私は娘と孫が近くに住んでくれるだけで単純に嬉しかった。 果たして給料が出せるのか私の知ったこっちゃない。 愛人と手を切ればいいじゃないか。 娘婿が仕事に加わる事で何が変わるのか、新しい風が吹くのだろうか。 婿の手前、さすが愛人宅には行けなくなった様で、ほとんど同時に帰ってくる。
まだ娘達の住む家が探せていないので、しばらくはこの家に居候をしていた。 おっさんにしてみれば、この家に帰って来るいいきっかけになったかも知れない。 そのうち、こんな規則正しい生活に飽きるとは思うけど。
毎晩毎晩お酒を飲んでいるおっさんは、また同じ急性膵炎で入院した。 まさか今度は、愛人は関係ないと思っていたが、デジャブのような感覚に襲われた。 娘と病院に行った時、ついに ついにバッタリと顔を合わせてしまった。 当たり前だけど、挨拶するでもなく なんとなく見つめてそれからお互いに顔を反らせた。 愛人はすぐに帰って行った。 娘は始めて見る父親の愛人をどんな思いで見たのか。
「ライオンやない! あれはどう見ても『カバゴリラ』やわ、悪趣味やなぁ」
と、ケラケラ笑った。
「カバとゴリラが合体して、それってどんな顔? ちょっとひどいやないのぉ」
二人して声を殺して大笑いした。 二週間の入院で『カバゴリラ』と顔を合わせたのは一回きりだった。
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