癌患者を抱えて、こんな家族あり得ない。一度も深刻にならなかった。 当の本人のおっさんが元気である事と、経過が良かった事が私達の気持ちをハイにさせたのだと思う。 仮に数年後に再発したとしても、その時はその時である。 保険もずっと有効なわけだから治療費に困ることは無いと思う。
おっさんの手は大きくて指も長い。失くした親指は5センチはあったと思われる。 それが無いばかりに、かなり不自由を強いられている。 先ず小袋の醤油や辛子類は絶対に切れない。これは普通でもイライラするシロモノだ。 最初はシャツのボタンを留めてくれだとか、紐を結んでくれだとかいろいろと面倒な事をぬかして来た。
「あたしはその辺の優しい奥様じゃないんやし、リハビリやと思って自分でしろ!」
ときつく言ってしまう。
義肢の事も考えれみたけれど、そこまでしなくてもその内慣れる。 おっさんは障害者として認めてもらおうと、病院で聞いてみたらしい。 けれど、指一本では障害者としての申請は出来ないと言われた。 ふん、今になって何を弱そうな事を… 腕一本失くしたってあんたは平気に見えるわ。
小さくなった親指を孫が撫でるようにして障る。
「可愛い親指やわぁ、つるつるして気持ちいいわぁ」と言って障っている。
おっさんにとって、今回の癌による親指切断は、今までに交通違反を起こしたと同じ程度のアクシデントに過ぎない受け止め方で、これくらいで人生観が変わるようなヤツじゃなかった。 並みの神経を持ち合わせていないか、癌という病気を理解していないかのどちらかである。
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