夏休み中の登校日があり、伸也は、学校から家路に帰る道を一人トボトボと歩いていた。 後ろから、プップーという車のクラクションの音が聞こえ、後ろを振り返ると、大きな高級車が伸也の前に横付けされた。
ウィンドが開き、顔を現したのは河北由里だった。ペコリと頭を下げ、 「今、お帰りですか?」 「はい。」 「よければ、ご一緒しませんか?家までお送りします。」 と車に乗るように誘ってきた。
伸也は、 「送り迎えですか?相変わらずのお姫様なんですね。若いんだから少しは歩いて、季節を感じたほうがいいですよ。」 そういうと、軽くと頭を一礼し、トボトボと先程と変わらぬ歩調で歩き出した。
後ろで、ガチャ・バタンと車のドアが開閉する音が聞こえた。 後ろを振り返ると、制服姿の河北由里が、パタパタと小走りに走りながら伸也の側まで来た。
「お金持ちは嫌いなんですか?」 「別に。」 「それなら、避けなくてもいいじゃないですか。」 「特に、そんなつもりは。」
「今回は、いろいろとありがとうございました。 家に帰ったら父にものすごく怒られちゃいました。 心配させてしまったので、仕方が無いんですけど。」 「そうですか。」
伸也と河北は、沈黙のまま二人並んで歩いていたが、 河北は、伸也より、二、三歩先に進むと、後ろを振り返り、伸也を見た。 「もし、伸也さんに彼女がいないなら、私と付き合ってくれませんか?」 唐突な河北の言葉に、
「はぁ?」 と思わず聞き返した。 「聞き返さないでください。聞こえてますよね。」 「ええ、まぁ。」 「私、俄然興味を持ってしまいました。困っている私を助けてくれたこと。 結果的に助けられなかったけど、黒田さんの事や藤沢さんの事も。 一生懸命な姿に惚れちゃったんです。だから、付き合ってください。
それに、私、初めてなんです。」 「初めて?」
「男性との免疫は確かに少ないですけど、私に、はっきりと男性の知識の乏しさを指摘されたのは初めてなんです。
だから、いろいろと教えてほしいと思って。。。」 「それは、僕でなくてもよいのではありませんか?」 「あなたと親しくなりたいと思う人はたくさんいると思います。一時の感情よりも広く世間を知ってからでも十分だと思いますよ。」
「駄目です。私の周りは私の気持ちを尊重する人が多いんです。 はっきりとした言葉で伝えてくれる人は少ないんです。だから、はっきりと言ってくれる人が傍にいて欲しいんです。」
「じゃあ、お友達ということでいいですね。」 「え?」 「相談相手という事でしたら、お友達で十分ですね。」
「駄目です。」 「何故?」
「私が好きになったからです。一時の感情ではありません。」
伸也は、ポりポリと頭を掻いた後、 「まぁ、いいですけど。後悔しないでくださいね。」 「後悔?なぜ?」 「僕といると、今回みたいに、殺人事件に巻き込まれますよ。 今回で、3回目だし。全く、日本に帰ってきてからこんなのばかりだ。」
夕日が逆行になっていたため、河北由里の複雑な表情を見ることが出来なかったのは伸也にとって良かったのか悪かったのかは計り知れない。 だが、河北由里の男運の無さを更に煽るのは、今後の事である。
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