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作品名:Mission!! 作者:Rach

第3回   1st Stg第3話「French Foreign Legion」

宮殿ではすっかり電気も落とされ、静かな闇だけが辺りを包んでいた。ところどころに見える警衛隊員のポストだけが、こうこうと光を放ち、そこを行き来する小銃を持った軍人だけが動きを見せていた。
彼らには宮殿の裏庭に何があるのか知らされてはいなかった。
宮殿建物の拡張計画に基づき、工事が始まった1年と半年前から、その工事がいまだに継続していると思い込んでいた。まさか、ここに世界を揺るがす新エネルギー鉱石3Xが発見され、地下ではその研究が着々と進められていることなど、彼らが知る由もない。
ただ、いつからか警備体制が上がり、増強人員による補充、警備計画の見直し、そして小銃と閃光手榴弾が携行されることになり、何かそうしなければならない理由があるのだろうとは思っていたが・・・。

暗い宮殿の建物内の、ある一室だけが電気を放っていた。
宮殿2階中央に位置するアンドレ王の居室の斜め対面(トイメン)の部屋。部屋の内部は国王の部屋ほど広く豪勢ではないが、それでもあちらこちらの装飾は、まことしやかに美しかった。広い部屋の中央に置かれたソファ それを取り巻くように本棚がめぐり、その向こうには別室になっているバスルームが見える。入り口から入って右側には、書類が散乱した机とデスクトップコンピューターが置かれていた。そのモニター画面を注視しているのはベンだ。
彼はふと、パソコンの手を止め窓に視線を向けると、閉め切られた窓のカーテンをじっと見つめていた。
そのカーテンは、深緑の光沢を放つサラの家で見たものと同じものだった・・・・。
「かれこれ7年ほどたつのか・・・ブルックナー軍曹・・」

話はかれこれ7年ほど前にさかのぼる。
その場所はフランス外人部隊 第4外人連隊 南仏カステルノダリ
小さなリュックサックだけ担いで、外人部隊のゲートをくぐるサラがいた。今まで女性の雇用軍人は存在しなかった。今回の彼女の入隊も、さんざんもめたことは言うまでもない。彼女が現れると同時に、周りにいた男達は或る者はニヤニヤして笑い、或るものは蔑んだ目つきで彼女を迎えた。しかし、感情の起伏がないといってもいいサラの表情はそんな周囲状況など、全く視線にはいっていない様子であった。

翌日には配置となった班員12人に紹介されることになった。各国から集まった猛者の前に立つよう、班長であるベンジャミン・ゴードン中尉が指示をした。彼女が全員の前に立つとベンは大声で話し出した。
「今日から正式に所属になったサラ ブルックナーだ。元SAS隊員 階級は軍曹 これから4ヶ月の新兵教育をみなと一緒に過ごすことになる。揉め事があって入隊は1週間ほど遅れたが、よろしく頼む!」
「了解ですよ〜〜」
「仲良くしましょうね!!」
まるで飢えた猛獣の中に、彼女は放り込まれたとでも言ったほうがいい・・・。無茶すぎる。女性専用の部屋もあるわけではない。バラックの一番入り口に近い場所に、ただカーテンだけで仕切られたベッドとロッカーがあるだけ・・・。
志願してきたとはいえ、それを受け入れるほうもどうかしている!!
ベンは第4連隊長に直訴した。

「大佐!何で入隊を許可したのですか!?しかもなぜわたしのところに!わたしは反対です!!いくらSAS隊員だったといっても、彼女は女です!!」
大きなテーブルの向こうには、頬のこけたやせっぽちのフランス人将校がいた。
なんとも頼りなさそうな男だが、噂では頭は切れ者との評判だった。彼は静かにこういった。
「わかっているよ、ゴードン中尉。わたしも最初は反対した。しかし、彼女のSAS時代の記録を読んだか?」
「いえ・・」
「正式な発表はされてはいないが、かなりの功績を残している。あのクイーンエリザベス女王からも、極秘に勲章を授かっているらしい・・・内容は開かされてはいないがね。」
「では、この女がただものではないと?」
「そうだ。ただものではない。それに、・・・彼女は我々の知らない戦場を幼少から体験している。」
「・・・・おもしろそうですな・・では本当に記録の通りかどうか、わたしがこの目で確かめることにしましょう。過去にもSAS隊員は腐るほど見てきた。中には途中で除隊するやつもいましたがね・・・・」
そういってベンは部屋を出て行った。

