爪ですね。それが傷つくのを極端に嫌っています。
料理を作るとなれば包丁を使いますし、手洗いなどで多少なりとも手が荒れます。
暇さえあれば、爪を気にしていたのは、初日の行動を見れば誰もがわかることです。
そんな彼女が、台所に進んで立つ事などありえない。まして、ナイフを使って人を殺すなんて事もあるわけが無い。
爪が荒れるからという理由で台所を拒んだ方が、人殺しをするとは思えません。
そういう理由で、彼女は容疑者から外しました。」

「じゃあ、何で、彼女が犯人だと思ったの?」

「黒髪である人物が全て対象から外れた時点で、外見の黒髪には意味が無いと思いました。
ならば、カツラを被って偽装していると思いました。
黒髪ではない栗田さんと黒田さん。栗田さんは下の状態が短髪です。長い髪を隠せない訳では無いでしょうが、
隠せば、どうしても髪に違和感を感じます。
ですが、元から長ければ、違和感無く隠すことが出来ると思いました。
根拠があったわけではありませんが、消去法で考えたとき、あなた以外は有り得ないと思いました。

そしてもう一つ、藤沢さんが情報をくださいました。
「仲原達也。」中学時代、彼をイジメによって殺したそうですね。
それに関係していた人間が、藤沢さん以外に、木下君と須藤君。
関係者が次々に死んでいく事で、次は自分だと認識したのでしょう。
脅迫まがいに、藤沢さんを脅して色々教えてもらいました。

そこで、黒田さんの名前が出たわけではなかったので、あなただとはっきりとは解らなかったのですが、

河北さん。今日の昼頃、食堂での会話覚えていますか?
イジメによって人が死んだ事を話していたときです。」

「はい。」

伸也は、犯人である女性に向きなおし、
「あなたが言ったんです。はっきりと。
生きていれば、高校にも大学にもいける。彼女とデートしたり楽しい事だってたくさんあったと。
イジメにあって死んだ人が男だとどうして知っていたんですか?

僕は仲原達也さんの名前も何もいいませんでしたよ。振り返った時、おかしいなと思ったんです。
なんで、この人はそれを知っているんだろうと。

それが確信でした。あなたが、今回の連続殺人に関わる人だという確信がわきました。
自分で発した言葉です。記憶にありますね。黒田さん。いや、その黒田という名前も別名なんでしょ?」

「別名?何言ってんだ?」
拓也は、驚いて問う。

「藤沢さんからは、「仲原達也」という名前以外に、もう一つの名前を聞いています。「黒木薫」と。
仲原達也さん死後、黒木薫さんも中学を転校し、所在がわからないと言っていました。
彼女もまた、藤沢さんたちのイジメの標的の一人だった。
そして、黒木薫さんを守る為に、仲原君は命を落とした。」

伸也の言葉を黙って聞いていた黒田は、
「須藤と同じ高校生なのに、優秀な探偵さんなんだね。ホント爪の垢でも飲ませたいぐらいだわ。
でもさ、そんなの状況で言っているだけでしょ?
仮に私が、仲原達也を知っていたり、黒木薫だとしても、それがイコール犯人だって言えるの?
私を犯人だって言う証拠を見せなさいよ。」

「証拠ですか。そうですね。では、あなたが手に持っている部屋の鍵。
初日に、河北さんから手渡しで渡された部屋の鍵ですよね?
自分の部屋のみを開閉する鍵な筈です。

当然、黒田さんの部屋の鍵な訳ですので、その藤沢さんの部屋は開ける事は出来ないはずです。
試していただけませんか?

