トーキョー。大都会。犯罪都市。いつからか、この街は様々な顔をもつようになった。 少年は、いつ崩れるともしれない錆びたタワーから、その街を見下ろしていた。このタワーにもコフィンタワーという新しい名前がついた。寂れたタワーに自分の姿を見、ここで最期のときをむかえようという人間が登ってくるからだ。このタワーの下には普通の人は寄ってこない。上から落ちてくる『もの』の巻き添えになりたくないからだ。しかし一方で、飛び降りる覚悟が決まらず、そのままここで白骨化した死体もここにはあふれている。 少年は、周りを見渡した。ねずみに話しかけている老女、生きているのか死んでいるのかも分からない若者。そんな人間ばかりだ。少年はせつない表情で彼らを見つめていた。自分がなぜ、このコフィンタワーに登ってくるのか彼にもわからなかった。彼にはここにくる理由はない。彼の選択肢に、『死ぬ』という言葉はないからだ。彼にとって『死』は向かってくるものであって、自分から近づくものではない。
「いや……」
ふと、少年は言葉を出した。いや……もしかしたら、ただ『死』を待つだけの彼らに、自分を見ているのかもしれない。少年は、ふとそう思った。少年は、枠しか残っていない窓から、また外を見下ろした。光があふれるトーキョーで、なぜこのコフィンタワーにだけ光はあたらないのだろうか。 ふと、静まり返ったタワーに、携帯電話の音が鳴り響いた。少年は、あわてる様子もなく、ポケットから携帯を取り出し、耳に当てる。
「もしもし」
しばらく携帯の向こうの声に耳をかたむけ、少年は表情を変えた。
「了解。すぐに取り返すよ」
* * *
トーキョーのはじにある、寂れた教会。そこはもう、教会としての役目を終え、今はある人物の事務所になっている。もう六十になるその男は、教会の奥に増築した自分のオフィスで、黒い革のイスに座っていた。 男は電話を置くと、ため息をついた。男の頭には、これまでの彼の人生の苦労をあらわすかのような薄い白髪がかぶさっている。顔には、蚕が紡いだ繭のような白い眉毛と、深いしわがきざまれ、同年代のほかの人間よりもふけて見える。少なくとも、男の『子供達』は、よくそう言うのだった。 彼の部屋は写真につつまれている。壁には幾多もの彼の『子供達』の写真が飾られ、机の上には、幸せそうに微笑んでいる一人の少女の写真がある。皮肉な話だ。男は、心の中でそうつぶやくと、その写真を手に取った。写真の少女を懐かしそうに見つめると、低い声でつぶやく。
「フィリオの死は、私に生きがいとなる使命を与えてくれた」
男は、三十年前に亡くした娘の顔をなでた。フィリオは、なでられても表情ひとつ変えない。彼女は、永遠にそこで笑っている。
「運命とは、そういうものじゃないですかね、藤本さん」
それまで黙って藤本の様子を伺っていた青年が軽い調子でそう答えた。青年は、長髪を後ろで一つに結び、ラフな格好をしている。一見、そのへんでチャラチャラ遊んでいるだけの男にもみえるが、目つきだけはするどく、ヘラヘラしているときでさえ目だけはいつも真剣だ。 この男と藤本は長い付き合いだ。だが、それは仕事上仕方がないだけで、本音をいえば、藤本は彼をどうも好きにはなれないでいた。運命、という重い言葉を、こう簡単に言い放つところも気に食わない。 藤本は写真から目を離し、机の向こうで膝を組んで座っている青年を見つめる。
「三神くん。君、いくつになった?」
三神は、予想していなかった質問に、眉をあげた。
「歳ですか? 二十三になりましたよ」 「二十三か。その若さで、この裏社会でビジネスを立ち上げるとは……脱帽だよ」
三神には、その藤本の言葉が皮肉なのか本音なのか分からなかったが、彼にとってはそんなことどうでもよかった。
