それは当直医からの電話だった。
「○○さんの奥様ですか?」
「はい、そうですが……」
「先程 救急車で運ばれて来て、一応の処置は済ませたんですが……」
「何でしょうか、事故ですか?」
「いいえ、急性膵炎なんですが、奥様にお話しするべきだと思うので、連絡させてもらったんです。入院になりますから、保険証と日用品や、着替えなどを持って来て下さい。詳しく病状の説明などしたいものですから」
誰かが救急車を呼んでくれたのだろうか、どこで具合が悪くなったのだろう などと考えながら入院に必要なものを大きな袋に詰め込んで急いで飛んで行った。
あ・あ・あぁ…… ギョッとした…… ベッドの脇にいる女の姿は! こ、こいつが愛人かぁ。 第一印象は『ライオン』 髪の毛が赤茶でソバージュ、そのボリューム感と、アイメイクばっちりの目力がライオンそのものだった。 こんな時間にも関わらずメイクが決まっていた。 私とはまったく正反対で、派手でバリバリのやり手な匂いが ぷんぷんする。 おっさんは愛人宅で具合が悪くなり、愛人と一緒に救急車で来たのだ。 一瞬言葉が出なかった。 冷静に、冷静にと言い聞かせながら やっと出た言葉が
「ありがとうございました、入院用品を持って来ましたので、もう帰っていただいて結構ですから、お世話様でした」
と一応頭を下げた。
「入院のために必要なものは揃ってます! 奥さんが遅いのでもう来られないと思ってこれ全部私がもう一回 家に帰って持って来たんですよ!」
「先生から連絡いただいて、すぐに飛んで来たんですけどね」
と言った後、私が袋から荷物を出していると、さらにきつめの言葉が飛んで来た。
「同じ様なものがいっぱいあってもしょうがないでしょ!」
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