もうこの時は何の感情も湧いて来なかった。 娘夫婦や息子も帰省していつも通りの年末年始である。 奇妙な“家族ごっこ” のお正月ではあった。
おっさんは お正月の1日から、新調したスーツに身を包んで出掛けて行った。 街の見回りと称して、綺麗なおねえさん達の居る界隈へ出向いて行く。 お正月の間は、1万円の新札をドサッと財布に入れ、夜の花街へと向かう。 我が家のバブル時代が続いている間は恒例にしていた。 いつも飲みに行くお店の子にお年玉をやりに行くおっさんを、冷ややかに見ていた。
「うちの家って、外から見たら普通の と言うより、綺麗な庭に花いっぱいで、それなりの家に住んで、幸せな家庭に見えるやろうね。まさか、父さんが あれこれ問題を抱えた訳あり家族とは思えんわぁ」
と娘が言った。
娘は自分の子供時代に父親の存在を感じた事がないと言う。 親しく喋る事も出来なかったし、普通に会話が出来るようになったのは結婚してから だと言った。 好きでもなければ、嫌いでもない。そんな程度の父娘関係である。
息子は小さい頃から、父親にどこへでも連れて行ってもらい、行動を共にして色んな事を教わったそうだ。 なので大人になっても父親への思いは特別なようだ。 息子がこの家へ連れてくる友達は酒好きで、海や釣りなどが好きな者ばかりで、おっさんともよく気が合った。 息子の友達はおっさんを慕って遊びに来たし、キャンプなども誘われたりしていた。 子供達から見れば、特に悪い父親ではないのだ。
私にかけた迷惑やさまざまな出来事は、あくまでも私だけのものなのだろう。 深刻になればなるほど、私が異常に見える。 次は何?……来てみろ! 今度は何が起きる? 手ぐすね引いて待っていてやる!
おっさん、とことん付き合ってやろうやないか。 私はこう見えても いざとなったら度胸はある。
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