「さあ。それより、そのお歳で子供たちを束ねて暗躍されている藤本さんのほうが、脱帽に値すると思いますけど」
深刻な藤本の声とは逆に、軽い調子でそういう三神だったが、皮肉っているのは明らかだった。藤本は、どこか気を許せないこの軽い男からとりあえず、目を離した。
「それで、今回の情報、どれくらい確かなんだね?」
再びビジネスの話に戻り、三神は身を乗り出す。
「いやですね。トーキョーに三神アリ、といわれるこの情報屋を疑うんですか?」 「若者はつめが甘いからな」
三神はふっと鼻で笑った。今度は皮肉だ。明らかに分かった。
「それを言うなら、あなたの部下は僕よりずっと若いじゃないですか」 「彼らは特別だよ」
藤本は表情ひとつ変えずにそう答えた。情報屋の三神は、じっと藤本をするどい視線で見つめる。六十をとうに超えているこの老人が、一体何をたくらんでいるのか……三神には、興味があった。
「特別……確かに、特別ですね」
三神は、ふと電話に目をやる。
「さっきの電話の相手は?」 「あぁ。和幸だよ」
その名前に、お、と三神は声をあげた。
「彼ですか。そういえば、ずいぶん会ってないなぁ。元気ですか?」
教科書に書いてあるような、典型的な質問に藤本はフッと笑った。
「元気じゃなければ、仕事を頼んだりしないよ」 「それもそうだ」
三神は、ははは、と明るい笑い声をあげた。
「でも、ほら……」
ふと、声のトーンが低くなったのを藤本は気づいた。三神は、試すような視線で藤本をじっとにらみつける。
「彼も特別な子供だから。きっと、もう長くはないんじゃないかと思って」
藤本は、三神を決してみることなく、黙っていた。
* * *
トーキョーのトシンから離れたところに、高級住宅がならぶ一角がある。このご時勢、金持ちになれるのは大抵、裏の仕事にたずさわっている連中だ。人にいえないことをしていながら、堂々と屋敷を建てる。それはいつのまにか常識になり、暗黙の了解となった。金持ちに質問するな。それが、トーキョーで生き残る方法だ。 和幸は、ある屋敷の前で立ち止まると、高層ビルにはさまれて不気味に聳え立っているコフィンタワーをながめた。さっきまで自分があそこにいたとは思えないほど、それは遠い存在に思える。求める人にのみ、扉を開く。まるで教会のような場所かもしれない。和幸は、ふとそう思った。
「さて……」
ため息混じりにそう言って、和幸はそれまでかぶっていた帽子をはずし、ズボンの腰に乱暴にさしこんだ。帽子のせいでへんな癖のついた髪を、和幸はぐしゃぐしゃと手で適当に整える。その黒い髪は、女性だったら自慢になるくらい、サラサラとした直毛だ。ショートだというのに、そのきれいな髪は人に強い印象を与える。だが、彼の際立った身体的特徴といえば、それくらいだ。背の高さも同年代の平均だし、顔も平均的だとよくいわれる。一体、平均的な顔とは何だ、と和幸は友人に聞いたことがあるのだが、そのとき言われた言葉といえば、「かっこよくもないし、かっこわるくもないのよね」だった。もしかしたら、それはショックなことだったのかもしれないが、和幸にはどうでもよかった。彼は、見た目を気にしたことはない。彼にとって、生まれ持ったものは、自分には関係ないものだからだ。
そういえば……和幸は、ストレッチをしながら思い出した。昔、使い捨てカメラというものがあったらしい。限られた枚数を撮ってしまえば、あとは捨てるだけのカメラ。どうせ使い捨てだ。壊れてもかまわない。たとえ壊れても、損するのは限られた枚数だけ。そんな話をずいぶん前に誰かから聞いた。たいした話でもないのに、よく覚えている。 和幸は、自分のひざに手をあてた。理由は分かる。
