愛人の出現でいくら腹が立っても、入院中のおっさんを放っておく訳にもいかず それと愛人に任せる訳にもいかず、苦しい思いを抱きながら、最初は2日に一度、それから5日に一度、最後は週に一度の見舞いになった。 見舞いなんて、そんな気の利いたたものではなく、着替えを持って行くだけの通院だ。 病室に入って、おっさんの顔を見ても、笑顔など出る訳も無く、必要な事だけ話してすぐに帰るのが常だった。 いつ行っても見舞い客が居た。 商売柄、仕事関係の人がほとんどだった。 ライオンもしょっちゅう来ていたが、顔を合わす事はなかった。 来ているのは分かっていた。どういう事か私が来たのをどこからか見ているかのように 私は姿を見たことが無い。 しかし、ベッドの上に無造作に置かれたブランド物のバックや香水の匂い、派手で大きな花束などはまさしくライオンの匂いだ。 姿を見せずに、どこからか私を伺っているのが滑稽ではあった。
娘夫婦が見舞いがてら帰って来た時、救急で入院に至った細かな様子は伝えた。 二人でいつの間にか愛人を『ライオン』と呼び、ライオンの話で盛り上がっては爆笑した。 年齢不詳の愛人は私より上にも見えるし下にも見える。 おっさんのスーツやネクタイ、持ち物の趣味が 愛人の好みなのだと分かった。 背が高くて細身のおっさんは、昔からスーツが良く似合っていた。 そのスーツが高級になって、更に商売がうまく行っている精なのか、人間は環境で変わるものなんだとつくづく思った。
娘や息子達と外食すると時、おっさんとの待ち合わせ場所はいつも決まった所で、そこで合流して一台の車に乗って食事に行く。 そんなパターンがいつの間にか出来上がっていた。 どこでなのか作業着からスーツに着替えてコロンの匂いをさせて、さっそうと車に乗って来る。 後で分かった事に、その待ち合わせ場所に近い所に愛人の家があったのだ。
|
|