癌の手術が今の生活に関係している事はないはず。 ただ、おっさんは すっかり変わってしまった。 要するに男が仕事を無くすと、廃人に近いものがある。 積極的に仕事に就こうという意欲は見られない。ただ言い訳しながらだらだらと過ごす日々。昔のあの勢いはどこへ行ったのかと思うし、同一人物には思えない。 わが亭主ながら、こんな姿は正視出来ない。
徐々におかしな行動が見え始めた。 焼酎を飲みながらダイニングの椅子に座ったまま漏らした、と言うより完全に出てしまったのだ。しかしそれに気付かずに居る。 立ち上がったときにはふらついて歩けずにこけた。頭を打って、首筋に血が流れていても気がつかない。 トイレから出て来てまたこけた。
「あんた! 出てるでぇ〜オシッコ出てる! お尻がベタベタやん、気がつかんの? 頭からも血が出てる。ここまで垂れてるやん! どうなん?」
「何がやぁぁ! うるさい! 何にも出とらんわ!」
ああぁ、ついに、ついにボケたか… これは酒の精と思う。 若い時のように身体が酒を受け付けなくなってるし、酒が弱くなってるのは確かだ。
「もう明日から、一滴も飲んだらあかん! こんなになっても正気やと言い切るか! 自分のしてる事が分かってるのか? 酒の精やで、こんなになるのは。病院行こ! 診てもらお」
椅子に座ったまま、出てしまったのは2回。 痴呆が出てきたかも知れない不安が襲う。 酒さえ飲まなければ…壊れて話の通じないおっさんにストレスが溜まる。
酒で壊れてしまうなら、飲まさなければいい。 分かっていても私には禁酒を強要する事が出来ない。 家で完全に酒を取り上げると、外で飲むのは目に見えている。 が、飲む量はかなり少なくなった。 すべて酒の精とは思わないけれど、おっさんが徐々に壊れていくのを感じる。 無気力で、生産性がなく活気のない姿に『老人』を感じる。 覇気のない姿を見るのは辛い。かつてのバリバリ働いている姿がやけに懐かしい。
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