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「北原君。今、ちょっと、いい?」
「はい、いいですけど。」 美術室に入るやいなや三隅さんが声をかけてきた。僕は部屋の右奥からやってくる三隅さんへ目をやった。 「三隅さん?」 今日の三隅さんはなんだかいつもと雰囲気が違っていた。
僕の前に立つ三隅さんは、頬を赤く染めて、俯いている。一瞬、僕を睨んでるのかと思った。
「今週の日曜日、区の中央文化センターで、中越展開催されるんだけど、良けれ ば…一緒に行かない?」 「へぇ、中越展っすかあ…」 どうやら、怒っているように見えたのは僕の思い違いだったらしい。 それにしてもどうしようかな、日曜か…。 興味なくも無いけど、実は月曜1限英語のテストなんだよな。
「面白そうっすけど、月曜俺テストあるんすよねー……。」 そう言った途端三隅さんは、すごく悲しそうな顔をした。しまったと思った。 「あ…でも三隅さん、出展してたりするんっすか?」 「うん…あるよ。あたしのも。スペースはそんなに広くないけど…。」 「そうっすか!やっぱすげーっすねぇ!」 僕はなるだけ明るく、ハイテンションで話を合わせた。けど、そういっている端では英語のテストが頭の片隅をちらついていたんだ。俺、地味に今回落とすと成績やばいんだよな…。どうしようかな。 「ありがとう。見に来て…くれたりする?」 「え…っと…。」 「あたしの絵もあるし……見に来てくれるとうれしいな…って。」 静かに言いながら僕の方をじっと見据える三隅さん。これじゃぁ誘導尋問だ。いや、でも僕は中越展には興味あるんだし、三隅さんの絵も見たいことには見たいんだし、尋問ってのはいいすぎだな。我ながら反省。 「行こう…かな。」 「ホント?」 「そうっすね。俺、行くことにしました!三隅さんの絵、スゲー見たいっす!」 一瞬だけ、三隅さんの顔がぱっと明るくなった、様な気がした。
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