食堂で一人、椅子に座りながら天井を見上げ、考えていると、食堂に河北と黒田が入ってきた。 河北は、血の気が引いたように蒼ざめた顔をしていたが、それを懸命に堪えているのが傍目でも解った。 笑顔が引きつっていたが、それでも無理をして、微笑み 「何しているんですか?」と尋ねてきた。
伸也は、 「どうやら、少し今回の事件のあらましが見えてきました。被害者は、中学生の頃に、起こした事件が関係しているようです。 殺された彼らは、過去に、一人の同級生を殺しているようです。
イジメの度が過ぎて、ついに人殺しまでしてしまった。
何故、人はこうも差別をする事が好きなんでしょうね。 人を殺してまで保ちたい優位など無いのですが。
しかし、人を殺した経緯があっても所詮は、未成年がやったことです。 日本の法律では、彼らを刑務所に入れる事は出来ません。 まして、殺すつもりがなかったと言えば事故として処理される可能性が高い。 つもりがあった、なかったは、当人達の問題ですしね。
殺害した事は、許せることではありませんが、 未来や将来ある子供達に大人は、あえて、重い罪は課さないでしょう。」
すると、黒田が怒りを露にして声を大きくして口を挟んだ。 「いじめをして人を殺すなんて許せない。生きていれば、幸せな事なんてたくさんあった。 高校や大学に行く事も、彼女とデートしたり、楽しい事なんてたくさんあったのに。 それを、どんな理由で苛めてたかなんて解らないけど、それで人を殺すなんて。許せるはずが無い。」
「そうですね。殺された彼らに同情の余地はありませんが、 殺したものを更に死で解決させるというのはあまり好みません。 しかし、これで、彼らを殺した動機はわかりました。 ただ、未だ犯人も、どうやって殺したのかも皆目解りません。 問題は山積みです。」
フゥとため息をつく伸也に、河北は、 「どうして、そんなにいろいろしてくれるんですか?安原君だって被害を被っているじゃないですか。 それなのに、文句を言うどころか、私に助け舟を出したり、こうして、事件を解決するために、いろいろしてくれたり。 何でですか?」
「何でと言われても。深い意味はありません。困っている人がいれば手を差し伸べるのは人が人として出来る事だと思っています。 とりあえず、河北さんは、今いろいろと困っていますよね。 お父上の別荘に保護者無しで、未成年を宿泊させている事。同姓だけならまだしも異性と一緒に何泊もしている事。 加えて殺人事件が起きてしまって、おそらくお父上も今回の件でこの島は売り払ってしまうでしょう。 お父上の損害もいかばかりか。 今回の件で、ご両親には絶対にバレてしまいますので、帰ったら大目玉でしょう。頭の痛いことが目白押しです。 男性免疫をつけるためとはいえ、随分と無茶な冒険をしたものです。
まぁ、仮に殺人事件が無かったとしても異性との交遊があったことは、遅かれ早かればれるでしょうから、 おのずと大目玉でしょうがね。」
「な、なんで知っているんですか?ユキちゃんから聞いたの?それに、異性が来た事がバレるって何でですか?」 「いいえ、聞いていませんよ。あなたを見れば、すぐに解ります。一人っ子でご両親に大事に育てられていたことぐらいは。 それに、男性経験どころか、男性との接点も異常に少ないでしょ。」 「・・・・・はい。」 「異性が来たことがバレるというのは、生活という一つのカテゴリーから見ればすぐに気付きます。」 「生活?」
「ええ、この屋敷の世話をされている女中さんや庭師さんに、異性が止まる事は当然伝えていませんよね。 僕たちが帰った後、女中さんは当然、部屋の掃除をします。 その時に、剃刀の一つでも残っていれば、男がいたとすぐに気付きますよ。」
「剃刀?」 「男は髭を剃ります。高校生ともなれば、髭の一つも生えます。あいにく僕は毛深い方ではないので、髭は生えませんが、 拓也君や和田君は顎のあたりに髭の痕跡があります。お風呂場で剃刀を使っていれば一発です。 女中さんは、すぐにお父上にご報告されるでしょう。そして、お父上は河北さんに詰問する。」
