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作品名:小説☆脊髄 作者:中野 一司

第3回   3



 その日の晩、ある住宅地の一角、一軒家。
 広くもなくかといってとりわけ狭いわけでもないその一軒家の、ちょっと小洒落た装飾の玄関を抜け、階段を上った二階その奥の部屋がそう、ここがあたし―三隅透―の部屋。



 今日もあたしは日課のように、自分の部屋のベッドに腰掛けてお気に入りのファッション雑誌をぱらぱらめくる。けれど、なんか、今日はあんまり中身に興味がもてないっていうか、眺めても目を素通りしてる。

 はーぁっ。もう、今日はホントびっくりしたーあ。
 今日はなんだか不思議な気分だったなー。
 絵、描いてて良かっただなんて思ったなんて。ホント初めて。

 まさか、絵がイケメンとの「出会い」ツールになるなんてっ!


 今は、服の事よりも、なんか、他に考えることあるような、でも、面倒くさいような、ただぼーっとしてたいような気分。




 今まで、絵、描くのつまんなかった。したい遊びができなかった。そのことを私は多分未だに引きずってるんだと思う。

 小さい頃から絵ばっか描き続けてきたあたし。

 けどね、あたし心の底では、絵より外遊びの方が好きだったのかもしれない。ううん、「かもしれない」なんかじゃない。あたし、本当は絵よりも皆と体動かして遊ぶ方がずーっと好きだったんだ。
 
 けれども、あたしが掴んだラケットを、大人たちはみんなつぎつぎとはぎ取っていくの。

 『とおるちゃんは才能があるんだから』っていうのが大人たちみんなの口癖。

 それもこれも、下手に、私に大人達のいう『絵の才能』があるせい。私には、絵の才能がとういうものかはわからないのに。本当に、あたしにそんなものあるの?って感じ。

 それに、もしもね、あたしに『絵の才能』があったとしても、正直そんなものあたし欲しくない。いらないよ。だって、良いことないんだもの。


 大人達は決まって言うんだ。
 『絵の才能が欲しいと悩む人はごまんといるけど、あなたは最初から素晴らしい
絵を描けるセンスがそなわっている。それはすごく恵まれてることよ。』

 素晴らしい絵?
 どこが?
 ただの悲しい顔した女の子が描いてあるだけじゃん。

 わけわっかんない。

 けどお絵描きの先生はやたらと褒めるの。褒めちぎるの。

 何度も描くの止めたくなった。そしたらお絵描きの教室から逃亡してみんなとかけっこするんだっ、て。
 けど実際のあたしは描くの止められなかった。
 だってあたしが絵を描いて、それで賞取ったりするとパパやママが無邪気に喜ぶんだもん。
 それ見て、幼心にもやっぱり絵描かなきゃいけないって自分にプレッシャーかけてたんだと思う。


 無理、してたんだよね。ばかみたいに。


 今だってそうだよ。
 周りの皆みたいに部活に打ち込んだり、放課後おしゃべりしたり、おしゃれなお店に旬のスイーツ食べにいったり、普通の女子高生したい。

 イケメンの彼氏も欲しい。

 けど今のあたしの生活にはどれも無い。学校行って家帰って絵描いて終わり。確かに立場上は女子高生、ミニスカはいてる、学校では昼休みみんなとご飯食べてる…けど、そんなんじゃ解消されないよ。あたしの積もり積もった鬱憤。


 けど、そんなあたしに転機、かも。

 弟子入りしたいって男子に今日言われちゃった。 
真顔で。

 しかも彼、結構イケメンだし。
 年下だけど彼氏としてはステータス高いかな?

 そんなちょっとイケてる男子に絵教えてくださいだなんてお願いされるなんて!
あたし、絵、描いてて、よかった。
 始めてそう思った。

 これをきっかけにはゆくゆくは彼と付き合って…さ、うん、今までのツマラナイ人生脱出♪できちゃうかもっ。

 なんかこれから美術室行くのドキドキしてくるなっ。

 へんなの。


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