「ああ、やっと、終わった。」 腕時計の時間は午後7時半。 勤め先の工場での仕事を終え、軽くため息をつき、くしゃくしゃになった煙草の本数を確認する。 最近、煙草の吸う本数が増えたのは気のせいだろうか? 工場の自転車置き場に置かれた、『吉岡正弘』と書かれた俺の愛車に乗り、工場を出る。 『お疲れ様です。』 守衛さんの言葉を背に受け、作業で疲れた体を引きずるようにし、工場を出た。 俺の勤める工場から家まで約20分ほど。同じ派遣会社の人たちとすれ違いながら、家を目指す。 外の風はかなり冷たく痛い。 N-3Bのチャックを首までしめる。 古着屋で3万円で買った、俺のお気に入りだ。 家は会社から自転車で10分ほどの距離。 家賃3万8千円、1畳のロフトと8畳のワンルームの築10年のアパート。 自転車を駐輪場に置き、家のカギを開ける。 家に着くと、まずはお風呂に湯を張る。 テレビをつけようとしたら、年下の友人から、電話が入る。 「明日パチンコ行くぞ。熱いイベントがあるんだよ。」 「用があるから行かないよ。」 「またバックれかよ。じゃあな。」 友達のあきれた声が耳に入る。 実はパチンコに行きたいが、今は懐が寒いから駄目だ。 携帯電話の着信が再び入る。今度は親からだ。 「もしもし、母さん?どうしたの?」 「・・・正弘?悪いんだけど、また5万円送ってくれない?」 「いいよ。」 「・・・ごめんね・・。」 電話口から、母親の泣く声がした。 言わなくてもわかる。 ・・・俺の親父が、また、借金をした。 これで、何度目だろう。 ・・・今すぐ実家に帰って、親父を刃物で刺し殺したい衝動に駆られる。 『親との縁を切りたい。』 ・・・何度、思ったことか。 だが、親父も親父で必死なのだろう。
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