訓練が始まった。この日の訓練はキャンプを後にし、トラックで山岳地帯まで移動し、山の頂上に位置する敵陣地を攻略する訓練だった。
急勾配の山をかけ登るが、何人もの男達が途中で弱音を吐いて、頂上までたどり着くことができなかった。ペイント弾による頂上からの射撃を受け、戦死扱いになると、仲間は彼らをいったん下まで運ばなければならなかった。それの繰り返しで疲れ嘔吐してヘルメットを谷に落としてしまうものもいた。
「何をしている!!貴様、ヘルメットなしでどうやってこれから貴様の頭を守るつもりだ!!」
険しい斜面の途中にいる教官のベンががなりたてる。
そのとたん、山の頂上から射撃をされ、みな岩陰に隠れる。サラも潜みながら、時計に目をやった。時間は1600を指している。夕日が傾き山の下に見える川が、よりいっそうキラキラ輝いてみえた。
「あと1時間で攻略しなかったら、お前たちの作戦は失敗だ!このへぼ野郎ども!!」
「ちくしょう!こういうときは空軍にお願いして、空から支援してくれるもんじゃないのか!!」
「それか、高射砲と歩兵のセットで戦うもんだぜ!くだらなすぎる!!」
彼らがそういうのは無理もない。通常ならば、榴弾砲、迫撃砲等の支援または空からの援護射撃もあるのが普通だ。距離を計測して歩兵がいる場所に当たらないように、遠くから砲弾を撃ち込む。その間は敵からの射撃はできないから、じわりじわりと、敵陣地へ匍匐して近づくのだ。
日露戦争203高地攻略では、ドイツ式戦法を学んだ、陸軍大将児玉源太郎がこの作戦で成功を収めている。それまで突撃作戦一辺倒で、多数の多くの日本人が無駄死にした。ただ腕力や精神力・・といったものだけでは戦には勝てず、そこに戦略という知恵を持たねば、勝つことができないということを学んだわけである。

サラは急に緑の戦闘服を脱ぎだした。バッグの中から銀色に輝く防寒毛布を、下着姿だけになった体に羽織ると、全部の装具をそこに置き、小銃と手榴弾のみ持ち、また時計を見た。
そばにいた男が、ごくりと生唾を飲み込むと、毛布から出ている白い足につい触ろうと手を伸ばした。
「私が飛び出したら援護してくれ。」
「!!わ・・・わかった・・・え?逆じゃねえの?ブルックナー軍曹がおとりなんじゃ・・・」慌てて離れたところにいる仲間に手合図を送ったその男は、もう少しで生足に触れたのにできなかったことを悔やんでいた。こんなときにでもそんな事を考えてしまうものなのか・・・。戦場でもそうなのか???
ゆっくり太陽が西の方角に傾いていった。厳しい西日が川面に反射してまぶしい。
「行くわよ!」
一斉に射撃をしだす仲間達 サラは身軽に岩山を駆け上がっていった。
「スコープが使えねえ。下の川が乱反射してやがる!」
「見えなくったって大丈夫さ、どうせここには来れないよ」
川面に反射した太陽光が、頂上にいた隊員たちの視力を奪った。そういった瞬間、手榴弾が投げ込まる・・・・・、といっても本物ではない。小麦粉の白い粉をティッシュでまいた偽手榴弾が舞散り、二人とも粉をかぶって呆然としていた・・・・。そんな白煙の中にサラは現れ、二人に銃を突きつけた。
「お・・・お前は・・」
「ジロジロみるんじゃないよ。」やっとの思いで頂上に駆け上った同僚たちは、一斉に大喜びし、ガッツポーズをしてみせた。
「時間内に攻略したぜ!!サラ!!」そういって彼女を抱きしめると、サラは笑いもせず思いっきり彼を突き飛ばした。その様子を双眼鏡で見ていたベンが現れ、彼は黙って自分のBDU(戦闘作業服Battle Dress Uniform)を脱ぐと、それをサラの肩に羽織った。
「とりあえず・・服を着ろ」

『確かにあの頃、お前の輝かしい記録を信じていなかったな・・ただ女っていうだけで・・。』
ベンは外人部隊を理由があって除隊したあと、フォイオンの宮内庁に雇われた。普段なら自分のような外国人に、王の側近を任せることはないのが普通だ。しかし外人部隊という場所は、雇われ兵士の集まり。金のいいほうへ雇われるのは当たり前。時として昔の戦友が、今は敵ということもありうる。
いわば、彼はフォイオンに雇われた雇用軍人だ。
彼は机の上にあった写真立てに目をやった。それはサラの家にもあったものと同じ写真。それを手に取り眺めた。

ふと、その隣にある紙面を見つめたベン 表情が一瞬にして変わっていった。
「マシュー・ロドリゲス・・・ジョルジュ・トウエイン・・・まさかこの二人・・・」
入国管理局からのリポートに記された二人の男の名前と写真をみて、愕然とするベン・・・。
「この男達は危険だ・・・」

アメリカ合衆国オハイオ州 自宅の机に足を投げ出し、彼女の目はベンと同じく、パソコン画面を注視していた。コンピューターIP電話回線を通じて流れてくるその音声は、フランスにいるホウィ・ラマルクの声だ。女性問題の多い男だが、情報屋としては1流だ。
「その情報は確か?Howie(ホウィ)」
「間違いないね、マシューとジョルジュは3日前にフランスから出国してる。やつらのことだ・・何をしでかすかわからんぜ」
「そうね・・・」
「サラ、行くんだったら俺も行くぜ!シャルルで待ってる!」
シャルルというのはフランスの玄関口シャルルドゴール空港のことだ。
「心強いわ。ありがとう」
そういって電話が切れると、しばし呆然とパソコン画面を見つめていたサラだった。
翌日の早朝 少ない荷物をまとめて家を出る彼女の姿が見えた。
彼女の手はベンからもらった携帯を、握り締めていた。


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