部屋が開かなければ、証拠不十分で、僕があなたを犯人扱いしたのは、お詫びします。
ですが、開いたときには、あなたが犯人だという決定的な証拠です。」

「どういうことだ?」 疑問を露にする拓也
「わからない。」と二人のやりとりに視線を外さないまま答える大介

鍵をギュッと握り締める黒田。物悲しげな顔をしていたが、すっと顔をあげ、そして、鍵をポトリと床に落とし、
「負けたわ。名探偵さん。私が、犯人よ。」

その言葉に、フゥと息を吐く伸也。

「どういうことだ?」 再度尋ねる拓也

伸也は、黒田に歩み寄り、床に落ちた鍵を拾い上げた。
「これは、マスターキーです。これ一つで、どの部屋の扉も開けられる。
食堂の内外の扉の鍵と一緒に河北さんが管理している筈でした。

しかし、初日の日に自分の鍵とすり替えたのでしょう。河北さんに確認をとっています。
鍵の束を手から離したときはないかと。

そうしたところ、初日の食堂の施錠の時、台所の元栓を閉め忘れたかもしれないと言って、
一度だけ、鍵の束を手放して、黒田さんに渡したと聞きました。

台所に行って戻るついでに内側の鍵をしめ、河北さんに戻す。
その工程の間に、マスターキーとご自分の部屋の鍵をすりかえたのです。」

「でも、なんで、マスターキーを。それだけ替えても、食堂の鍵は、河北さんが持っているじゃないか。
それで、どうやって男側の部屋に行けるんだよ。」

「マスターキーさえあれば、どの部屋も自由にいけます。それこそ、殺害した木下君達の部屋どころか、河北さんの部屋にだって。
寝ている河北さんの部屋に忍び込み、食堂の鍵を奪えばいいだけのことです。」

「でも、そんなことしたら、気づかれるんじゃ。」
「気づかれないという確信が、黒田さんにはあったんです。それが、夕食のたびに混入されていた睡眠薬です。」

「睡眠薬!?」

「はい。あれだけの殺害をしているのに、物音一つ聞こえない。ガラスの振動に気づく事すらない。
誰も、目撃者も音を聞いた人もいない。おかしいとは思っていたんです。

事前に拓也君に、試していただきました。部屋の防音性に関してです。
大きな音を立てて隣の部屋が気づくかどうか。大声を出してどの程度窓ガラスが響くのか。
試した結果、隣で何かあれば、気づくというものでした。
しかし、木下君も、須藤君の時も誰も気づきませんでした。

これは、気づかなかったのではなく、気づけなかったと考えるほうが正しい。
その気づけない理由は、全員が、睡眠薬でも盛られていれば、道理が通る。

そして、睡眠薬を盛るという最大のイベントに、自分で料理を作るという立場を買って出た人ならば、
いつでも自然に薬を入れることが出来ます。」

「そんな。。。」
「でもさ、マスターキーを使う事があったらバレるんじゃないか。」と大介が聞く。

「そうしないよう努めたんです。
実際、木下君の時は、扉の鍵は、かかっていませんでした。
あの時は、初日ということもありましたし、警戒する事もありませんでしたから
扉の鍵をかけていない人の方が多かったのではありませんか?

次に須藤君の時は、当然鍵がかかっていた筈です。そのまま部屋に残していれば、
扉を開けるためにマスターキーを使わなければいけません。
仮に部屋の鍵が開いていれば、マスターキーが盗まれたと何人かは怪しむ筈です。

ですが、死体を食堂に移したことで、マスターキーを使わずに済んでいます。
全て、意図的に、マスターキーの存在を知っていながら使わせないように仕向けたんです。
その結果、今なお、マスターキーが黒田さんの手元にあっても問題のない状況を作り出している。」

伸也の言葉に、黒田はうっすらと笑いながらもさも感嘆したように声を荒げ、
「すごいわ。ホント。こんな短い時間にそこまで知る事が出来るなんて。
木下や須藤と同じ年齢の男性だなんて全く思えないわ。

うふふ、あいつらの無様なまでの命乞いをあなたにも聞かせてあげたかったわ。
木下には、誘惑したわ。夜に寝静まったら行くから部屋で待っていてなんて言ったらあいつ裸で待っているのよ。
笑えるわ。SMが趣味だって言ってベッドに括りつけた。
ベッドの上であいつの汚い上半身を愛撫してあげたの。興奮して気持ちの悪い声を上げていたの。

あいつの腹の上に乗った時、あいつは、馬鹿みたいに声を張り上げていたの。
だから言ってあげたわ。中学の時、お前に馬乗りされたのが、脳にこびり付いて離れないって。
今度はお前が無様に泣き叫べって。

