本来ならば、いろいろと予定されていたイベントも殺人事件が起きた事により、それらのイベントは、全て見送られ、 部屋に篭るもの、持ってきた本を読書するものと様々いた。 誰もが、言葉に出来ない重い雰囲気で、その日を過ごす事となった。
夕食時には部屋に篭っていた3人も食堂に出てきてみんなで食事ができた。 極力楽しい会話をと心がけ、拓也やユキは、はしゃぐように会話を振ったが、空振りに終わっていた。 食事を終えると、特に何をするわけでもなく早めの就寝となった。
目に見えない犯人に怯えるのは明らかだった。
初日と違うのは、食堂の鍵を締めるのに、女性陣と唯一、二階の部屋にいる伸也が確認の為に見張り、 鍵を締め、そして河北の施錠を確認し、就寝した。
■ 三日目・朝 甲高い叫び声が聞こえ、伸也は目を覚ました。 その声に、呼応するかのように、部屋から飛び出した面々が、声のする食堂に向うと、同様に叫び、喚くような声が聞こえてきた。
伸也は、着替えるよりも先に部屋を飛び出し、食堂に向った。 食堂に入ると、一つのテーブルを囲うように、男女が立ち尽くしていた。 正確には、立っていたのは、1,2人で、後はうずくまる様に顔を覆い、すすり泣く声が聞こえていた。
テーブルには、須藤登が、仰向けになったまま、口から大量の血があふれていた。 舌を切られ、無造作に、床に捨てられているのがわかった。
伸也は、須藤の側まで行き、様子を見たが、直接の死因は、 首の横にある頚動脈を切られ、恐らく悲鳴をあげることなく死んだ出血死だと思われた。
テーブルや、床が、血にまみれて真っ赤に染まっていた。 伸也は、無造作に捨てられた舌を手に取る。
「フム。木下君は、男性器で、須藤君は舌ですか。 これは、何か意味があるのでしょうか。」
ポソリと呟いた言葉は誰の耳にも入らなかった。 伸也は、冷静に周りを見渡しながら、それぞれの顔を注意深く見たが、特に表情は読み取れなかった。 ポンと手を叩き、 「このままでは、食事が取れないので、遺体を部屋に運び入れましょう。手伝ってください。大介君。拓也君。」 呼ばれた二人は、少し呆然としてたが、再度の拍手に我に返り、3人で、遺体を運んだ。
食堂に戻ると、起床したばかりの藤沢が周りから事情を聞いて発狂したかと思う程喚き散らしていた。 「ふざけないでよ。なんで、こんな事になっているよの。もー、嫌だよ。家に帰してよ。 なんか、あるでしょ。連絡する手段とか。携帯の電波入らないし、インターネットないし、なんなのよココ。最低じゃない。 嫌、絶対に嫌。次は、私だ。私が殺されるんだ。うぁー、うぁー。」 喚き散らすだけ喚くと、走って食堂を去り、そのまま部屋に戻っていった。
河北由里も、今回は意識までは飛ば無かったが、床に伏して嗚咽していたが、弱々しく立ち上がりながらも 「本当にすいません。私の責任です。本当に皆さんに不快な思いをさせてすいません。 でも、本当に、連絡の手段が無いんです。1週間後まで、なんとかしますので、本当にすいません。」 と気丈に謝罪をしたが、火に油を注いだのか、
その場にいた栗田や、和田から、 「なんとかするって、何が出来るんだよ。」 「殺人事件が起きたテーブルで飯なんか食えるか。ふざけるな。一体、この状況をどうするんだよ。」 と雑言が河北に容赦なく浴びせられた。
食堂に戻ってきた伸也は、二人の間に割って入り、 「ちょっと待ってください。殺人事件に巻き込まれたのは、河北さんも同じです。 それを一人だけを悪者扱いするのは間違っています。 もう少し冷静になっていただけませんか?」 その言葉に逆上したのか今度は、伸也に対し文句を言ってきた 「ふざけんなよ。人が殺されているのを目の前に見て、冷静に対処なんて出来る訳ないだろうが。 なんなんだよ。ふざけんなよ。次は一体誰が殺されるのかも解らないじゃないか。こんな所に怖くて住めるわけ無いだろう。」 「では、一人で泳いで帰りますか?ここにいるよりは安全かもしれませんよ。まぁ、体力がなくなって溺れ死ぬかもしれませんけどね。」 「冗談も体外にしろ。馬鹿じゃないのか?」 「馬鹿ではないですけどね。」
和田の言いがかりに近い文句も伸也のさらりとした反撃に、更に怒りを感じたが、 感情的な自分を相手にひどく冷静なままの伸也に口論で勝てると思えなかった和田は、そのまま部屋を飛び出してしまった。 「ふむ。次に誰が殺されるかか。連続しますかね。さてさて。」 伸也は、少し、その場で考えていたが、ふらりとそのまま部屋を出て、須藤の遺体ある部屋に入っていった。
