全員揃っていないとはいえ、1人でいる事に逆に恐怖を感じた人は、しばらく後、時間差はあれども徐々に食堂に集まってきた。 拓也、大介、ユキ、河北、黒田、和田は、食堂にいた。
「大介、伸也はどこいった?」 「さぁ、木下の部屋かな。」 「様子見に行くか。」 「ああ、でもちょっとあの部屋に入るのには抵抗がいるっていうか、友子の時も酷かったが今回もちょっとな。」
「あの、神谷君達は、殺人事件に出くわしたことがあるの?」 黒田が尋ねると、 「拓也は1度、僕は今回も入れると3回あるよ。」 「そんなに、何で?」 「1回目は、友達が殺された。慕っていた兄のような人が犯人だった。 2回目は、知人ではなかったけど、同じ学校の先輩が。そして今回。 さっき、伸也が、また殺人事件に出くわしたっていってたけど、俺もホントそんな気分だよ。」 「あの、安原君ってどんな人なんですか? 1人、凄い冷静だし、いろいろ調べているし。まさか、名探偵?」 「探偵ではないけど、頭脳明晰であるのは間違いないよ。外国で飛び級で大学にも進学して卒業しているんだ。 たぶん、ここにいる誰も勝てない。」 「そんなにぃ。すっごぉーい。」 「頭もいいけど、変な奴だよ。」 「そうなのぉー?」 「感情に素直っていうか、本音ダダ漏れだしな。」 「確かに。言いづらいようなこと平気で言うんだよ。何回、刑事さん達怒らせたか。。」 伸也をよく知る大介と拓也は素直な感想を述べていると
「人の悪口で随分と盛り上がっていますね。」 大きな声ではないがはっきりとした言葉が聞こえ、声のする方を皆が一斉に見ると 伸也が1人ポツンと立っていた。
怒っている風では無いが、バツが悪かったのか大介と拓也は、言い訳をしきりにし始めた。 伸也は、2人の言い訳も特に耳を貸さず、つかつかと皆が居る前まで近づいてきた。 そのまま、黒田の前まで来ると、 「黒田さん、お腹がすきました。もうお昼ですし、そろそろ、ご飯にしませんか。」
その一言に、笑いを堪える者、つい噴出す者といたが、全員の脳裏には、拓也が言った本音がダダ漏れという言葉がよぎった。
「1人だけ、11人分のサンドイッチを食べたのに、もうお腹がすいたの?」 黒田は呆れるように言い返すと 「はい。頭を使うとお腹が減るようです。それに、皆さんもそろそろ減っていると思いますよ。」
スープを飲んだとはいえ、健康な高校生。それだけでは、全然足らない。悲しくなっても腹は減る。 拓也も自然に腹の減り具合を手探りで感じていた。その様子を見た黒田は、浅い溜息をつくとそれ以上の文句を言わず台所に向かった。 変わらず手際よく黒田は昼ごはんを作り上げ、皆に振舞われた。 部屋に篭りきっている藤沢、須藤、栗田には、他のメンバーがご飯を持っていった。 食堂に集まったほかの面々は、作られた食事を食べ、一心地する。
台所で、食べ終わった皿を洗う黒田と伸也。 黒田は、後片付けをしながら、伸也に尋ねた。 「犯人は見つかりそう?」と。
伸也は、首を横に振り、 「皆目検討も付かないです。 なぜ、木下君は殺されたのか。なぜ、深夜の出来事とはいえ、誰も気づかなかったのか。 犯人が女性だった場合、どうやって食堂を抜けたのか。疑問は尽きません。」
伸也の言葉に、 「犯人が女性だって思っているの?なんで?」 「女性と断定しているわけでは無いのですが、木下君が裸でした。衣服は、ベッドの傍にありました。 丁寧に畳まれていた訳ではないので、ベッドに入る前か、入った後に脱いだと思われます。 男を前に服なんか脱ぎますかね?」 「木下君のベッドに侵入した女が殺した?」 「普通に考えれば。」
黒田の言葉に素直に感想を言う伸也に、河北は首を傾げ、 「なぜ、女性の前で裸になるんですか?」 「そりゃあ、ベッドで男女が裸になるのなら、当然、セッ・・・」 伸也は、さも当然とばかりに返答をしていると、全部言わせる前に黒田が言葉を挟んだ。
「でも、私達、皆部屋に居たはずよ。男性側に行くには、食堂を抜けなければダメ。 それに、マスターキーは姫が持っているわ。それって、姫が怪しいってこと? それなら、私が彼女の無実を証明するから。姫が、そんなこと出来る訳ない。」 黒田は、皿を洗うのもそっちのけで伸也に詰め寄った。
「僕もそう思っています。でも、女性で無ければ、相手は男性ということになります。木下君にはホモっ気でもあったのでしょうか?」 先ほどの言葉も最後まで聞けずに疑問点が残り、そしてまた、知らない言葉が出てきて、素直に問いかける。 「ホモっ気ってなんですか?」 「同性愛者という意味です。」 「同性愛者?」 「正常か異常かはわかりませんが、男性が女性を好きになり、女性が男性を好きになるものなのですが、 たまに、男性が男性を好きになったり、女性が女性を好きになったりすることがあるんです。 男性同士が好きになる事をホモといい、女性同士をレズビアンというんですよ。」 「好きになるんですか?」 「ええ、まぁ、当然同姓ですので生殖行為をしても子供は出来ませんが、裸で抱き合うことぐらいはするんじゃないですかね。」 「生殖行為って何ですか?」 「えっ?セックスですけど。」 「何ですか、それ?」 「え?」
偽善でやっている訳でもなく本当に心から知らないんだなと思う態度に、黒田と伸也は顔を見合わせる形となったが、 男女がお互いにこの手の話に盛り上がるわけにも行かず気まずい表情のままその後はさした会話も無いまま皿洗いが続けられた。
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