藤沢は、テーブルに座り、足をバタバタさせながら、 「お腹すいたー。ご飯は?ご飯は?」 と急き立てるように言うと、河北由里は、 「食材は、冷蔵庫に一通り入っています。ですが、最初に言ったように、女中さんもいないので、私達で用意しないとダメです。」 その言葉に、食堂にいた全員が、まるで、今聞きましたとばかりに、驚きの声をあげた。 藤沢は、 「私、無理。食事なんか作れないから。」と即座に拒否。 栗田も、続けて 「私だって、無理だよ。作ったことないし。」 と拒否の姿勢。
お腹はすいているが、食事を作れる人がいない。結論が出ないまま時間が経っていく。 その状況を見るに見かねて、服の腕を捲くりながら台所に向かおうとする女性が1人。 「もぉ、しょうがないなぁ。じゃあ、私作るから。でも、まずくても文句言わないでね。」と、言いながら台所に向かっていった 参加者の中で、この子はそもそも無理だろうと暗黙的に決め付けてしまっていた金髪の黒木が名乗りを上げた。 ユキや、河北も後ろめたさが残ったのか、私達も手伝うからと言って、進んで台所に向かっていった。
食堂に残ったモノ達は、誰もが意外を隠せなかったのか声を押し殺しながら少なからず笑いを噴出すものもいた。 「意外だよねー。」 「絶対ムリだから、何も言わないって思ったのに。」 「どーする。メチャメチャ不味かったら。」 「キャハハ、無いでしょ。」 昼過ぎから一緒にいたはずの大介でさえ、 「見た目の割りに、大人しい人だなって思ってたけど、意外だね。」 と言葉を漏らしていた。
伸也は、残った面子をチラリと見た。 真っ先に、料理を作るのを拒んだ藤沢は、爪のマニキュアを塗りなおしながら、木下や、栗田と談笑していた。 大介や拓也も昼ごはんの心配が無くなったのか他の面子と談笑しているのがみえた。
フムと呟いた後、伸也も夜のご飯が気になり、食堂を抜け、台所に向かった。 台所では、すでに料理を作り始めていた。 冷蔵庫の中身を見て、新鮮なモノから食べたほうがいいと黒田が、提案し。 冷蔵庫の中にあった牛肉と野菜を取り出した。
「ユキちゃん、お米洗って。11人だから、5合ぐらい炊いたほうがいいと思う。」 「姫、野菜洗って。」 3人が入っても十分に余裕のある台所で、テキパキと指示をしている黒田の光景を見た。 「姫。野菜を洗剤で洗っちゃダメだって。口に入れるんだよ。死んじゃうよ。 ユキちゃん。お米流れてるから。勿体無いでしょ。 もぉ、2人とも全然ダメだね。料理したこと無いの?彼氏に美味しい料理を食べさせるとイチコロだよ。 今日はいいよ。二人ともジャマだから、食堂に戻ってて。私1人で大丈夫。」
そういい、ユキと河北は、一方的に台所を追い出されてしまった。 二人がいなくても、十分な程無駄なく動き、ドンドンと作業を進めていった。 バツが悪そうな二人は、ゴメンネ、ゴメンネを繰り返し、食堂にスゴスゴと戻っていった。
伸也は、台所の様子を見て、 「フム。スゴイですね。期待が持てそうです。」 と冷静な感想を述べていたが、すっと静かに台所に入ると、何かを言われた訳でもないのに、 既に炒められてボールに山積みされている野菜炒めを手に取ると、お皿に盛り始めた。
「へぇ。上手じゃん。」 黒田は、伸也の手際を見て素直に感想を言うと、 「1人暮らしが長いので、これぐらいは。」と答えると。 「盛っているだけだしね。でも、邪魔だから、どいていてね。」と手厳しい突込みを入れられてしまった。 そうこうしている内に、結局黒田は1人で、11人前の料理を作ってしまった。
夕食のメニューは、ビーフステーキと温野菜の炒め物。それと、ご飯とオニオンスープが出された。 焼き加減もミディアムレアと実に絶妙な焼き加減で、皆、美味しい美味しいと食べていた。
その後、夕食を済ませ、片付けの後、レクリエーションを少し行ったのだが、 船旅が疲れたのか、皆、一様に眠くなり、早めの就寝となった。
全員が各自の部屋に入り、午後までには起きて来ることと約束して、それぞれに静かに就寝
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