「俺も……同じだ」なさけなく鼻で笑うと、体を起こし、屋敷を見上げた。 「使い捨てなんだ」
その一言をいい残し、目の前にそびえる門を、和幸は軽々と飛び越えた。それはジャンプというより、飛翔に近かった。庭に降り立つと、背を低くして、玄関まで音もたてずに走っていく。走りながら、黒の皮手袋をはめ、玄関につくやいなや、ドアノブに手をかけた。鍵がかかっているのは分かっている。でも、彼には、そんなことは問題ではなかった。ドアノブをまわすこともなく、そのまま後ろにひっぱると、ガキン、という鈍い音とともに鍵がこわれ扉が開いた。その音で、誰かがおきたかもしれないが、それも和幸にはどうでもよかった。ポケットから携帯を取り出すと、ある画像を見る。それは、ある少女の写真だ。
* * *
二階の子供部屋は、人形であふれていた。少女には、一体ここがどこなのかよく分からなかった。天蓋のあるかわいいベッドの中で、ぼうっと頭上につるされている星を見つめる。このベッドも、この部屋も、何も見覚えはない。気づいたら、ここに暮らしていた。でも、ここは自分の部屋だ。なんとなく、その意識ははっきりしていた。ママとパパは優しくて、私の名前はユウ。7歳の少女は、その言葉をいつも頭の中で繰り返していた。なぜなのかは彼女にも分からない。なぜ、毎晩、さびしくなるのかも分からない。ぽろっと少女は、自分の目から涙が落ちるのに気づいた。しかしそれでも、目をつぶって眠りにつくことしかできない。分からないことだらけなのに、理由を聞こうという気持ちはどこからもわくことはなかった。 少女は、ベッドに鼻までもぐると、ただ目をつぶった。ふと、部屋のドアが開く音がした。少女は、また目を開いた。相変わらず星が頭上でゆれている。
「ママなの?」
誰かがベッドに腰を下ろしたのを感じた。ギイっとベッドがきしむ音がする。少女は、ゆっくりと体を起こした。
「ママ?」
少女は、ベッドに座っている“誰か”を見つめた。暗くて顔がよく分からない。しかし、その影はママとは違っていた。少女は眉をひそめた。
「パパ?」
人影は、スッと少女に手をのばした。
「小夜子ちゃん」 「え?」
少女は、確信した。その人影は、ママでもパパでもない。差し伸べられた手におびえながら、少女は声をしぼりだす。
「誰?」 「俺は和幸」 「え?」 「小夜子ちゃんを迎えにきたんだ」
和幸は、にこりと優しく微笑んだ。
「小夜子? 私はユウよ」 「……」
少女の言葉に、和幸は顔を曇らせる。差し伸べた手をゆっくりと戻すと、ため息をついた。
「催眠術か」
ふと、下で物音がしたことに気づいた。誰かの声が聞こえる。どうやら、和幸が侵入したことに気づいたようだ。
「お兄ちゃん、悪い人?」
少女の純粋な問いに、和幸は苦笑した。
「難しい質問だ」でも、と和幸は続ける。「少なくとも、君の偽者のパパとママよりはマシだと思うよ」 「え?」
和幸は、戸惑う少女の目の前に手のひらを広げる。
「?」 「本当のパパとママは、小夜子ちゃんの帰りを待ってる。だから、帰ろう」 「どういうこと?」 「強い催眠術で、記憶を変えられてしまってるんだ。今から、解いてあげるからね。怖がらないで」
そういうと、少女の目の前で開いていた手のひらを、フィンガースナップの形に変える。そのとき、ドアが勢いよく開いた。
「誰だ!?」 「パパ!」
少女は、入ってきた人物に声をあげる。和幸は振り返りもせず、少女の肩を別の手でおさえた。
「ユウ!」
パパと呼ばれた男は、状況を把握すると、血相をかえた。
「お前、何してる?」 「分かってるだろ」
男は和幸の手を見つめた。少女の前でフィンガースナップの準備をしている。男の額からはいやな汗がふき出し始める。
「まさか……」