その言葉ですぐにあいつは理解したわ。逃げようとするあいつをめった刺しにしたわ。

須藤もそう。誘惑には簡単な程乗ったわ。殺人事件が起きて怖いって言っていたのに、女の誘惑には簡単に乗る。
馬鹿な奴らよ。

食堂におびき出して、殺した。殺した後に、鍵は、部屋に戻しておいたけど。
混乱の一つでもしてくれればいいと思ったけど、あなたはそう簡単には行かなかったみたいね。


でも、だったら、なんで後一人殺すまで、待ってくれないの。
あと一人よ。藤沢さえ殺させてくれれば、あとはどうなったっていいのよ。あの女が全ての元凶なのよ。
あの女を殺さなければ、達也だって浮かばれない。あの女のせいで、達也が、あの優しい達也が。。もう帰ってこないのよ。」

黒田は、怒り叫び、感情を露にした。その言葉に拓也達が怯んだ。その隙に、ドアノブを回した。
ガチャリという音がして、ドアは、なんの不自然も無く開いた。

そして、そのまま部屋に入ると、懐に隠し持っていたナイフを取り出し、
ベッドに横たわる膨らんだシーツの上に何の躊躇いもなく体ごと押しつぶすようにナイフを突き立てた。

ナイフが何かを突き刺す感触があったが、人肌の生暖かい感触は無かった。
それに気づいた黒田は、起き上がり、シーツを剥ぎ取ると抱き枕が縦に置かれていただけだった。

状況を把握するのに、刹那の時がかかった。
部屋の明かりが灯された。その明かりにドアを振り返ると、伸也に続き、拓也や、大介が部屋に入ってきた。

「黒田さんは、随分と頭がいいんですね。マスターキーを使わずに床に落としたのは、あそこで、鍵を使ってしまうと
扉を閉めてしまうことになる。
チャンスがあれば、部屋に侵入し、藤沢さんを殺すつもりだっただけに鍵をしめてしまっては一工程増えてしまい、
部屋に入るチャンスを逃してしまう。
だから、あえて鍵を使わずに、床に落として、マスターキーを使わないようにした。」

「いつから気づいていたの?」

「あなたが、自分で藤沢さんの所に食事を運びに行った時です。食事を運ぶ時に、部屋に入る事が出来ます。その時に鍵は開く。
そして、彼女が、鍵をかけないよう食事の中に忍ばせた睡眠薬で彼女を眠らせ、鍵をかけさせないようにする。
そう読みました。だから、あなたが出てくるのを待つ間、彼女の部屋に入り、別の部屋に運び入れてあります。」

「なんで、邪魔をするのよ。」

「最初に言ったはずです。あなたの将来の為だと。たとえ、大切な人を奪われたからとしてもあなたがこれ以上汚れる必要は無い。
藤沢さんには、生きながら自分が犯した過ちを味わっていただく。
あなたが恨みを晴らしたとしても、仲原達也さんが生き返る事は無い。無念を晴らしてくれてありがとうと言ってくれる事もない。
自己満足で終わり、あとは、虚しさだけが残るような生き方をあなたにして欲しくない。」

「あんたに、何が解るのよ。あんたなんかに。。。。」

「すいません。確かに、僕には、あなたの悔しさも仲原達也君の無念さもわかりません。
でも、偽名を使う事や、カツラまで被って見た目を変えても、本当の自分を偽る事はできない。
どれだけ、自分を偽っても。あなたの本質は、何も変わっていない。

文句の一つも言わず、進んで僕たちの食事の世話をしてくれました。
誘った手前、嫌な思いをさせてしまっているのではないかという不安に陥った河北さんを常に労わるあなたの優しさは、
偽って隠せるものじゃない。

仲原達也君は、あなたのその優しい部分に触れて幸せを感じていたのではありませんか?
自分の命を賭してでも優しいあなたを助けたいと思ったのではありませんか?
幸せになって欲しいと心から思っていたのではありませんか?

その思いを、あなたは捨てようというのですか?」

伸也の言葉に、黒田は、その場で泣き崩れた。


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