次の日、迎えの船が来た。 伸也は、船の操舵手に事の事情を伝え、無線で警察を呼ぶように指示した。
「やっと終わったね。」と残ったモノは、安堵の息を漏らした。
拓也が、ふと周りを見ると、 「おい、大介、藤沢は、どこ行った?」 その言葉に、大介は、周りを見、 「黒田さんもいないぞ。」
「皆、探せ。」の言葉に、屋敷の中や外を探し回った。 島の高台の所で、人影が見えた。
拓也は、大介達に声をかけ、高台に到着すると、 そこには、血を流して倒れている藤沢を見つけた。
そして、崖っぷちの所に立つ黒田の姿と、少し離れた位置に伸也が立っていた。 黒田は、カツラを取ったのか、金髪ではなく長い艶のある黒髪だった。
「やめるんだ。」 日頃の伸也とは思えない大きな声が響き、その声は拓也達にもはっきりと聞こえた。
「ごめんね。安原君が言ってくれた事。嬉しかった。でも、もうダメなの。私は耐えられないの。 ずっと前から、私の心は、壊れているの。修復は不可能。 達也のいない世界は、嫌なの。いろいろしてあげたかった。だから、向こうで一緒になる。」
「やめろ。死は、全ての終わりだ。一緒になんかなれない。」 伸也の声は、黒田の耳には届かなかった。
「ごめんね。。。。ありがとう。」 と一言言うと、崖から飛び降りた。
伸也は、黒田に向っていったが、海の中に吸い込まれるように消えた。
拓也達は、伸也の側に行くと、倒れている藤沢を見た。 「伸也、藤沢は?」
伸也は、首を横に振った。 大介が、藤沢を抱き上げるようにして持ち上げると頚動脈に深々と切り裂いた後があり、 恐らく悲鳴を上げることなく逝ってしまったと予測できた。
「伸也、大丈夫か?」 拓也が、気遣った。
「はい。。。。。すいません。守ってあげられませんでした。」 「伸也のせいじゃないよ。藤沢は、俺達が担当だったんだ。」
「いえ、藤沢さんの事だけではありません。黒田さんです。 彼女の情緒は、ずっと不安定でした。 注意していたのですが、まさか、藤沢さんが彼女を呼び出すとは思っていなくて。」
「えっ?」
「黒田さんの鞄のポケットに入っていました。」 そういって、紙を渡した。 紙には、 ”お話したいことがあります。 藤沢”
「どんな話をしたんだ?」 「さぁ、そこまでは。でも、見つけたときには既に、藤沢さんは地面に倒れていました。 何気ない一言だったかもしれません。それが、黒田さんにとって踏んではいけない地雷だった。」 「生きる事を選んだ彼女に、死を選ばせたということか。」
「後味が随分と悪くなってしまいました。」
その後、警察が到着し、事情徴収や、海中捜索などが行われたが、黒田の遺体は見つからなかった。
その後、警察によって過去に起きた事情も含め全てが明らかになった。
黒田薫子(黒木薫)は、藤沢、木下、須藤と同じ中学出身。 中学時代、仲原達也は、クラスで苛めの標的にあっていた。 精神的な苛めではなく、陰湿に肉体を苛めつづけていた。 仲原は、身体障害を持っており、普通の生徒と同様の生活をするには、少し難があった。 それに対して、言われなき中傷、罵倒を浴び、それがエスカレートし、苛めに発展した。
苛めの中心人物だった藤沢が主犯であり、実行犯として、木下、須藤の名が上げられた。 黒木薫は、仲原と家が近かったこともあり、幼少のころから仲が良い。 仲原の性格はとても温和で、気遣いがよく、他人を労われる心を持っていた事で、黒木は、いつしか仲原に恋心を抱いていた。
黒木の仲原を思う心を知った藤沢は、苛めの標的に、黒木を加える。 とある日、黒木は、藤沢から呼び出され、木下、須藤によって半レイプされる羽目に。 そこに飛び込んだ仲原達也。命をかけて黒木を助ける。 だが、言葉通り、命をかけた仲原は、黒木を助けた結果、命を落とした。 との事だった。
その後、黒木は、仲原達也が死んでしまった事により心身喪失となり、精神科医を通っていたとの事である。 それでも元々、成績優秀な子であったため、名を変え、御津女子高に通うことになったのだが、そこで藤沢の存在を見つけてしまい、 憎悪の念がふつふつと蘇り、今回の旅行をキッカケに、復讐を考えたのだということが、黒木の家にあった薫の日記から全てが明らかになった。
知り合いでもある加藤刑事に一部始終を聞いた伸也は、 ハァっと大きなため息を付いた。
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