学校の校舎の屋上。日が完全に沈み、空一面を星が瞬いていた。
「たつやぁぁぁぁぁぁぁ。」 天にも届くようなつんざく声で、男の名を呼ぶ声が空に響く。
横たわる人影を支えるようにもう一つの人影が見える。 横たわる人影は、微動だにしない。 支えていた人影は、背中を震わせていた。
月夜の光が、対象を捉え、闇夜に一筋の光を照らした。 倒れた人影の姿を視界に捉えることが出来た。
倒れているのは男の子だった。 その姿、何度も何度も傷つけられたのか、顔には殴打した跡。 衣服は鋭利なモノで傷つけられ、裂かれた痕がある。 血が未だ乾かず、傷跡からは滴る血が見えた。
「許さない。絶対に許さない。達也を殺したあいつらを。苦痛と恐怖に怯え必ず殺してやる・・・」
■ 一日目:朝 河北由里は、夏休みを利用して、父親が持つ別荘に三泊四日の旅行を計画した。 女子高に通う彼女は、幼き頃から身内以外の男性との免疫が著しく低い。 そんな彼女は、同じ学校、同じクラスの友人でもある榊原ユキに別荘での旅行を持ちかけた。
ユキは、学校の友達と共に幼馴染でもある篠崎拓也、神谷大介を誘った。 この2人を誘うと同時に、それぞれの学校の友達を3名連れてくることを約束した。
旅行当日、船着場に今回の旅行参加者が到着した。 最初に、相談したユキを筆頭に同じ学校に通うタイプの違う5人の女の子。 そして、拓也と大介とそれぞれの学校に通う友人達3名 最後に、前日急遽参加表明した安原伸也がいた。
船に乗る前に、簡単に自己紹介をする。 お互いの名前が解った所で、船に乗り込んだ。
船の中で、今回の主催者である河北由里から目的地の話を聞く。
「父が、仕事の為に、あの島を買ったんです。 いつもは、女中と庭師さんがいるんです。でも、今回は誰もいません。 だから、全部自分達で行わないとダメなんです。 本当は、保護者同伴じゃないと怒られてしまいますけど、嘘付いちゃいました。」 河北由里は、少し悪びれた顔をした後、舌を少し出し、照れ笑いをした。
未成年の男女が無人島とも呼べるような島に三泊四日。 そんなコトを聞けば、多感な男女が反応しない訳は無い。 間違いが起きて欲しいのではないか?という期待すら感じさせる状況に、はっきりとした発言は無いまでも 期待に胸膨らむのは間違いなかった。
拓也は、大介と共に船のヘリに掴まり、船から見える海や友人達を見回していた。 船の中で、既に男女楽しく話をしている様子が見て取れた。 その中でも、拓也の学校に通う木下雅夫と藤沢奈緒子は、 すでに打ち解けているのか藤沢が木下の肩を叩きながら大笑いしている姿が見えた。
今回の参加者は全部で11名。 ユキや、河北由里と同じ学校に通う藤沢奈緒子、黒田薫子、栗田美代子。 そして、拓也と同じ学校の木下雅夫、和田努 大介と同じ学校の須藤登そして、安原伸也の11名だった。
「最近の女子高生の私服は派手だな」と拓也がポツリと言葉を漏らすと 「服だけじゃないだろ。頭だって。」と大介は、ふいと指をさした。
指差された方向では、黒田薫子が一人海を見ていた。 その頭は、金色に輝き、衣服もショッキングピンクなどの蛍光色がちりばめられたなんとも派手な衣装だった。 もう一人の栗田も、短髪だが髪は見事に茶色に染められており、学校の校風が自由なのだという事を伺わせた。
それは、女子高だけの話とは言えなかった。 実際、拓也と同じ学校の木下雅夫もライトブラウンの頭に長髪というなんとも高校生らしからぬ派手な格好をしていた。
「何、二人で黄昏れているのよ。」 ユキは、後ろ手を組みながら二人に近づいた。 「ユキこそ。いい男見つけたか?」
「何言ってるのよ。男6人の内、半分は知っている人よ。面白みも何にも無いわ。」 「そりゃ、悪かったね。」と剥れる拓也に、大介はプッと吹き出し、 「ユキは、拓也がいれば十分だろ。今更、二人して何言ってるんだ。」 「な、何言って。」 顔を赤く染めながらムキになる二人を見て、大介は声を出して笑った。
船が進むに連れて到着地である島が見えてきた。 絶壁に覆われた孤島。 孤島にそびえる一軒の屋敷。 購入者の河北由里の父親の趣味が解るような二階建ての洋館が徐々に見えてきた。
「あの島は、父が他との遮断を目的に買った島なんです。 仕事が立て込んでいるときや、他との接触を避けるときによくあの島に行っています。 あの島は、必要最低限の電気・ガス以外は、何もありません。それこそ、電話も使えないぐらいです。 この船頭さんも4日後に迎えには来ますが、それ以外は誰もきません。」 と由里が説明すると、煽るように数人の男女から歓声のような声が聞こえてきた。
誰もいない。そして、誰も来ない事が、妙な興奮を覚えたようである。
程なくして、船は島に到着した。 船着場に錨をおろし、男女は順々に手荷物を持ち、船から下りていった。 由里は、先頭きって、島を巡りながら洋館までの道を案内して回った。
島は、1時間もあれば外周をあるけるぐらいの距離しかない。 実際、島の中央に建物があるぐらいで、周りは、ちょっとした木々が生えるぐらいで何も無かった。 建物近辺には意図的に作られた庭がキレイに纏められており、庭師の実力が測れるぐらいだった。
二階建ての洋館は、 中庭を囲うように、左右の廊下と部屋、そして玄関ホールと、ホールの対面に食堂があるというつくりであった。 1階には、玄関ホールの左横に2階にあがる階段が設置されていた。 面倒な所で言うと、左側の部屋に行くには、右側の廊下を進み、食堂を通り抜けないと部屋にはいけなかった。 中央の食堂には、出入り口が左右にあり、先に説明したように、左右の廊下に続く作りである。 夜中は、食堂内の扉を施錠し、基本、左右の部屋を行き来できないようにしてあるとの事であった。 左側には、台所と5つの部屋。右側には、5つの部屋がそれぞれ設置してあり、部屋には、風呂とトイレを完備していた。
由里は、建物の案内をしながら、それぞれが入る部屋を決め、 1週間の間の部屋の主に、部屋の扉を施錠する鍵を渡した。
由里は、自分の部屋の鍵以外に、全ての部屋を開けられるマスターキーと食堂の扉の鍵を保有する形になったが 建物の提供者である娘に文句をつける必要などはどこにもなかった。
部屋の割り振りが決まり、 左側には、玄関ホールに向かって、木下、和田、須藤、大介、拓也の順番 右側は、黒田、藤沢、栗田、ユキ、河北の順に部屋が割り振られた。余った伸也は、1人二階の部屋に行くことに。
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