商売が下り坂になり始めた頃に娘家族をまる抱えした事で、一気に加速が進むのは 目に見えていた。 商売は縮小気味ではあったが、何とか続いていた。 私をはじめ、おっさんも多少楽天的なところがある。 さほど深刻にもならず、逆に娘達が中和剤になり、おっさんは家に帰る事が当たり前になって来た。 おかしなもので、そうなればなったでそれが自然な事に思える。 キツネとタヌキのだまし合いが始まった。
商売や経理に関わりを持たない私は、おっさんからのお手当てがすべてであるし おっさんの年商がどれだけなのか 知ろうともしなかったし、知りたいと思わなかった。 ただ、一度だけ
「おまえはアホじゃ、もっとわしにうまい事言う口があったら もっともっと金が手に入ったのになぁ、残念な事やのぉ」
……なんと言う侮辱!なんと言う言われ方。 おっさんの本性を見た気がした。 私達は夫婦としてはもうとっくに終わっていた。 長い結婚生活の間に、私はもう、おっさんに対して信頼も絆も何もかも失った。 ウソツキで誠意のない男……最低!
ただ 生きていくためには、お金だけが頼りだった。 今後は取れるだけ取ってやろうと決めた。 家族ごっこをしながら、今度は私がウソツキになって徹底して冷たくあしらってやる。 商売がどんなになっても、お金だけは取ってやる。 精神的に強くなったのは、娘のお陰。 娘も楽天家でプラスのん気な性格が私を助けるいい役割りを果たしている。
商売がいつまで続くか解らない状況になっても、終わりをいつと決める事は出来ない。 トロトロと坂道を下り出した時、おっさんは婿の勤め先を探して来た。 商売の厳しさに直面した事はいい勉強になったはず。 妻や幼い子を抱えて冒険するのは、無謀と言うもの。 マンションを買うときの判断も、転職する時の判断も甘すぎた。 婿には言いたい事はいっぱいあったけれど、私が言わずとも十分に分かったはずだ。
おっさんはもう少し、一人でやってみようと思ったらしい。 相変わらず何も話さないので、働け! 働け! と、無言で尻を叩いてやった。
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