自分の荷物を部屋に下ろし、一同は食堂に集まった。 テーブルに向き合うように、女性と男性に分かれて座り、改めて紹介がされた。
男性陣にいた木下や須藤、和田は、本命狙いの女性に対してのコミュニケーションに余念が無かった。 大して、同じ年齢にも関わらず女性陣は少し冷めた感じも織り交ぜつつ 黒田薫子は、金色に輝いた髪を触っては、愛想笑い。 栗田美代子は、感情が追いつかない程度にへぇ、へぇを繰り返し、 藤沢奈緒子に至っては、男の会話をそっちのけで、自分の爪の手入れを行っていた。 河北由里は、男性への免疫の低さからどうして良いのか解らず、どの人の話も真面目に聞いていたが、 話の趣旨や、思惑がイマイチ理解できず、結局どうしてよいのか解らずにいた。
「せっかく、天気がいいんだし、夕食まで自由行動にしようよ。」とのユキの提案に、一同が賛成し、 各々狙いの女性と一緒に食堂を離れて行った。
ユキは、拓也と、大介は、黒田と、木下は、藤沢と、須藤は河北と、和田は栗田とそれぞれがキレイに別れ、 建物の外に出る者、玄関ホールで語り合う者など、部屋に招き入れる者様々に分かれていった。 あまりにキレイに分かれた事で、まさか、伸也が1人残ったことに誰も気づかずにいた。
当の伸也も、全員が示し合わせたようにキレイに分かれていった事の見事さに驚き、特に何も言わずにいた。 ただ、1人食堂にポツリと残った自分を見て、 「ふーむ。素早い。完全に乗り遅れてしまった。」とポツリと感想を漏らしただけだった。
誰もいない食堂で1人、「コーヒーの美味しい淹れ方」と表紙に書かれた本を取り出し、 船の中での続きとそれを読み始めた。
それぞれに散っていった即席カップルも、お互いの相性を感じる者と、「この人」は、違う。と感じる者も少なくなかった。 代表的なカップルとして、須藤登と河北由里の即席カップルだった。 須藤は、河北を連れ立ち、自身の夢とも野望とも言えない熱い熱弁を繰り広げていた。 だが、いかんせん、県内で優秀な学校に通う須藤だが、学力と弁は伴わない。 学力の割りに、弁は饒舌であった。 心の弱い者や、誰かにすがらなければ個性を示せない者ならば、 その弁で、ホロッといくものだが、理解の早い者ならば、論理とは天地ほども離れたその内容に、言葉に薄さを感じ、 すぐに嫌気が差すというものである。
なぜこの実の無い軽さをもった者を友人と称するかを大介を良く知るものならば誰もが疑問に思う。 それに対し、本人曰く、 「矛盾を即座に理解し、心で突っ込みをいれるのは、脳を鍛えるのに役に立つ。 彼は、僕にとって活力筋のようなものだ。」との事である。
河北由里も、この口ほども無い軽さが1時間の間に理解し、そそくさと須藤の前を去ってしまった。 須藤本人は、河北由里が去った事実を知るのは随分と先の事で、 その間、自分の言葉に心酔しきった感じで弁を奮い立たせていた。
河北は、食堂に戻り、 「うまくいかないなぁ。彼氏じゃなくて、男友達でもいいのに。」と、 自分の男運の無さに悲観しながら食堂の扉を開けるとコーヒーの挽きたての匂いが食堂に立ち込めているのを感じた。 「うわぁ、いい匂い。」 回りをキョロキョロすると、部屋の隅で、コーヒーメーカーをじっと凝視している男を1人見つけた。
その男は、紛れも無い安原伸也である。 皆が食堂を去った後、1人本を読み続けていたが、知識が増えると試したくなる。 台所から、コーヒー豆と器具を見つけてくると、早速豆を挽き、コーヒーを作り出したのである。
上から滴るコーヒーの一滴一滴をジィと見つめながら、コーヒーが溜まっていく姿を見つめていた。
「おいしそうですね?」 背後からの突然の声に、ビクッと背中を振るわせ、伸也は恐る恐る後ろを振り返ると、河北由里が、ニコリと微笑みながら立っていた。 伸也は、微笑返しをしながら、 「飲みますか?」と尋ねると、 「はい。」と素直に答えた。
淹れたてのコーヒーをコップに注ぎ、由里に手渡した。
「お相手の男性は、どうされたんですか?」伸也の問いに、 「話が難しくて、ついていけなかったんです。」
「なるほど。うまい言い方をされますね。その言い方ならば相手に失礼が無い。」 「ご存知なんですが、須藤君の事。」 「同じ学校ですから。」 「じゃあ、安原君も旭高校なんですかぁ?」 「はい。まぁ」 「優秀なんですね?」 「学力のことを聞いていますか?」 「えっ?はい。」 「頭でっかちな事にあまりイミは無いですよ。人生経験が多いほうが優秀という言葉がよく似合うと個人的には思っています。」 「そうですか。。。」 「ところで、コーヒーはどうですか?」 「えっ?あっ、美味しいです。」 「そうですか。良かった。」
伸也は、素直に微笑むと、河北も思わず釣られて笑った。
バタンと勢いよく扉が開くと、開口一番 「姫ぇ。お腹減ったぁー。」と叫ぶ元気な声。 木下と連れ立ち藤沢奈緒子が帰ってきた。
伸也は、姫の言葉に疑問を持ち、 「姫ですか?」と問うと、 「恥ずかしいんですけど。」と、由里は気恥ずかしそうに、小さく頷いた。 「ほぅ。」と少しの驚きと感心を込めて頷いていると、藤沢奈緒子の言葉に釣られて続々と外にいたものが食堂に戻ってきた。
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