その光景がイメージできたのか頭がクラッとした気がした。伸也は、優しい微笑みを一つした後 「不純異性交遊があった訳ではないので、毅然とした態度を取っていれば大丈夫ですよ。 それに、河北さんだけでなく、黒田さんも、拓也君も大介君も和田君も栗田さんも藤原さんも皆さん同様に困っています。 先ほども言ったはずです。困っている人がいれば手を差し伸べる事が出来るのが人間です。 助けることに意味は無いですよ。」
伸也の優しい言葉に胸打たれたのか、河北由里は姿勢を正し、 「わ、私も協力します。」
「ありがとう。でも、その前に、鉄分を取られたほうがいいですよ。血の気が引きすぎて顔が青くなっています。 人間、健康が第一です。」 そう言うと、立ち上がり、河北の頭を優しくポンポンと撫でるように叩き、食堂を出て行った。
伸也は、須藤の部屋の前に立ち、ドアノブを回し、部屋に入っていった。 ベッドには、須藤の遺体が横たわっていた。
伸也は、部屋に佇んでいると、ドアをノックする音が聞こえ、大介と拓也が部屋に入ってきた。 「なんか、進展はあった?」 「まぁ、あったりなかったりですかね。」
「伸也、ごめん。藤沢さんのこと拓也に話した。まずかったか?」 「いいえ。親友に隠し事は難しいですよね。」 「隠しておいた方が良かった?」 「いいえ、大丈夫です。」 「それより、藤沢が次に狙われるって何で解ったんだ?」
「は?」 「いや、さっき、大介たちと藤沢の部屋に行ったとき言ったんだよな。次に狙われるのはお前だって。」 「ああ、あれは、嘘です。」 「嘘ぉ?」 「はい。人は、言いたくないことは嘘を付きます。ついてでも隠そうとします。だから、隠せない状況を作ったんです。 特に、自分が次の標的だと思い込んでいる人間には、追いつめて逃げ場が無いと思わせる必要があったんです。 だから、あの場では、嘘をついて追い込みました。」 「じゃあ、死んでも関係ないって言ったのも。。。」 「当然、嘘です。」
「驚かせるなよ。ユキ、マジ切れだったぜ。」 「ええ、少しびっくりしました。感情的になりにくい人を選んだつもりだったのですが、大介君がフォローしてくれなかったら 根源に近づけませんでした。」 「なるほど。だから、俺は呼ばれなかったんだ。」 と一人納得した拓也。
「それで、拓也君。頼んでいた件は?」 「ああ、和田といろいろ試したよ。結果は、×だ。」 「そうですか。。。。」 拓也の言葉に、伸也はまた考え込むように俯いた。大介は、拓也が伸也の別命で動いていた事は知っていた。 その答えが×である事がどういう事を生むのかがいまいち理解できてはいなかった。
「なんで、須藤は、食堂で殺されたんだろうな?この部屋だって良かったはずだ。 っていうか、そもそもどうやって部屋に入ったんだ。部屋には鍵がかけられていたはずだ。 どうやって部屋の鍵を開けたんだ。 正直、須藤は、口ほど度胸は無い。木下の事件があった直後に軽はずみにドアを開けるとは思えないんだけど。」
「ん?」 大介の言葉に、伸也が、思考を止め、顔を上げた。 「そういえば、ドア開いてましたよね?」 「え?」 「僕たちが遺体を運び入れたとき、このドア開いてましたよね?」 「ああ。」 「なんで、開いてたんでしょう。」 「そりゃ、須藤が開けたんだろう。」 「自分からですか?それは、無いでしょう。大介君の言葉通り、警戒心を持った人間が軽はずみに開ける事は無い。」 「じゃあ、誰が?」 「犯人でしょうね。」 「犯人が開けた?どうやって?鍵は本人しか持ってないんだぜ。」
「そうですね。ん。。。。そういえば、先程、何故彼女は、あんな事を言ったんだろう。 大介君。先程藤沢さんから聞いた話、拓也君以外誰にも言って無いですよね?」 「もちろん。」 「ユキさんもですね?」 「ああ、たぶん。」 伸也は、口を手で覆うように、考え込むと、 「フム。可能性は、十分にありそうですね。しかし、彼女を犯人と仮定した場合、考えられる行動は。。。 大介君、拓也君。再度試したいことがあります。協力して、実行してもらえますか。」
「ああ、わかった。」 「僕は、ちょっと話を聞ききたい人がいるので席を外します。」
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