男の後ろから、寝巻きにカーディガンを羽織った女がかけよってきた。女も部屋の中の様子に気づき、悲鳴をあげる。
「ユウ!?」 「落ち着け、ミドリ」
男は、部屋に入ろうとした女を止めた。男は、じっと和幸を観察する。
「お前……カインか」
その言葉に、和幸は顔色を変える。女もはっとして和幸を見た。
「カイン……『無垢な殺し屋』!? 彼が?」 「……」
和幸は、何も言わずに、フィンガースナップの指に力をいれる。少女は、おびえて黙り込んでいる。
「待ってくれ。金を払う!」
男はすがるようにそう怒鳴った。
「そうよ、お金、払うわ。だから……ユウを」 「この子は、ユウじゃない。小夜子だ」
和幸は、冷たい視線で二人に振り返る。
「悪いな」 「やめて!」
和幸は、パチンと指をならした。小夜子は、一瞬、目を開けたまま固まった。ミドリは、その場にくず れるように座り込む。
「せっかく、ユウを取り戻したのに……」
男は、怒りに震える拳を握り締め、和幸にとびかかるように向かっていく。小夜子は相変わらず、ぼうっとしている。和幸は、男に気づくと、さっと身を翻し、男の腕をとり、ぐいっと後ろにまわした。
「ぐわあっ」
無表情のまま、和幸は腰にしまっていた銃をとりだし、男につきつける。
「俺をカインと分かっていながら、いい度胸だ」 「ぐあ……」
ミドリは、夫のピンチにはっとして立ち上がる。
「やめて!」
和幸は、引き金に指をおく。ミドリは、震える足で立ち上がった。
「お願い! ユウを失って、その人まで失ったら……。 つらかったのよ。娘が死んで、寂しくて……もう、私たちには子供がうめないのに。だから」
ミドリは、自分のお腹をさすった。そこに子宮はない。誰にでも分かることだった。和幸が銃をつきつけているこの男にも、生殖機能はもうないだろう。それが、この世界のとりきめだ。人口を抑制するための、人工的な自然淘汰だ。子供は一人。一人生んだ夫婦は、避妊手術を受けるのが義務だ。
「だからって……」和幸の銃を握る手に力がはいる。「金で人の子供を買うのか」
高級住宅街に銃声が鳴った。でも、誰も気にはしない。 理由を聞くな。それが、ここで生き残る方法だ。
* * *
「小夜子!!」
みすぼらしい格好の女性が、化粧もしていない顔を涙でぬらして微笑んだ。和幸の手を離し、彼女にむかって、小夜子が跳ねるようにしてかけていった。和幸は、親子の再会を目を細めて見つめていた。 トーキョーのはじにそれはある。通称『カインノイエ』と呼ばれる組織の隠れ家だ。元は教会だったものを、事務所のように改装した。和幸もカインノイエの一員だ。
「和幸」
奥から、藤本が小夜子の父親とともに出てきた。父親は、小夜子の姿を見ると、母親と同じように涙をこぼして小夜子に駆け寄った。藤本は、三人の様子を見守りながら、和幸に歩み寄る。
「ご苦労だった」
この藤本こそ、カインノイエの創立者であり、カインと呼ばれる少年たちを束ねるリーダーである。
「たいしたことないよ」
和幸は、三人の様子をじっと見つめながら、無表情で答えた。幼いときから、和幸を育ててきた藤本には、彼は実の息子のようなものだ。じっと彼の様子を見つめて、足元に目をやる。和幸の足元には血のあとがあった。和幸にはどこにも傷はない。そうか……藤本は心配そうなまなざしで和幸を見る。
「撃ったのか」
その言葉に、和幸ははっとして藤本に振り返った。
「……」 「殺したのか」
藤本の声に、どこも怒っている様子はなかった。もちろん、怒ってなどいないからだ。彼の部下であるカインと呼ばれる子供たちには、どこか倫理という点でかけているところがあった。その原因は容易に分かる。だからこそ、藤本は彼らに対して、常識を押し付けようとはしていなかった。 和幸は、ふと自分の足元を見つめると、首を横にふる。
