伸也は、俺達と別れ、一人部屋に戻って行った。 だが、伸也は、途中寄り道をして、従業員達のいる控え室に行ったようである。 その後で、自室に戻っていった。
部屋に戻ると、変わらず根津は、机に向かい、勉強をしていた。 亮介は、ベッドの上に腰掛、本を読みふけっているのが見えた。
亮介は、伸也と目が合うと、 「犯人は捕まりそうですか。」 「さぁ、捕まえるのは警察ですから。一般市民に逮捕権はありませんよ。」 「言葉のアヤだろう。それに、君たちは、犯人が誰なのか探しているんじゃないのかい。」 「ええ、まぁ。」 「相変わらず、はっきりしない物言いだね。」 「そうですか?こんなモノですよ。」 「ふぅん。まぁ、帰りたくても帰れない状況だしね。納得の行くまでやってみるといいよ。」 「随分と冷たいんですね。」 「何が?」 「拓也君から聞いたのですが、優しくて、責任感があって、頼りがいがある。 拓也君は、一人っ子で兄弟がいないので、あなたは、兄のような存在だと聞いています。」 「そうか。僕に弟がいれば、あんな感じなのかもね。」 「ですが、今の貴方からはそのようなイメージが全く無い。というよりも真逆の位置に属した人のようにさえ見える。」
「どういう意味だい。」 「あなたは、今回、保護者としての役割で、ここにいる筈です。つまり、拓也君達の親代わりとしてここにいる。 親と言えば、何はなくとも、息子や娘の安否を心配するものです。 ですが、あなたからは、それを微塵も感じない。我関せずという感じが強い。 ただの一度も、子供たちの心配をする節も見受けられない。とても、責任感のある人には思えません。」
「そんなこと。」 「それに、あなたには、医術の心得がある。医者としての地位を持っている訳でないにしても知識は誰よりも豊富にある。 そんなあなたが、なぜ、協力しないんですか?」 「検死はした。アレ以上に何を俺から求めるんだ?」 亮介は、少しイライラし、怒鳴るように伸也に言い寄った。
「では、もう一度、検死をしてもらえませんか?」 「はぁ?」 「明らかな物証が見つからないんです。何か見落としているのかもしれません。もう一度見て欲しいんです。」 「俺の検死に疑問があると?」 「見落としているかもしれないと言った筈ですが。」 「俺の検死は完璧にやった。見落としなんか無い。」 怒りに任せ怒鳴り散らすように、激しい声で反論した。
亮介が反論を叫び終えた頃、ドアのノック音と共に、俺と大介が伸也のいる部屋に入った。 亮介は、萎縮したように背筋に寒気を感じていると、亮介の怒りに怒りで言葉を返したのは根津だった 「うるさいよ。集中できない。勉強の邪魔をするな。」 その言葉に亮介は気圧され、鼻から圧縮した息をフンと鳴らし、 「わかったよ。検死すればいいんだな。」 そういって、部屋から出て行った。
伸也は、根津に顔を向け、 「お手柄です。根津君。ありがとうございます。」 ペコリと一礼をしたが、根津の怒りは収まる事もなく 「いい加減にしろ。僕は一流の大学進学を目指しているんだ。こんな所で暢気にスキー旅行なんてする気は無い。」
「じゃあ、何で来たんだよ。」 根津の怒りに満ちた発言にふと疑問に思った俺は、軽い気持ちで疑問をぶつけると、根津は、足音強くづかづかと俺達に向かってきたかと思うと 大介を指差し、 「お前だ。いつもいつもいつも俺の前に立ちやがって。お前さえ邪魔しなければ、あの学校の1位は僕なんだ。 お前がどんな勉強をしているのか見てやろうと思ったら雪山で合宿するのを聞いたんだ。 後を付けてやろうと乗り込んできたら、スキーだと。ふざけるな。挙句の果てに殺人事件なんかに巻き込みやがって、うんざりなんだよ。」
根津は、自身の怒りをぶちまけたが変わらず怒りの形相だった。 「合宿?」 言葉の中にあった疑問を思わず問いかけてみたが、答えが帰って来たのは大介からだった。 「今回の旅行に関して拓也に電話していたのを聞いていたんじゃないか。合宿と勘違いしたってことだろう。」 「なんだ。こいつの早とちりじゃないか。」 「う、うるさい。僕は、時間が無いんだ邪魔するな。」
根津は、そのまままた机に向かい勉強を再開した。 大介と拓也は、亮介が再び検死を行っていることを伸也から聞き、友子の遺体が置いてある場所に向かった。
残った伸也は、根津の元に行き、 「巻き込んでしまったのはすいません。しかし、合宿と勘違いしたのは根津君自身ですので、それを大介君達にあたるのはどうかと思いますよ。 ちなみに、問3 間違っていますので計算し直した方がいいですよ。」
それだけ言うと、部屋を出て行った。
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