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作品名:もう・・笑うしかない 作者:ののはな

第85回   思うに私は… ・そのT
 過去の記憶は時々に薄れていたり、強烈過ぎて忘れる事が出来なかったり、許せたり
許せなかったりするものだ。
おっさんのした事のすべてが許せないと、かたくなに思い続けたのは何故かと考えてみるのに、思い当たる事はただ一つ、言葉足らずであると言う事。
おっさんは決して無口ではない。口八丁なくせに私への言葉が足らないのだ。
相手を思いやったら、自然と言葉は出てくるし、理解してもらおうと努力する。

 おっさんの場合、全部を省略するからややこしくなる。
こんな気持のすれ違いが、溝を大きくしてしまうのだ。
寄り添って老後を送りたいなら、それまでの長い年月を、信頼で結びつけておかないと
『今更何よ』と嫁さんの反逆に合う。
私はまさに今、その反逆をしようと考えていた。
歳をとれば女の方が断然強くなる。おっさんは私の影のようなもの。

 今までにどんな結婚生活を送って来たかで老後は決まる。
私の気持ちの中では、もう切り捨てたも同然のおっさんが癌に罹ったと言う事は、
私にはまだ続きの物語が待っている訳で、終身の足カセをはめられた気がした。

 この男は、子供や孫達からは悪く言われることも無く、むしろ周りの者からは温かさを感じる。
こういう人間って居るんだよね。憎まれないヤツって。
面白くない私は、おっさんにとことん意地悪をし尽くしたい心境である。
そうした所で何も解消されないし、疲れるだけなのは分かっている。
長年の鬱積はそう簡単には拭えない。
 離婚の勇気も無かった自分自身の弱さと、おっさんの上にあぐらをかいてきた自分への苛立ちが、おっさんの行動や言葉に針を刺したくなる。
立場が逆転した夫婦関係もまた面白い。


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