「殺してない」 「……」 「足を撃っただけだよ」
そう小さく言うと、藤本に微笑みかけた。
「そうか」
和幸は、ほかのカインとは違っていた。命というものに、異常な執着があるようにみえた。それは、自分の命だけでなく、他人の命に対してもだった。命というものに、彼は常に問いかけているようだった。だからこそ、『無垢な殺し屋』とも言われるカインの中で、唯一、人を殺したことがなかった。
「和幸くん」
間の抜けた明るい声でそう呼んだのは、三神だった。藤本は、用が済んだら帰れ、と何度も言ったのだが、結局、ずっとここに居座っていたのだ。
「三神さん?」
和幸は、久々に見る情報屋に目を丸くした。
「お久しぶりです」 「やあやあ、久しぶり。元気そうだね」
近づいてくる三神を避けるように、藤本は、小夜子の家族のほうへ向かった。三神はそれを横目でみながら、和幸に近づく。
「三神さんも元気そうで」 「いやいや、情報集めて売ってるだけだからね。君みたいに命の綱渡りはしてないから」 「……」 「あ、気に障ったかな」
三神は、いたずらをした子供のような笑顔をみせる。和幸は、藤本と違って、このつかめない性格をし た男は嫌いじゃなかった。
「いえ」 「君の情報もよく回ってくるよ。いまだに、誰も殺せてないみたいだね」 「!」 「人を殺さないカイン。天然記念物だよ」
和幸は、その皮肉に、ただ口元だけ笑って答えた。
「お兄ちゃん」
いつの間にか、小夜子が和幸のそばにかけてきていた。小夜子は和幸の袖をひっぱり、微笑んでいる。
「小夜子ちゃん」 「ばいばい」
それだけ言って、小夜子は両親のもとへとかけていった。まだ幼い彼女には、自分の身に何が起きたのかまだ理解はできないだろう。小夜子と手をつないだ両親は、和幸に向かって深々と頭を下げた。和幸は、ただ微笑んで、家族が教会からでていくのを見送った。
「人身売買は増え続ける一方だな」
和幸の隣で、三神はポケットに手をつっこんで冷たく言った。
「貧富の差が広がり続ける限り、犠牲になる子供はもっと増える。今でさえ、半分も取り返せてないんだろ」 「……」 「お前たちカインだけじゃ、どうにもできない」
藤本が、戸締りを始めている。和幸は、三神の忠告に耳を傾けながら、ただ見ていた。
「それに……君たちカインの時間は、限られてる。とても盗まれた子供たち、全員を迎えにいけるとは思えない」 「!」
三神が珍しく遠慮がちに言った。和幸はなぜか、言われた内容よりもそちらのほうが気になっていた。三神は、黙っている和幸を見て、申し訳ない表情を浮かべた。
「久しぶりに会って、言いすぎたかな」
そんなことを言う三神は、心底意外だった。和幸は、ふっとふき出していた。それに驚いたのは三神だ。怒らせるようなことは言ったが、笑わせるようなことは何もなかったはず。
「なんだ?」 「いえ。反省する三神さん、初めて見た気がします」 「な……」
そんなことを言われるとは夢にも思っていなかった三神は、きょとんとしてしまった。
「ははは、失礼だな」 「すみません」 「まあ、お前の人生だ。好きなように使えばいいさ。僕も手伝えることはなんでもする」
親切な言葉のように聞こえるが、真意は安易に分かる。和幸は、ため息混じりに微笑んだ。
「そうやってお得意さんを増やしてるわけですね」 「ばれたか。まあね。ベンチャーは姑息にならなきゃやってられないよ」
三神は、また、ははは、と明るく笑い飛ばした。
「裏社会でベンチャー、ですか」
やはり、この人は嫌いじゃない。和幸は心の中でつぶやいた。
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