さて、モモは日に日に弱っていき、食欲もなくただ無言で横たわっているだけだった。 回復しないと分かって看ているのはとても辛い。 床ずれが出来て皮膚に穴が開き、骨が見えるまでにひどい状態になった。 一日に数回患部を消毒して薬を塗りガーゼを当てる。 腐らないように、蛆が湧かないように、先生はそれだけを注意するように言われた。 毛の色も変わり抜けて まだらになった顔や身体。それに匂いもひどくなってきた。 鳴く訳でもなく、うめき声をあげる訳でもなく、目を見開いて同じ態勢で寝ている。
死へ向かっているモモを 抱いてやるしか出来ない介護だった。 最後がいつ来てもいいように、ひたすら抱いてやった。 抱いてやると安心したように穏やかに見えた。 腕の中で最期を迎えてくれたらと願った。
この夜、ひょっとしたら、今晩が最後かも知れないと感じた。 おっさんに「もう今夜が最後の気がする。よう見ておいてやって」と言うと
「モモ、よう頑張ったなぁ…」元気な時の朝の散歩係のおっさんが言った。
私は「おまえはしっかり生きたんだから、もうランのところへ行ったらいいんだよ。 もう頑張らなくてもいいからね…早く行きなさい。長い間ありがとうね…」
こう語りかけて顔を撫でて、足をさすってやり、後を惹かれる思いで2階へ上がった。 私は疲れきっていて、頭痛の前兆もあったし、その夜はベッドで寝たかった。 果たして、辛かったのはモモの方なのか私の方なのか。
「ラン、もう迎えに来てやって、早くモモを連れて行って」と声に出して言う。
翌朝、昨夜と変わらない寝姿ではあったけど逝った直後だった。 身体にはまだ、ぬくもりがあった。 寝たきりになって70日間。15歳の誕生日を2週間後に控えたお盆に逝ってしまった。 先に亡くなったランが迎えに来てくれたと思った。
もう頑張らなくていいよ、虹の橋へおいでとばかりに…… それは8月13日の早朝だった。
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