部屋を一望した後、 「殺害現場はここでは無いのですかね?血痕がどこにも残っていない。となると現場はあの食堂ということでしょうか? 鋭利なモノですっぱりと切られていますね。切り口の角度から見て須藤君の正面に立ったのは間違い無いようですね。 しかし、須藤君は逃げなかったのでしょうか。」
体を調べてみると、木下の時と同様、腕と足首に縛られたような鬱血痕の跡が残っていた。 「縛られていましたか。なるほど。逃げることは出来なさそうですね。しかし、悲鳴の一つぐらいは聞いても良さそうなのですが、 誰も聞いていないというのもおかしな話に思えるのですが。。。。」
須藤の部屋で一人考え込んでいると、大介と拓也が部屋に入ってきた。
「何か解ったか?」 拓也は、考え込んでいる伸也に問いかけた。伸也は顔を上げると、 「疑問点はいくつかありますが、それを解決する根拠は何もないのが現実です。」 「さすがの伸也もお手上げか。」
「そうですね。」 「まだ続くのかな?だとしたら次は誰なのかな?まさか、無差別って事はないよな。」
「2度あることは3度あるといいますしね。ですが、無差別ではないと思います。おそらく計画的に標的を絞り殺している。 ん。。。。ちょっと待ってください。大介君。ユキさんと一緒にちょっと手伝ってほしいことがあります。」
「あっ、ああ。解った。」 伸也が、何かを思いついたかのように、急ぎ早に部屋を出ようとすると、拓也がそれを呼びとめた。 「なぁ、俺も手伝う。何かできることはないか?」
拓也の言葉に、伸也は、 「では、一つ試していただきたいことがあります。」 そういうと、拓也に4,5分かけて話をしていた。その後、任せますと一言だけ言葉を残し、須藤の部屋を飛び出していった。
大介とユキの二人を連れ立ち、藤沢の部屋の扉をノックした。反応が返ってこないため、何度となくドアを叩き、ユキに外から呼びかけてもらうと、ガチャリとドアの鍵が開くのが聞こえ、ノブを回し、ユキと大介そして伸也は藤沢の部屋に入っていった。
伸也は、枕を抱きながらベッドにうずくまっている藤沢の近くで椅子に座ると、前置きなく早々に切りだした。 「藤沢さん。先程、あなたは、興味深いことを言いましたね。次は自分が殺されると。それは、どういう意味ですか? お話の内容によっては、あなたを助ける事も出来ます。詳細を教えていただけませんか。」
藤沢が喚くように叫んでいた言葉をユキや大介は反芻していた。伸也は、顔を背け、口をつぐんでいる藤沢に、 「正直、僕も次の被害者はあなたと思っていました。ですが、あなたはあいにく僕の友人という訳ではありません。 ですから、仮にあなたの身に何があったとしても、僕は、さして気に留める事は無いでしょう。 このまま放置しても良いのですが、あなたもそれで良いですか?」
その言葉に、藤沢自身、顔面蒼白になった。だが、藤沢が口を開く前に、ユキの声が先に出た。 「ふざけないでよ。そんな言葉あるぅ?友達じゃないから死んでもいいなんて、どの口がいって。。。」 最後まで言葉を言い切る前に、大介がユキの口を閉ざした。そして、耳元で、 「嘘に決まっているだろう。黙ってろよ。」 と釘をさした。大介の言葉が届いたのか、ユキは多少の不満の残る表情で、睨むように伸也の顔を見た。
伸也は、ユキの怒声も干渉することなくただ、藤沢の顔を見続けた。 藤沢は、声を震わせながら 「「仲原達也」よ。あの男の、恨みよ。だから、木下も須藤も殺された。 次は私よ。私が殺されるのよ。」
「仲原達也?誰ですか?それは。」 伸也は、冷静な声で質問をした。
だが、藤沢は言葉を濁した。それがわかったのか、 「今、言わなければ、あなたも木下君や須藤君のように、殺されますよ。僕なら、あなたを助けて上げられます。 だから、正直に話してください。」
助けるという言葉に安心したのか、藤沢から、仲原達也に関わる全てを知った。 それにより、一連の殺人が、1人の手によって行ったものと確信した。 藤沢には、極力部屋から出ないようにという事を念押しし、部屋を出た。 ユキと大介には、今聞いた事は、しばらく誰にも言わないようにと念を押し、自身は食堂に戻った。
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